2013/11/15 12:00

第5回 京都ヒストリカ国際映画祭……”ヒストリカ”ってなに? 
カウントダウン特集 III

Photo: 白川にかかる祇園巽橋 Ⓒ加藤 舞(かとう・まい)

第5回 京都ヒストリカ国際映画祭……”ヒストリカ”でこの映画を見よう!
カウントダウン特集 Ⅲ

by 加藤 舞(かとう・まい)/京都ヒストリカ国際映画祭 作品担当

「京都ヒストリカ国際映画祭」カウントダウン特集も、今回でついに第3回目となりました。第1回目の「”ヒストリカ”ってなに?」、第2回目の「”ヒストリカ”のツボ」に引き続き、今回は「”ヒストリカ”でこの映画を見よう!」と題して、世界の最新歴史映画がズラリと並んだ【ヒストリカ・ワールド】部門から3作品にスポットライトを当ててご紹介していきます。

『ピー・マーク』(タイ/2013年/113分/Pee Mak)

Photo:『ピー・マーク』
Ⓒ 2013 Gmm Tai Hub Co., Ltd. All Right Reserved.

 さて、まずはタイのホラーコメディ『ピー・マーク』(2013年)から。タイの超人気若手俳優マリオ・マウラーが主演し(昨年度の京都ヒストリカ国際映画祭で日本初上映した『ウモーン・パー・ムアン - 羅生門』でも主役の僧侶を演じていました)、本国の歴代興行記録を更新するほどのメガヒットとなったこの作品。最初から最後まで、もうとにかく笑いが止まりません…。なんせホラーと聞いていたので「夜中のほうが雰囲気出るかな」と、午前2時頃から作品選定のために暗い部屋で独りこの映画を見始めたのですが、それはもう眠気が吹っ飛ぶほど可笑しくて、涙を流しながら笑い続ける羽目になったのでした。

この映画を見るための予備知識として頭の中にあったのは、タイで何度も映画化されている有名な怪談「プラカノーンのメー・ナーク」を基にしたホラーコメディ、ということくらいでした。タイを舞台にした民話と文化、タイ語の台詞…なのに全く違和感がなく、まるで吸い込まれるように作品の世界観に夢中になって楽しむことができる。これぞ、映画の持つ「普遍性」の力だとつくづく実感させられる一作です。

ちなみに、ゲストとして来日しトークショーにも参加するバンジョン・ピサンタナクーン監督は、なんと驚くことにまだ30代! 彼はここ数年ヒット作を立て続けに生み出しており、世界中で注目を集めている新進気鋭の若手映画人です。

実はこの『ピー・マーク』、選考段階で日本国内の他の映画祭で上映されることが判っていたのですが、それでも京都ヒストリカ国際映画祭での上映を諦めたくなかった― そのくらい傑出した作品です。笑い泣きに備えて、ハンカチをお忘れなく!

【作品情報】
■ http://www.historica-kyoto.com/films/world1/
【上映情報】
■ 12月1日(日)17:00~ 於)京都文化博物館
■ 12月7日(土)17:00~ 於)京都文化博物館 ※上映後トークあり

『ジャッジ・アーチャー』(中国/2012年/94分/Judge Archer)

Photo:『ジャッジ・アーチャー』(Golden Network Asia Limited提供)

 続いて、日本初上映となる中国の武侠映画『ジャッジ・アーチャー』(2012年)をご紹介します。前回の記事でも少し触れましたが、この作品のシュ・ハオフォン監督は非常にユニークな経歴の持ち主です。名門の北京電影学院監督科を卒業し、ウォン・カーウァイ監督と一緒に仕事をしていると聞けば、ずっと映画一筋で生きてきた方のように思えます。しかし実際は、北京電影学院卒業後8年間にわたり武道・道教・仏教を独学し、武侠小説家として成功を収めたあとに、今こうして映画監督として活躍している方なのです。

この『ジャッジ・アーチャー』、作品選定で見たときの第一印象は「…(沈黙)…こんな映画見たことないよ!」でした。映画のスタイルはどこかシュールでアヴァンギャルドなのに、武術に対する姿勢がものすごくストイックで保守的に感じ、そのギャップにまんまと混乱。作品のみどころに書かれているように「清順やブニュエル、ホークスといった映画監督たちを想起する」と言われると、「ああ、そういうことか」妙に納得してしまうわけです。映画人であると同時に、武術のマスターでもあるシュ監督が撮りたいのは、「従来の武侠映画へのアンチテーゼ」なのかもしれません。何度も見て味を噛み締めたくなる作品なのですが、今回は映画祭初日11月30日(土)に1回のみの限定上映となっています。この機会を逃すと、なかなか日本の映画館で見ることはできません。

