2013/05/08 12:00

頭の中はいつもVerdi Vol.1

Photo:香港市内の風景。車から乗り出すチャウチャウ Ⓒ Mai Kato

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 ヴェルディとは・・・ジュゼッペ・ヴェルディ。『椿姫』や『アイーダ』などのオペラ作品で知られる、かの著名なイタリアの作曲家のことです。なぜ、『頭の中はいつもヴェルディ』なのかというと、このコラムのタイトルを何にしようかと考えていた矢先、たまたまTVで映画『テルマエ・ロマエ』をやっていて、ところどころで鳴り響く『アイーダ』のマーチが頭にこびりついて耳から離れなくなってしまい・・・「うん、そういうことにしよう」と思って『頭の中はいつもヴェルディ』というタイトルに決めました。
 特に深い意味はないのですが、ヴェルディは、日本人の好きなマーチの名手であり、なんだか偉そう、かつ、元気が出る曲が多いので、今のように明るい話題が少ない日本を鼓舞する上では、これほどぴったりの作曲家もいないのではと思います。


 3月中旬にAGROSPACIAをローンチさせ、月一本のフィーチャー記事を、細々とですが、着実に更新してきて、間もなく約2ヶ月が過ぎようとしています。今までのところ、カリフォルニアでオーガニックの美味しい豆腐を作っているホードー・ソーイ・ビーナリーCEOのツァイさん、そして、香港国際映画祭でエグゼクティヴ・ディレクターとして辣腕を振るうロジャー・ガルシアさんと、英語圏で教育を受けた二人のアジア系エリートとお会いして、刺激的なお話をうかがうことができました。
 なかでも印象的だったのは、ツァイさんが「アメリカの社会で仕事をしようと思ったら、アジア系に出世を妨げるガラスの天井があるなんていう言い訳は、もはや通用しないと思う」と言っておられたこと。大手金融機関で将来を嘱望されていたツァイさんは、そのまま金融マンとして働き続け、トップまで上り詰めることもできたと思われますが、ある年のクリスマス、家族の元へ帰ろうともせず、次のプロジェクトでどれだけ儲かるかしか考えない上司の姿を見て、「こんなの間違っている」と強く思ったのだそうです。そして、「人に喜んでもらえるプロダクトを作って、自分も楽しく仕事ができ、社会の役にも立つようなことがしたい」と考え、まだヴェトナムで暮らしていた幼い頃、祖父に手を引かれて毎朝買いに行った豆腐の味をカリフォルニアで再現しようと決意したとのこと。
 そのために、彼は日本にやってきて、全国の豆腐を食べまくり、水と大豆の相性を研究し尽くし、同時にビジネスとしての体制を整えるためには、今までの金融の知識と人脈をフル稼働してホードーを立ち上げました。
 ツァイさんとは、すでに3回ほどお会いしましたが、いつも穏やかな笑顔で、もちろん彼の「手作り豆腐」の素晴らしさは、一度味わえばわかるのですが、カリフォルニアでは「豆腐づくりも立派なヴェンチャー・ビジネスなのだ」ということが、「日本とは違う」と感じたところです。

 ロジャー・ガルシアさんは、米国の永住権を持つ香港チャイニーズですが、幼い頃から英国のボーディング・スクール育ちとのことで、とても美しいクイーンズ・イングリッシュを話されます。ウィットに富んだお話ぶりもチャーミングで、うっかり長居してしまいましたが、組織のリーダーにとって「魅力的である」ということは、とても重要なことだと認識させられました。
 ツァイさんも、ガルシアさんも、才能に恵まれているだけでなく、才能を発揮する環境、機会にも恵まれた幸運な方たちだと感じました。これから世界に出て活躍しようと考える人たちには、チャンスをモノにしていく強運も大事なのではないか…と思います。