高木悠凪(たかぎ・はな)
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
第12回 NY:PONO −”Interest”からはじまる民主主義教育
Vol.2 民主主義教育がもたらすもの―他の教育法との違い、専門性の高いカリキュラム、PONOで育つ子供たちの将来
第12回 NY:PONO −”Interest”からはじまる民主主義教育がもたらすものとは?
Vol.2 他の教育法との違い、”Interest”がもたらす専門性の高いカリキュラム、PONOを通した子供たちの将来について創立者であるメイサ・バズナ博士に伺った。
高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、「民主主義教育」を掲げたオルタナティブ教育校、PONO(ポノ)のサマースクールを取り上げています。
- Photo:スクールミーティングで話合ったこと
ⒸHana Takagi
―この学校を設立した経緯について教えてください
「私はダマスクス大学で英文学を学士まで、コロンビア大学のティーチャーズ・カレッジで教育学の博士号を取得し、その後は教授となりました。娘が生まれてどの学校に行かせるか考えた時、私が知っているどの学校にも娘を行かせたくないと思いました。一般的なティーチングスタイル(先生が生徒に何を教えるかを決めるという教育のアプローチ)を真似るのではなく、子供たちが生まれ持った好奇心、驚き、そして学びたいという強い欲求を純粋に守る環境を作りたいと思い、研究しました。
それはまさに子供たちの興味や選択を信頼し尊重し、その中で子供たちがゆっくりと自発的な興味や生まれ持った学びの欲求を育て、成長できる環境でした。
教育学を徹底的に調べていくうちに、学びが生活の一部であった11世紀の教育コミュニティーにまで遡りました。現在PONOで行っている教育スタイルは、私自身が娘の発育を見つめながら、過去に学んだ教育に関する知識を塗り替えた道のり、教育学の歴史研究から見つけた要素、そして民主主義教育、モンテッソーリ教育、シュタイナー教育等の既存の教育アプローチに含まれる要素の、ユニークな組み合わせで作ったもので
『自主性を持ち、自分のやりいことを生涯学び続け、バランスの取れた人間になるよういに導かれる』ことを教育理念として掲げました。」
―民主主義を教育に取り入れるとは具体的にどういうことですか?
「まず、子供たちが何を学びたいのか?何をやりたいのか?を問いかけることからスタートします。各学期末には、全ての子供達が参加するスクール・ミーティングを行い、『何を学びたい?どこに行きたい?やってみたい?』をそれぞれ自由に意見として述べます。それを書きだして他の子供たちにどのテーマに興味あるか投票していきます。それを書き集めたものがこの〝Interest”のシートです。」とバズナ博士は壁に貼り出されたシートを指してくれた。
「これを元に生徒・先生と親たち(PTA)も全員参加のミーティングを行います。それで来期何をするのか?同等の立場で十分に話合い・考えたものを多数決で決め、カリキュラムにしていきます。」
- Photo:授業の様子その1 ⒸPONO
―アカデミック・スキルにはどのように取り組まれていますか?
「PONOではビジティング・ティーチャーと呼ばれる各分野のエキスパート達や、キネスティック・エデュケーションセンター(運動感覚教育センター)、CMA(チルドレンズ・ミュージアム・オブ・ジ・アーツ)、ストアフロント科学、およびSTREBなど専門的な教育機関に協力を得ながらPONOの教育理念と方針沿ってプログラム開発をしてきました。※注3
専門性の高い講師を招いての授業では、例えば学期末のミーティングで骨について学びたいというリクエストがありこのテーマを出した7歳の子は骨の部位でとても長い名称のものまであっという間に覚えてしましました。その前は筋肉、次は骨と続けて学んだのですが、7歳の子供たちが学んだのは13~14歳で習う内容だったのです。
他の事例としては、私の娘・スラフが4歳半の時に初めて文字の興味を持ちました。それからたった1年間の間にグレード2(日本でいう小学1年生)の読書レベルまでマスターしてしまいました。」
―ポノは現在3~8歳のお子さんを対象とされていますが、今後の展望とその先については?
「今後も今居る子供たちが継続してここで学べるように、ハイスクールまで拡張していきたいと考えています。ハイスクールの先は本人が希望する場合、大学への進学となりますが、生徒の中にはSAT※2を受けて大学に進学するケースと、大学からスカウトされていくケースがあります。
アイビーリーグ(ハーバード大やコロンビア大など)などトップクラスの大学では学校側から優秀な生徒をスカウトして入学していくケースがあります。
このような優秀な生徒は個別能力を伸ばしていくのが得意な学校出身者が多く、それは主に民主主義教育のハイスクールで在学中に間に大学の単位を取っていることもあります。」
―PONOを通して子供たちにはどういう大人になって欲しいと考えていますか?
「PONOは、バランスのとれた人間になるための旅だと考えてます。旅するということは、継続的なプロセスを意味します。私たちは人としてのバランスが取れた時、本当の幸せが達成できるものと考えています。そういう意味で私たちはバランスを重視しています。
PONOでの日常を通じて、私たちは子どもたちがバランスのとれた人間的な多様性に敬意を持ち、包括的で寛大、思いやりに溢れ、親切な人間らしい大人になることを導きます。」
学校のカリキュラムでは通常、「●●歳の子は〇〇がこのくらい出来てないといけない」とするおおよその目安があるものだが、PONOにはそれがない。子供たち自身が自発的に学びたいと思った時が”学び時”と考えているようだ。
子供が学びを欲する時期にしっかりと大人がその環境を整えて見守るというスタンスが、子供の自主性と学びきる意欲をかき立てる原動力になっていることは想像に難くない。さらに、「ひとりの人間としてバランスが取れていることが幸せ」という明確な価値観を持っての教育方針はとても興味深いものがある。
※注3)
キネスティック・エデュケーションセンターのホームページ http://www.wellnesscke.net/
CMAのホームページ http://cmany.org/
CMAに関する著者の以前の記事
第2回 NY:親子でクリエイティブにチャレンジ —のびのび楽しむ子供向けのアート体験 CMA
ストアフロント科学のホームページ http://www.storefrontscience.com/
STREBのホームページ http://streb.org/