『ジャッジ・アーチャー』のような稀有な歴史映画を見ていただける機会を提供することが、まさに京都ヒストリカ国際映画祭の使命のひとつでもあったりします。この作品特有のカオスを楽しみたい方は予備知識をあまり入れずに、作品の内容を噛み締めたい方は作品情報のあらすじをじっくりとお読みいただいてからご鑑賞ください。

【作品情報】
■ http://www.historica-kyoto.com/films/world7/
【上映情報】
■ 11月30日(土)19:30~ 於)T・ジョイ ※上映後トークあり

『ハックルベリー・フィンの冒険』(ドイツ/2012年/100分/The Adventures of Huck Finn)

Photo:『ハックルベリー・フィンの冒険』©Majestic / Tom Trambow

 そして今回最後にご紹介するのは、これまた日本初上映となるドイツ映画『ハックルベリー・フィンの冒険』(2012年)。昨年度の京都ヒストリカ国際映画祭で上映した『トム・ソーヤー』(2011年)の続編であり、監督もメインキャストも同じ顔ぶれです。

世界中でよく知られるアメリカの児童文学をドイツで実写化したこの作品、台詞も全てドイツ語なのに、不思議と全く違和感がない!その理由は、ずば抜けて高い作品のクオリティ。差別や虐待といった現在にも通じる重いテーマへのメッセージ性を残したまま、観客が安心して世界観に入り込みハラハラドキドキ楽しむことができる作品の組み立て方が、さすがです。

『ハックルベリー・フィンの冒険』の一番の魅力はやはり、お子様だけでなく大人も十分に楽しめること。実は昨年度の上映でも、『トム・ソーヤー』が一番面白かったと言ってくださる大人のお客様が何人もいらっしゃいました。そして今回の『ハックルベリー・フィンの冒険』もその期待を裏切らず、見応えたっぷり。一方でお子様には、アドベンチャー作品として思いっきり楽しんでいただけるかと思います。吹き替えではなく字幕なので(ごめんなさい!)、小さなお子様に見ていただくのは少しきびしいかもしれませんが、難しい漢字にはふりがなも振ってありますので、お子様の初めての映画体験にもオススメできる作品です。

ところでみなさん、『トム・ソーヤー』や『ハックルベリー・フィンの冒険』がどのようなストーリーだったか覚えていますか?タイトルやキャラクターの名前は知っているけれど、意外とストーリーを詳しく知らなかったり、覚えていなかったりする方も多いのではないでしょうか?実は恥ずかしながら筆者もその一人でして、『トム・ソーヤー』や『ハックルベリー・フィンの冒険』を見て「ほほう、そういう話だったのか!」と知り、先日某テーマパークに行った際に、トムソーヤー島のいかだとマークトウェイン号に大興奮でした。隣にいた小学生の姪に必死で物語を説明したのですが、残念ながら全く伝わっている様子はなく…。映画ほど、トムとハックの冒険を饒舌には語れないものですね。

ちなみにこの『ハックルベリー・フィンの冒険』は、『トム・ソーヤー』を見ていない方でも十分お楽しみいただけます。こちらも今回の上映を逃すと、なかなか日本で見ることはできませんので、お見逃しなく!

【作品情報】
■ http://www.historica-kyoto.com/films/world8/
【上映情報】
■ 12月1日(日)11:00~ 於)京都文化博物館
■ 12月5日(木)13:30~ 於)京都文化博物館

今回は3作品をご紹介しましたが、もちろん4部門18作品・全ての映画がオススメです!ラインナップは公式ホームページでチェックしてください。お得な前売券はe+(イープラス)等にて販売中です。第5回京都ヒストリカ国際映画祭カウントダウン特集は、次回でラスト!では、また来週お会いしましょう。

PROFILE

第5回京都ヒストリカ国際映画祭

[The 5th Kyoto HISTORICA International Film Festival]

世界でただひとつ「歴史」をテーマにした国際映画祭。第5回目となる今年度は、京都・太秦の撮影所で製作されたお正月映画をひと足先に楽しめる【ヒストリカ・スペシャル】、変化の中にある世界中の歴史映画最新作を集めた【ヒストリカ・ワールド】、アニメが拓く歴史映画の楽しさを紹介する【ヒストリカ・アニメ】、デジタル復元で甦った映画史を埋める幻の名作が並んだ【ヒストリカ・クラシックス】の全4部門18作品を上映。

期間:2013年11月30日(土)~12月8日(日)
上映会場:京都文化博物館、T・ジョイ京都、MOVIX京都
URL:http://www.historica-kyoto.com/