2014/08/18 20:55

第5回 NY:NYの公立校(小学校)のお受験
—貧富の差とどう戦うか?— (前編)

Photo:シティワイド超難関:アンダーソンスクールの入口 ⒸHana Takagi

第5回 NY:NYの公立校(小学校)のお受験
—貧富の差とどう戦うか?— (前編)

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

Photo:アッパーウエストサイド:小学校の体育風景
ⒸHana Takagi

 第4回で紹介したようにマンハッタンの私立校(幼稚園)の学費は桁外れに高い。年間約15,000~30,000ドル(日本円で約150~300万円)。これが私立のままで小学校~中学校~高校までずっと続くことを考えただけでも恐ろしいことになる。
私立のキンダーガーデン(小学校)でもお受験はあり、幼稚園→小学校と小さい頃からお受験が過熱するのは、名門校に入れば高校まで一貫教育の学校が多いことが理由に挙げれられる。
名門校に入れば、アイビーリーグのような名門大学への進学率が高く、『名門キンダーガーデン(小学校)=名門大学』というシナリオをもとに、名門大学並の競争率になるようだ。

それに引き替え公立校だと義務教育の小学校~高校までは学費はゼロなので、親としてはとても魅力的だ。日本円でいう私立校の年間約150~300万円と公立校の0円というダイナミックなこの落差には驚かされる。

学校のレベルはどうだろうか?
学区によって公立校のレベルは雲泥の差がある。基本的には自分の住む学校区の学校に入ることになるが、ニューヨーク市内(マンハッタン、ブロンクス、ブルックリン、クィーンズ、スタテンアイランドの5ボロー(区)で構成される)は学校によって教育レベルやプログラムに大きな差が出る。
よい学区は私立並みのレベルで、ESL(英語を第二外国語とする外国人生徒のためのプログラム)が充実しているのが特徴。
そのよい学区とは、どのようなところなのか?
端的に「高所得者が多い=家賃の高い」エリアになり、教育熱心で教育にお金をかけることのできる人が多いといえよう。NY市郊外(特に高級住宅地)もレベルが高い。
それに対して悪い学区は低所得者の多いエリアで、小学生がドラッグや暴力・妊娠したというニュースが頻発するエリアなどが挙げられるが、想像に難くないだろう。NY市内はコンパクトな街だが、これだけの差があるのだ。
公立校ではこの貧富の差ともいうべき学区の良し悪しに関係なく、優れた能力のある子供達が試験をして選抜され入れる『Gifted & Talented(英才)プログラム』という特別クラス(学校)がある。後述では『G&T』と呼ぶ。

Photo:2014年度 99%タイルを獲得した生徒のDistrict別分布表
ⒸHana Takagi

 キンダーガーデンではカレンダーイヤーで入学する歳が5歳になる子供が入学できる。
4歳の時にこのG&Tの試験に挑戦してどこのエリアからでも受験のできる難関のシティワイド5校や地域の学校の中の特別クラス(ディスクリクト)などの入学を目指す。
この試験で最も高得点を取ったグループを99%タイルと呼び、2014年度キンダーガーデンのG&T受験者(2009年生まれ)は約14,600人で、そのうち99%タイルを取ったのは948人。約6%の子供が最高得点を取ったことになる。(Anderson school調べ)
難関と言われるシティワイド5校に入学できるのは全校合計で300人程度。兄弟枠を引いてから99~97%タイルの子供が総志願者の好成績順の抽選という激戦なのだ。

では99%タイルを獲った子供はどのような家庭の子供が多いのか?
添付の表は2014年のG&Tプログラムのテストで、99%タイルを獲った子供のDistrict別の結果である。
マンハッタン区は1~6、ブロンクス区は7~12、ブルックリン区は13~23と32、クィーンズは24~30、スタテン島は31となる。
マンハッタンのDistrict2はアッパーイーストサイドを中心とし裕福な家庭が多い地区として有名で必然的に教育水準も高い。99%タイルを取った子供は207名、District 3はアッパーウエストサイド~ミッドタウンを中心とするエリアでこちらも富裕層が多く120名の子供が99%タイルを取った。この2つのDistrictで327人(948人中)実に34.5%も占めている。ブロンクス区では7Distcrit中、6Distcritで0人という結果だ。

『貧富の差に関係なく能力のある子を選抜する』G&Tプログラム、実際のところは多くの場合その試験への事前の準備をしているようで、親の教育への関心と資金力は必須であると言わざるをえないのでは?と思う。
たった4歳でこれだけの差が出るという現状、同じ子を持つ親として知れば知るほど何とも言えない気分になってしまうのであった。

(続く)

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。