2014/02/07 12:00

第1回 NY:親子でクリエイティブにチャレンジ
—伸び伸び楽しむ子供向けのジャズ体験(後編)

Photo: みんなで仲良く鉄琴に挑戦 ⒸHana Takagi

第1回 NYで伸び伸び楽しむ子ども向けのジャズ体験(後編):さくらミュージックスクール

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年、ご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。2011年には女の子に恵まれて、以来、ママ友も増え、ニューヨークでの小さな子どもたちを取り巻く教育環境について、あらゆる情報を収集中です。海外で暮らす日本人夫婦にとって、大きな課題の一つは言葉(英語主体か、日本語主体か)をどう教えるかでしょう。しかし、ニューヨークの場合は、芸術や文化の集積地ということもあって、幼い子どもたちには、言葉を介さなくても、国籍や人種を超えて、すぐにコミュニケーションをとる手段となる、音楽や美術などの教室に参加するという選択肢があります。しかも、そうしたお教室のレベルは、ニューヨークの場合、きわめて高いのです。

大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、お子さんをベビー・カーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいますが、ニューヨークでは小さな子どもたち向けにどんな教育プログラムやお教室があるのか、体験取材を連載レポートしてもらいます。第一回目は、日本だと「オトナのイメージ」のジャズの子ども向け教室。後編では、日米欧で活躍する日本人ジャズ・ピアニスト、白崎彩子さんによるさくらミュージックスクールを紹介します。

 
■さくらミュージックスクール

 ニューヨークには優れた才能を持つ日本人アーティストも大勢暮らしている。日米欧で活躍する日本人ジャズ・ピアニスト、白崎彩子氏はその一人で、彼女が主宰する音楽教室では、「日本語の童謡や唱歌をジャズ・ミュージシャンの心意気で伝える」という、ユニークな取り組みが好評を博している。

8か月から3歳までの年齢別3クラス体制のプログラムでは、歌(手遊び歌、季節の歌など)、ピアノ伴奏付きの読み聞かせ、体を動かすリトミック、楽器演奏、ピアノやオカリナによる音楽鑑賞タイム、音楽遊びなどが、45分間でテンポよく展開される。

「このクラスの根本にあるのは、日本語の懐かしい童謡や唱歌を日本語で伝えていくことにあるのですが、講師陣の特性を利用して、クラッシックでもジャズでも、質の高い音楽はどんどん紹介しています。また、ジャズの特徴でもある即興性を重要視しています。もちろん、事前に準備した指導案はありますが、その日の子供の様子や子どものもつ自発性を大いに活用して、即興でクラスの方向性が変化することもしばしばです」と、白崎さん。

「凡庸なビートになりがちな昭和時代の唱歌や童謡も、リズムのイメージを変えることによって、子ども達のノリが一目瞭然で変わります。例をあげますと、『もういくつ寝るとお正月』の平和な4拍子の曲を、『南の島でお正月を迎えよう!』と途中からルンバやサンバのリズムに切り替えることにより、親子で横にゆらゆら揺れていた体が、強いビートを感じて、タテに動きだす子どもが出てくるのです」と、ジャズ演奏家らしい視点での取り組みについても教えてくれた。

さくらミュージックスクールでは、日米で活躍しているプロの音楽家を迎えた特別プログラムも人気で、主に白崎さんの音楽仲間、共演者たちの、フルート、バイオリン、ベース、ギターなどの演奏家、タップ・ダンサー、シンガーなど、バラエティ豊なゲストが登場している。プロのライブ演奏ならではの空気感、質感にこだわった音をすぐに察して、子どもたちはゲストの楽器や音色に興味津々、耳を傾け、自然と身体も動くようになる。

ユニークな音楽教室を展開する白崎さんだが、彼女自身はいったいどのように音楽と関わりを持つようになったのだろうか?5歳よりクラシックのピアノ、10歳よりジャズ好きの父の元でジャズ・ピアノを始め、11〜12歳の頃には「天才少女ジャズピアニスト現る!」とジャズ界の注目を集め、チャーリー・パーカーやバド・パウエルのソロ(即興部分)もすらすら採譜するほどになっていたそうだ。しかしながら、音楽高校から東京芸術大学時代はひたすらクラシックに専念。大学卒業後、ジャズ関連の仕事をこなすようになったが、20代半ばの時、「このまま日本での生活に埋もれ、それなりに満足して終わってはいけない。本場NYのジャズを実体験してこなければ!」と意を決し単身渡米した。

2001年にマンハッタン音楽院の修士課程を修了し、NYでアメリカ人と結婚後、二人の子供に恵まれる中、音楽活動も積極的に展開。2009年のドイツ・デビュー以来、日米に加えてヨーロッパでの演奏活動も行うようになった。そして、2010年春、音楽仲間でピアニストのカズコ・マウズナーさん、ボーカリストのコジマ・サナエさんと共に「さくらミュージックスクール」を設立し、現在に至っている。

白崎さんは、「私自身が子育てを経験することで、赤ちゃんが子どもになるまでの数年間の成長過程を一緒に体験し、また、今まで培ってきた音楽の素養を融合させることで、NYに住む日系のお子さんたちに何か提供できるのではないか・・・というアイデアから『乳幼児の日本語音楽クラス』が誕生しました」と語る。

何の先入観も持っていない子ども相手だからこそ、いい音楽であればどんなジャンルでも取り入れて、“素材”をどう料理するかを楽しんでいるらしい白崎さん。いつも「ジャズ演奏家」であることを意識して、その観点から、何か必ず一ひねりを付け加えてカリキュラムづくりをされている点はユニークで、大変興味深い。

前編で紹介した”Webop”と今回の ”さくらミュージックスクール”。これら二つの幼児向け音楽プログラムを体験しただけでも、NYの音楽の層の厚さを感じずにはいられず、また、多様性を受け入れるNYという街の懐の深さも垣間見えてくるようだ。こうした豊かな音楽環境の中で育つ子どもたちは、将来どんな大人になるのだろうか・・・非常に楽しみである。

(了)

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。