2014/03/03 12:00

第2回 NY:親子でクリエイティブにチャレンジ
—のびのび楽しむ子供向けのアート体験 CMA

Photo: お楽しみのミュージックタイム ⒸHana Takagi

第2回 NY:のびのび楽しむ子供向けのアート体験 CMA

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

 NYは世界で最も多くのアーティストが集まる街の一つ。メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム美術館など、世界的に名前を知られる美術館だけでなく、ミッドタウン、ソーホー、チェルシーなどに点在するギャラリーも極めて高レベル。マンハッタンの通りを歩くと、どこかしらで美術作品を目にします。日常の中にアートがあり、そういう環境の中で幼少の頃からアートに触れ、子どもたち自身でも気軽にアートを体験できる場があるニューヨークで、小さな子どもたち向けにどんな教育プログラムがあるのか? 今回は、CMA=Children’s Museum of the Artsをレポートしていただきます。

Photo:『Flubber』スライムみたいな素材。
ひんやりとした感触は子供達に大人気
ⒸHana Takagi

 ローワー・マンハッタンに位置するChildren’s Museum of the Arts(CMA)は、子どもたちが自発的に、様々な素材やコンピューターなどを駆使して作品を制作できる施設だ。年齢別、テーマ別にクラスが分かれており、中でも幼児向けで気軽に楽しめるのがドロップ・イン(子供と保護者が一緒)のクラスである。対象年齢は10か月~5歳まで。

 開場された途端、子供達が一斉に教室の中に吸い込まれていく。明るく開放感のある空間のいたるところに色彩豊かな作品が飾られていて、色んな素材を使った、思いもよらない自由な発想の作品が目に入るだけで、付き添いの大人のほうもワクワクしてしまう。

 はじめの45分間はアート制作。カラフルなペンやマジック、チョーク、シール、粘土、ブロック、スライムのようなねばねば素材、絵の具、コラージュ用の紙やフェルト、きらきらしたラインストーンや卵ケースの切れ端など、豊富な材料を自由に使えるようになっている。ここにはスタッフが常駐しており、基本的には材料や空間を整え、子どもたちを見守り、必要があればアドバイスもしてくれる。子どもたちは、「お手本」のような、何かの完成形を見せられてその通りに作るということを求められることはなく、どの素材を選び、何を作って遊ぶか、すべて子どもたち自身が決めていく。
 子どもに保護者(両親やベビーシッターさん)が「これはなあに?」と尋ね、それに対して「これはねぇ、ママの顔」などと、子どもがお返事しながら、粘土をコネコネ、シールをペタペタ、絵具をグチャグチャと試行錯誤しながら思い思いの作品を創っていく。途中で飽きたら違うところに行って他のことをやっていいし、気に入ればずっと一つのことをやっていてもよい。

Photo: ペンやシールを使ってつくられた作品
ⒸHana Takagi

 『こうしなければいけない』とか、お手本のように『上手にできたね』ということがまったくないので、子どもたちは興味の赴くままに好きなだけ自分の気に入ったことをやっており、かえって集中力が持続しているように見受けられたのが興味深かった。

 制作が一段落すると、残りの30分はお待ちかねのミュージックタイムとなる。
“Hey everybody, it’s Music time, it’s music time, it’s music time…” タンバリンの音と共にこのフレーズが聴こえてくると、続々と子どもたちは並べられた椅子に座り、トムさんとアニーさんのテンポのよい歌声に引き込まれていく。アカペラとタンバリン、手拍子のみで、アメリカの子どもなら、誰でも知っている歌を歌っていくのだが、これが実に面白い。

 “A B C D E F G…Twinkle twinkle little star(きらきら星)…”と、 途中で歌詞がすり替わっても違和感がない。『同じ曲だけど、違う歌詞だね! じゃぁ、今度は動物の鳴き声でやってみようか! 何がいい?』と言って、トムさんが子どもたちに何の動物がいいか聞いてみる。”Cat!”というと『ミャオ、ミャオ、ミャオ…』と、手拍子と共に同じメロディーで子どもたちと一緒に歌い上げる。

 歌の合間にアニーさん得意の「変顔」で子どもたちは笑い、さらに次々といろんな歌を歌い続けていくと、トムさんとアニーさんは絶妙のハーモニーを生み出し、『シュビドゥビ、シュビドゥバ…』とスキャットのかけ合いが始まる。「ここは音楽のクラスか?!」と錯覚してしまうほど多くの曲を、子どもたちのアイデアを織り交ぜながら、手遊び歌、言葉遊びをして、みんなでドンドコとドラムを叩いて楽しむ。最後は絵本の読み聞かせで終了。子どもたちは、ボール・ポンド(ボールをしきつめた遊び場)でひと遊びして帰っていく。

Photo: ボール・ポンドではしゃぐ子どもたち
ⒸHana Takagi

 このクラスは毎週月・水・木・金の10:45~12:00で、子供一人当たりにつき25ドル。予約なしで参加できるので、旅行中の遊び場としてもおススメである。ちなみにこのトムさんはCMAの幼児部門のディレクターで、幼児向け芸術プログラムを担当している。長年にわたってコロンビア大やドルトン・スクールなどに協力してきた教育の専門家としてだけでなく、パフォマー、そしてミュージシャンとしても活躍している。アニーさんは、ニューヨーク大でアニメーションやイラストレーションを専攻。CMA以外では即興ミュージカルも手がける多彩な人物だ。

 この他5歳以上になると、探検メディア・ラボやアニメ映画などのユニークなクラスもある。探検メディア・ラボでは、キャラクター・デザイン、キャラクター開発やナレーション、文字描画、人形劇や彫刻、セット・デザイン、録音、および、基本的なストップ・モーション・アニメーションを組み合わせ、他の参加者(子ども)と共同作業で短編フィルムを創っていく。CMAのメディア・ラボで創られた映像作品は、トライベッカ映画祭(同時多発テロ事件の翌年からNYの復興を願いロバート・デ・ニーロなどが始めた映画祭)、NY国際児童映画祭などで紹介されてもいる。

 そのほかにも絵画や彫刻、ファッション・デザイン、さらに日本人講師による伝統的/非伝統的の材料双方を使用するプロセスを学ぶ(折り紙やドローイングなど古典的な芸術の技術を学びながら、インスタレーションやアニメーションなどの現代的な方法で実験する)コースなど、多彩なクラスが年齢に合わせて用意されている。

 幼児期からアートを通じて楽しみながら自由な発想を磨き、小学生くらいで映画制作のノウハウを学ぶ・・・。この中から後にオスカーを獲る人物が出てくるのでは?と思わずにはいられない、CMAのプログラムは驚くほど充実したものだった。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。