■最近日本でも人気上昇中のプログラミング教育
プログラミング学ぶと言っても、アプローチの仕方でその学びの方向性は大きく異なってくる。
アメリカでは様々な教育法があり、その特徴と子供の適性に合わせて学校選びをしていくことが多い。その沢山ある教育法を大きく分類すると、プログレッシヴ教育とトラディショナル教育に分けられる。
トラディショナル教育とは、日本でもおなじみの教科書やワークシートに基づいて講義や宿題をしていくことで知識を吸収していくというスタイルをさす。日本ではひとりひとりに机が与えられ、先生の方に向かって講義を受けることが定番だ。アメリカでは数人のグループで机を共有し、ディスカッションをしたり、サークルタイムを交えて講義を受けるという違いはあるが、同じくテキストや講義・宿題などがあり、教師から情報と知識を得ることがベースとなる。学習の評価基準はテストなどの結果重視で判断される。
ではプログレッシブ教育とはどういうものか? プログレッシヴ(進歩主義・前衛的)教育とは、19世紀末にアメリカで起こった教育改革運動で、ジョン・デューイの経験主義やプラグマティズムの考え方を軸にした教育法のことだ。端的に言うと、生徒本人が遊びや体験、人との関わりを通じて直接情報源に接したり、グループワークをすることによって、最も効果的に学習することを狙いとしている。教師は自ら考えて学習する生徒のガイド役に徹し、学校での評価基準は結果に至る過程も成果の一部とみなす。
このプログレッシヴ教育は私立の学校だけのものではなく、公立校でも取り入れている学校もあり、それぞれの学校の特徴を見ながら学校選び(学区と居住地)を選ぶということも珍しくない。
広義の意味でプログレッシヴ教育の中にはシュタイナーやモンテッソーリ、レッジョエミリアなどのメソッドも含まれる。ここではプログレッシブ教育を導入しているNYのある学校での取り組みと、日本でのトラディショナル教育の取り組みとの違いを、プログラミング教育を通して紹介したい。
NYにはキンダーガーテン(日本でいう幼稚園年長)からプログラミング教育を取り入れている学校がいくつかある。NY市のギフテッド・アンド・タレンティッド※1(才能のある子どもを対象とするプログラム、G&T)対象のスクールに通われるお子さんを持つママさん(以下Sさんとする)に、プログレッシヴ教育を指針とする学校でのプログラミング教育について伺った。この学校では日本のように教科書に沿った学習法ではなく、Experiential Learningと言って、子供自身が経験し、そこから自分自身で学び取ることに重きを置いているとのこと。
この学校でのプログラミングの取り入れ方はどういったものだろう? 同校ではビジュアルプログラム言語「スクラッチ」という無料プログラミングサイトを利用している。このサイトは日本語バージョンもあり、日本での学校教育でも導入されている。
Sさんのお子さんの学校では、プログラミングのクラスは専門の講師が受け持っている。
Sさん:「初回のクラスで、当時5歳児のわが子が驚いていたのは、PCへのログインパスワードの入力です。先生は、デスクトップ上、クラスの名前が書いてあるiconをクリックし、パスワードを入力するように指示して、口頭でパスワードは”purple(紫)”ですと言われたことでした。もちろん、私もびっくりしました。RedやBlueならともかく、キンダーに上がったばかりの子どもたちで、Purpleの綴りがわかる子供はそう多くはなかったはずです。でも先生は、続けてこうも話したそうです。周りの友達3人に聞いてもわからない場合は、私のところに聞きに来てください。まずは自分たちで頑張りましょうと。
子供たちの中には、PCすら開けずにクラスが終わってしまった子が大半だったようです(この場合、わざと先生に正解を聞きに行っていない様子がうかがえる)が、宝箱を開けるための暗号解読のようで、それだけで楽しかったようです」
PCはひとり1台。自分で自分の考えをまとめて形として表していく。説明書をみないで、隣近所の3人以上聞いて、3人とも「あなたの言うことが分からない」と言われたら、先生に聞くようにキンダーガーテンの時からの指示はその後も変わらない。説明書や解説のYoutubeなどを見ないですることが前提。椅子はナシで、立って作業をする。
ここで注目すべきは、講師はクラスの進行とゴールを生徒たちに提示していないところである。
初回の授業のねらいとしては、まずPCに触れてみて興味を持つこと。コマンド(この場合パスワード)を正確に入れるとどうなるか? 間違えるとどうか? を自分で体感するといったところではないだろうか。次からの授業でコマンド(スクラッチ上ではCode)は間違えないようにしないと思うようには進めないぞと実感させられる。5歳という年齢においては、PCにログインできなかったとしても、体験自体が根本的な学びになっていると考えられる。
Sさんは続けて、「その後の授業は、自分の好きなように絵をかき、Codeを使ってキャラクターを動かしてみようというものでした。ここでも生徒の自由度はかなり高く、自然と自分で学び取る力がついていくようです。キャラクターを自分の思う方向に動かそうと思ったら、スクラッチではCodeに角度を入力しなくてはいけません。その場合、自分で試行錯誤したのでしょう、360度が一回転で、どのくらい角度をつければ、どのような角度でキャラクターが飛ぶのかを体で覚えたようです。“自分の描いた島まで鳥を飛ばそうと思ったら、270度が反対(方向)の90度と同じだった!”と嬉しそうに話してくれました」と話してくださった。
このエピソードの中で、プログレッシヴ教育らしさが伺えるのは、「ひとつの題材を通して、色んな教科の要素を学ぶ」ということ。
具体的にいうと、このプログラミングのクラスでは・・・
例:『鳥を飛ばす』アニメーションの作成
・どのくらいの高さで
・スピード
・数量
・色
・デザイン
・ストーリー
・音(鳥の鳴き声、飛ぶ時の音など)
など、算数やアート、音楽などの要素を複合的に融合させて生徒がアニメーションを作成するといった具合だ。
これらの要素をマスターしていくことで、キンダーガーテンが終わる頃には、絵が動くようになるくらいまでは作れるようになるという。
グレード1に進むと、ゲームの作成に挑戦することになる。テーマは迷路。道に迷って、角に当たるとゲーム・オーバーなど、本人がすべての条件設定を考えるそうだ。
この学校での講師による評価基準は:
・自分の想像(考え)をCodeをつかって表現できているか。
・課題に意欲的に取り組んでいるか。
と結果だけでなく、取り組む姿勢についても評価している。
同じプログラミングを使っても、学ぶことの目的が何か?によって、子供たちが身に着けることに違う結果が見えてきそうだ。