2014/12/12 12:00

第7回 NY:~ブルックリン発~自主保育に挑戦!
— 子供に受けさせたい教育を自らプロデュースする —

Photo:野菜のスタンプ ⒸHana Takagi

第7回 NY:~ブルックリン発~自主保育に挑戦!
— 子供に受けさせたい教育を自らプロデュースする — 

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

今回のテーマは自主保育。ブルックリンの閑静な住宅地、とある家族の住むアパートメントの一室。階段を上りドアを開けると、子供達の元気な声が聞こえてくる。ここは自主保育グループ『いろはの森』の会場。参加者の数人が曜日ごとに自宅を開放している。
教師と共に独自のプログラムやスケジュールを一から決めて、子供達に伸び伸びと日本語で日米文化を育んでいく。この『いろはの森』を運営している京(みやこ)パターソンさんと山脇奈津子さん※1にお話をうかがった。

Photo:いろはの時間割
ⒸHana Takagi

 
―この会はどういう経緯で始まったのですか?-
「もともとはマンハッタン在住の日本人の友人が、お母さん達が運営している自主保育のことを教えてくれたことが始まりでした。それは簡単な保育のものだったので、それよりはアカデミックな内容にしたいなと考え、試行錯誤の末にこのスタイルになりました。」と奈津子さん。
「3歳の息子がいるのですが、子供に日本語教育をしたくてもブルックリンには日本語クラスや学校が少なく、すぐに満員になるので“小数人制幼稚園”を作ってしまった方が早いと思い、この会を立ち上げました。もともとプレイグループを運営していたので、そのメンバーの方々に声をかけ先生の募集をかけて探し、トライアルで2週間ほどやってみたのですが子供達の日本語の伸びや反応がとても良かったのでスムーズに開校するに至りました。」と京さん。
また「“いろは”の子供達の多くはアメリカ人と日本人のミックスの子で、半分日本人なのでローカルの子とは違います。日本語が定着しているコミュニティーを持ち、バイリンガルなど日本語を何等かの形で残してやりたい。それぞれが違う学校に行っても帰ってこられる憩いの場を作ってあげたいと考えました。」と子供達への思いを語ってくれた。

Photo:楽しくひらがなを学ぶ
ⒸHana Takagi

 
この『いろはの森』は2013年4月に週5日(月~金)、毎日違う人の自宅を開放して会場とし3か月ごとのセメスター制で、先生方も時間・曜日のシフト制を取っている。
生徒数は毎回5~6人。年齢は現在1~3歳の子供達が共に過ごしている。
クラス編成は、ママと一緒に参加するマミー&ミーかフルタイムで預けるか選べる。(年齢で分けたり、制限を設けているわけではない)

―どのように運営をされているのですか?
「自宅を開放してくださる方は自主的に手を挙げてくださいます。その方にクラスのサポ-トをして頂き、毎回何をしたか?子供ひとりひとりへのコメントをレポートとしてフェイスブックのグループサイトに写真と共に投稿してもらっています。このように自宅解放していただいている方には日当を払うシステムにして、仕事としてやっていただいています。また、先生のやっていることを見ているので、先生にも緊張感があっていいですね。」と京さん。

Photo:今日は何日?何曜日?
ⒸHana Takagi

 
『いろはの森』の基本ルールやクラスの月のカリキュラムはママさんの意向を取り入れ先生方が作成。
クラスのベースとなる部分(主に生活面)は、モンテッソーリや色んなメソッドのいいところを積極的に取り入れ、自主性を育てていくように工夫している。月のカリキュラムは先生が変わっても歌などのルーティンですることやテーマは同じことをやり、それをどういうふうに持って行くかは先生次第に任せている。そして日本とアメリカのスケジュールを見ながら、月のテーマを決めていく。
「例えば10月でしたら、秋なのでどんぐりを月テーマにしました。日本のスケジュールでは“防災の日”があります。そうすると消防車などレスキュー車が登場して、乗り物へ興味を繋げることができるな…と考え、またアメリカではハロウィンがあるので、そこは外せないイベントだから入れるなどと決めていきます。」と子供が興味を持ちそうなテーマなどアイデアが次々に広がっていく様子には、こちらまでもワクワクしてしまわずにいられない。

