2018/12/20 09:08

頭の中はいつもヴェルディ/編集長のコラム Vol.13

1月下旬メンローパーク・コーヒーがオープンするビルの外に立つ岡山遙CEO ⒸSayuri Murooka

編集長のコラム Vol.13
今はまだ何もない・・・

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

  東京都渋谷区渋谷二丁目10-2 渋谷二丁目ビル2F・・・2018年12月現在、今はまだ何もないビルの中だが、来月…2019年の1月の終わり頃に、メンローパーク・コーヒー株式会社の1号店がここにオープンする。店長は同社のFounder and CEOでもある岡山遙さん。
 大手製薬メーカーでの営業職を経て、食品OEMメーカーに転職。新たな製品をゼロから立ち上げることを経験し、新しい価値を世の中に送り出して、人々の生活が向上することの面白さを知ったという。真っすぐな視線の爽やかな女性が経営者としての第一歩を新たに踏み出す。この事業のバッカーは日本人で初めて米国Google本社に、自身が創業した人型ロボットベンチャーを売却することに成功した加藤崇さんで、二人は2018年10月メンローパーク・コーヒー株式会社を設立した。

 本誌は創刊時にカリフォルニアの地で質の高い有機豆腐の製造と販売に取り組むヴェトナム系アメリカ人、ミン・ツァイさんを取材したが、毎日ゴム長を履いて工場に現れ、笑顔で素晴らしい豆乳、美味しい豆腐や湯葉をつくるツァイさんは、コロンビア大学で経済学を学び、大手金融機関で将来を嘱望されていた人物。その彼が高報酬の仕事を辞めて「豆腐ベンチャー」を立ち上げたこと、お豆腐屋さんがベンチャー企業として注目を集めるのも「カリフォルニアらしいな」と私は思った。そして、今度は東京でのコーヒー・ヴェンチャーである。
 CEOの岡山さんは、「このカフェは、他者と違うことが理解され、尊敬される場所、どんな境遇の女性であっても、社会的、経済的に成功することができると心から信じられる場所にしたい」と語ってくれたが、そもそもなぜこのカフェはメンローパーク・コーヒー(Menlo Park Coffee)と名付けられたのか? この名前には、経営者としての第一歩を踏み出す岡山さんへの支援を決めた加藤崇氏の強い思いがこめられている。
 「何でこんな時代にコーヒーショップなんて作らなければならないのか、そこから話を始めたいと思います」と加藤氏は言う。日本のコーヒーショップにも「一見、これ以上ないくらい、たくさんの風景があるように見えますが、でも、何かが足りない。アメリカの西海岸、カリフォルニア州に移住して、そう強く思うようになりました」と続ける彼は「シリコンバレーは、ベンチャー企業という、大企業ではできないことをやる会社、小さな組織であっても、アイディアとスピード、それに溢れんばかりの勇気があれば、経済的な成功、アメリカン・ドリームを掴むことができると心から信じられる。カフェという場所も、日本とはまた違う雰囲気で、そこはチャンスを獲得する場所であり、さながら未来への切符を手に入れる駅舎のようです」と語った。
 新しくオープンするコーヒーショップの話なのだが、それだけではない。なんだかとってもわくわくするではないか。このお店で出されるコーヒーは、コーヒーカップに注がれた「コーヒーであるだけではなく、お客様それぞれの希望が投影された、未来への切符なのです」という創業者の言葉は、いつも私が若い人たちに言っている「本気で変えようと思えば社会は変えられる」ということにも通底する「楽観的な未来指向」を共有しているように思う。
 メンローパーク・コーヒーにはまだ何もない。だけど、ここからいろんな人たちの、いろんな物語が始まる。その経過を関係者の記憶に留めようと、コーヒーショップとそこに集う人々を、二十歳を過ぎたばかりの写真家、室岡小百合さんが定点観測で撮り続けるプロジェクトもスタートした。人々が手にした未来への切符はどのような結果をもたらしてくれるのか? 今から十年後が楽しみなメンローパーク・コーヒーである。