2016/12/15 07:46

頭の中はいつもヴェルディ/編集長のコラム Vol.10

次世代を担う若者たちにエスコートされて行進する日系退役軍人たち(LAのメモリアル・デーのイヴェントで) ⒸAgrospacia

頭の中はいつもヴェルディ/編集長のコラム Vol.10
真珠湾攻撃・日米開戦から75年めの12月を迎えて

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 日米開戦から75周年を数える今年(2016年)、長らく進展を見せていない北方四島問題を解決して平和条約を締結するという、日ソ共同宣言以来の日本の悲願達成への期待が高まり、北方領土に関するニュースが急に増えた。その中で、戦前の四島の日本人の人口の合計がおよそ17,000人だったことを知り、その人数が思いがけなく少ないことに驚いた。一方、日米開戦時、「敵性外国人とその子孫」と認定されて強制収容所に送られた日本出身の米国定住者、その子弟であるアメリカ生まれの日系アメリカ人の数は12万人だった。しかも、この数の中には、ごく一部の日系人にしか強制収容が行われなかったハワイ、及び、中西部以東に住む日系アメリカ人の数は入っていない。収容された日系アメリカ人の数は、なんと、北方四島の人口のざっと7倍であることに改めて驚きを禁じ得ない。
 日本政府は戦後70年を経て、17,000人の北方四島の返還にこだわっているが、これはかつての島民たちの帰島への思いを慮ってということなどではなく、かつての領土を取り戻したいという国家としての見栄と、領土を少しでも拡大することでついてくるはずの資源獲得を願ってのことだろう。北方四島で生活を営んでいた全人口の7倍もの日系アメリカ人が強制収容所へ送られることになった原因は、日米が戦争状態になったことであり、そのきっかけは、旧日本軍による真珠湾への奇襲攻撃だった。17,000人の島民の子孫のために北方領土の返還交渉を諦めない日本政府だが、12万人もの日系アメリカ人が社会的地位や財産を失うこととなった原因が日本側にあることについて、政府を代表する誰かが謝罪をしたことが一度でもあっただろうか?

Photo:取材させて頂いたトクジ・ヨシハシ(後方)さん ⒸAgrospacia

 そんなシンプルな疑問をここ何年もの間持ち続けてきた筆者は、『真珠湾攻撃:日米開戦から75周年を前に思うこと…日系アメリカ人にとっての“with liberty and justice for all”』と題し、Vol.1日系アメリカ人のお爺ちゃんたちが闘った第二次世界大戦Vol.2“Go for Broke”は自由と市民としての権利を脅かされることがあってはならないという教訓Vol.3全米日系人博物館/Japanese American National Museumから考える第二次世界大戦・・・の3編をパールハーバー・メモリアルの週に公開した。安倍首相が12月末にオバマ大統領と共に真珠湾を訪れる際、一言でも日系アメリカ人の受難について触れるかどうか、私は注目している。真珠湾攻撃が行われた12月7日(現地時間)には、まだ大規模な排斥は起きておらず、ハワイ・ナショナル・ガードとして軍務についていた日系の若者たちもいたのだ。
 ”with liberty and justice for all”とは、アメリカ市民なら誰もが記憶している「国旗への忠誠の誓い」の結びの言葉であり、即ち、アメリカ市民は合衆国への忠誠を誓う限り、自由と正義は保証されるべきものという意味である。しかしながら、真珠湾攻撃の後、日系アメリカ人は、日本人の末裔であるという理由のみによって、この市民としての権利を否定されることになった。日本が始めた戦争によって、12万人ものアメリカ人が、彼らが生まれ、暮らした国の市民としての当然の権利を否定されることになったことに、日本は何の責任もないのだろうか? もしや、日本、あるいは、日本人は「日系人なのだから、日本を許してくれて当たり前だろう」と考えてきたのではないだろうか? しかし、彼らはアメリカ人であって、日本人ではないのだ。戦後70年、北方領土の返還を悲願と訴え続けるのなら、ぜひこの機会に、何の罪もなかったにもかかわらず、日本人を祖先に持つという理由で強制収容所に送られることになった日系アメリカ人の存在について、また、彼らにとって日本とは何だったのかについて、考えて欲しいと思う。
 学生時代から多くの日系アメリカ人と接してきて、第二次大戦に関する旧・日本帝国の負の情報・・・たとえば従軍慰安婦などについて話題に上る時、「きっと侵略した先の国から女性をさらって行って酷いことを強いたのでしょう。だって、日本人ですよ。どんな酷いことをしても驚くことはないでしょう」といった反応をされるたび、彼らの心の中の「日本人のイメージ」がどのようなものであるか、その都度、複雑な思いを抱いてきた。それは、今、日本に来て働いている日系アメリカ人女性たちが「日本人男性は、イメージどおりに女性、特に日系アメリカ人である自分たちを含むアジア系の女性を蔑視している」と繰り返し主張し、その都度同意を求められることと同様に、私にとっては辛く、悲しいことである。
 『アグロスパシア』では、日系アメリカ人の強制収容を指示したフランクリン・D・ルーズヴェルトによる大統領令発布から75周年にあたる2017年を通じて、アメリカへの日本からの移民の歴史、彼らが体験したこと、第二次大戦中の自由への闘い、そして戦後のアメリカ・メインストリーム社会における活躍について連載を継続する予定だ。取材して欲しいテーマ、事件、人物、また、先祖や親戚などで過去にアメリカで活躍された方について調査して欲しいなどのご要望があればできるだけ対応したいので、連絡を寄せて頂ければ幸いだ。ワシントンDCの公文書館において、及び、各地の公文書の調査・検証も予定している。

※日系アメリカ人についてのリサーチ・プロジェクトは2016年、匿名による取材費のご寄付によってスタートしました。今後、全米各地への取材を継続してゆくため、さらなる取材費が必要となります。特定テーマや人物についての調査をご希望の方は、info@agrospacia.comまでご相談下さい。また、プロジェクトを応援して下さる方は下記の銀行口座まで、ご寄付をよろしくお願い致します。合衆国にお住いでドルでの寄付を希望される場合は、別途、ドル建の口座をご案内致しますのでお問い合わせ下さい。このプロジェクトに特定した広告も歓迎します!

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