―『いろはの森』のネーミングにはどのような意味があるのでしょうか?
「あいさつや靴並べ、お片付けなど生活の基本“い・ろ・は”を身に付けることを第一として考えています。その上で“あいうえお”などのお勉強の要素を加えていくといったイメージで名づけました。」と奈津子さん。マクロビオティック・シェフとして活躍中の彼女による子供クッキングや家庭菜園、ほか月一度さくらミュージックスクールを主宰するジャズピアニストの白崎彩子さん※2による特別クラスは『いろはの森』の子供達に大人気だ。

Photo:掃除も自分で
ⒸHana Takagi

 
―実際に運営してみて、良かった点は何ですか?
「まず一番に経済面で助かりました。プリスクールと同じようなもしくはそれ以上の内容を安価で受けられることは参加している家族皆が喜んでいます。
そして、毎週子供達を見るたびに“○○くんはこんなことができるようになった!”とそれぞれの子供の成長ぶりが見えるので、子供同士を比べて見ることがなくなりました。」

たまに会う子供とプレイデートした際に“△△ちゃんはこんなに出来るのに、ウチの子はまだ出来てない…ずいぶん遅れをとっている…”と焦りを感じてしまうことがあってもおかしくない。しかし、ここでは母親達が子供達を定期的に観察しそれぞれの成長として捉え、それを皆の喜びとしているのが印象的だ。

Photo:奈津子さん(左)と京さん
ⒸHana Takagi

 
―運営するにあたり、難しかった点はありますか?
「一番大変なのは、場所と生徒のスケジュール作りと先生の確保です。先にもお話しましたが、先生は基本的に募集をかけているので、こちらが望む先生を見つけることに時間を要することもあります。自宅を開放してくださる方の場所と生徒の家が近かったり・アクセスが良かったりするとは限らず、調整が難しいことがあります。その場合は延長保育を取り入れる等で、臨機応変に対応しています。」
ブルックリンといえどもかなり広範囲なため、電車やバスで移動の際に乗り換えなどが必要の場合もある。バスや電車が時間に通りに来ることが奇跡であるNYでは、朝の出かけの時間は余裕を持つことが重要なので、特に働く親にとって朝の時間配分は切実な問題となりやすい。
京さんはその事情を踏まえ、皆が納得できるようにきめ細やかに対処しているのが印象的だ。
場所が毎回変わることについては、「ママが居ないときはちゃんとやれても、ママが居るとやれないと甘えが出てしまうといったように自宅と他の家では子供の態度に違いはあります。それも当たり前のこととして、さりげなく猶予を与えるようにしています。」と京さん。

Photo:野菜の考察
ⒸHana Takagi

 
保護者(ママさん方)とのやりとりについては、「基本的に同じ価値観を持っており、プレイグループで一緒だった勉強熱心なママさん達なので難しいことはないです。」と京さん。
月に一回“ママだけのミーティング”を開催しており、そこではサポートママが近況を説明。資金の使い道や行事ついて、今までやってきたことを話し合う。このミーティング、毎回ほぼ全員が出席しているそうで親同士の結束の固さがうかがえる。
昨今TVや雑誌などで「NYで最も熱いエリア」として取り上げられているブルックリン。人が場をつくるのか?場が人をつくるのか?今回の『いろはの森』の方々の話を聞くにあたり、子供に受けさせたい教育を自らプロデュースしていく様は、まさに人が場を創っているのだといえよう。そして運営がかなり大変そうだが、価値観の合う人同士で協力し合えばこれだけのことがやれるという好事例は待機児童の問題解決にも大いに参考になりそうだ。

※1 山脇奈津子さんのサイト 
奈津子さんのホームページ
ココロとカラダのヨロコブ料理空間
※2 白崎彩子さんの音楽クラスは第1回 NY:親子でクリエイティブにチャレンジ—伸び伸び楽しむ子供向けのジャズ体験(後編)を参照。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。