吉田晴香
青山学院大学 総合文化政策学部2年。
1993年東京都生まれ。青山学院大学生。幼い頃から国内外でミュージカルを中心に舞台演劇を鑑賞。10年以上、自身の鑑賞記録をつけたブログを書き続けている。
将来は日本の舞台を海外に広める活動をしたり、国内外の舞台作品を紹介する演劇記事を書いたりすることが夢。
ニューヨークの移り変わりを見つめ続けて・・・
創刊25周年を迎えるMetroSource誌創業社長・Rob Davis氏インタビュー
ニューヨークの移り変わりを見つめ続けて・・・
創刊25周年を迎えるMetroSource誌 Rob Davis氏インタビュー
春の訪れをまだ遠くに感じつつも、少しずつ暖かくなりつつある3月中旬のニューヨーク。長期休暇を利用してマンハッタンに滞在していた私はMetroSource編集部を訪れ、創業社長のRob Davis氏にお会いしてインタビューする機会に恵まれた。チェルシー地区にあるオフィスで彼は、限られた時間いっぱいに自身の生い立ちや学生へのメッセージを語ってくださった。
- Photo:MetroSource創業社長Rob Davis氏と
- ⒸShuko Fukuda
『MetroSource』は今年創刊25周年を迎えるフリーペーパーだ。ニューヨークに本社を置き、現在ではニューヨーク版、ロサンゼルス版、そして全米版に加え、近年はデジタル版も発行している。人種および性別の区別や差別がなく、すべての人に開かれた社会を目ざすべく創設された本誌はLGBTだけでなく、ストレートの人たちにも幅広く読まれている。
MetroSource編集部はマンハッタンのチェルシー地区にある。編集部の入っている建物のドアを開けるとそこからエレベーターにかけて廊下が続いており、2階でエレベーターを降りると、黒い大きな鉄扉があらわれた。普通であれば少し重く感じそうなその扉もチェルシーという場所がらからか、洗練された印象を受けた。社員の方に別室に通されて待つこと数分、鮮やかなブルーのシャツを着た、爽やかな笑顔のDavis氏があらわれた。「ここまでの旅はどう?」と初対面の私に気さくに話しかけてくれて、インタビューが始まった。
Davis氏はアメリカ西部のコロラド州出身。デンバー大学を卒業後、いったん仕事に就いたものの、その後、大学院へと進学した。フランスで暮らしていた間はノルマンディーで仕事に就いていたが、米の大学院に戻ってMBAを取得して後、ニューヨークへと渡った。ニューヨークで最初に就いた仕事は銀行のトレーダーだったそうだ。ニューヨークは、ストレートやLGBTなどに関係なくオープンな社会に違いないと期待していたそうだが、当時は決して理想的な環境とは言えなかった。彼はそんな社会を変えたいと考えて、トレーダーを辞め、別の仕事に就いた先で知り合った友人に誘われて、バレーボールのゲイ・リーグ団体の人々と出会うことになった。当時、ニューヨーク全体は決してオープンな社会ではなかったけれど、確かにゲイ・コミュニティが存在することを、その時に知ったそうだ。そのコミュニティの協力もあり、彼は2年間リスティング広告誌を発行することになった。その後、大きな企業が氏の思いに賛同し、協賛してくれるようになって、現在に至るという。
フリーペーパーの「ペーパー」部分、つまり紙の雑誌であることを大切にしてきたMetroSource社も、近年ではフリーで記事をダウンロードできるようオンライン展開を広げている。デジタル化が進む時代において、新たな読者をひきつけるためにも気軽に手に取ってほしいという意図があってのことだ。変化に適応する能力や時代の流れをうまく読む才能は、ヨーロッパでの仕事の経験やトレーダーの仕事をこなしてきた彼の経歴を知ると納得できる。
彼が初めてニューヨークを訪れた時から、この街は大きな変化を見せている。「昔は男性2人がレストランにいる写真を雑誌に載せただけで周りから変な目で見られることが多かった。でも、今ではゲイの顧客はレストランではものすごく大切にされるんだ」と、真剣な顔で語ってくれた。
ニューヨークには世界中から人々が集まってくる。大きなアメリカンドリームをつかむためにこの街を訪ねてくる者、最後の希望を持ってこの街にたどりついた者、この街に来る理由はさまざまだが、そこには人種や性別の垣根はほとんどない。ひとりひとりが独立し、お互いの文化・価値観を受け入れられる雰囲気が街全体に漂うようになっている。ニューヨークの街に漂っているような、コスモポリス(国際都市)としての独特の雰囲気は、日本にはまだまだ薄いのではないだろうか。
- Photo:Davis氏お気に入りのアンティークランプ
- ⒸHaruka Yoshida
世界(特にアメリカ)からみると、日本の学生はまだまだ conservative(保守的)であるとみられがちだ。人種や文化の違いを肌で感じ、「文化の多様性」に対する寛容さが重要であるということを、雑誌を通して伝え続けているDavis氏に日本の学生へメッセージをお願いした。
「何よりも大切なことは、夢を追い続けること、そして努力することだ。僕もMetroSourceを始める時は恐かった。充分なお金もないし、大きなオフィスがあるわけでもない。きっと、家族や友人に相談していたら、リスクの大きさのことばかり考えてビジネスを始めることはできなかっただろうね。そして次に大切なのは、パッションをもち続けること。困難に直面しても、パッションを持ってトライし続ければきっと成功するだろう。特に、ここ5年で経済も弱ってきている。人々は何かを始めようとすることを恐れがちだけれど、パッションをもち続けて、トライし続けた人々は成功している。そしてビジネスにおいては顧客の声に耳をよく傾けること。レストランでも何でも、顧客に合わせた対応ができている店は長続きしているからね。」
インタビュー終了後に、Davis氏自身がオフィスのメンバーを紹介してくれた。編集部のみなさんは、仕事中にも関わらず、訪問者である私を笑顔で迎えてくれた。みなさんの笑顔や、編集部のキリっとしつつも温かい雰囲気に、社長であるDavis氏の人間性がよく表れていると感じた。
予定通り6月のシンポジウムに出席することになれば、それが氏にとって初めての東京訪問になるそうだ。今回、ニューヨークでこんなにも温かく迎えてくださった彼へのお礼と尊敬の意も込めて、6月の講演会は何としても成功させたいという思いが一層強くなった。
45分程の訪問の最後に、Davis氏は「入り口の廊下にあるランプ、素敵だったでしょ。アンティークもので僕もお気に入りなんだ。是非写真に撮っていってね」とアドバイスしてくれた。オレンジ色に光るそのランプは、慌ただしいニューヨークの街角にあって、どこかホッと安心させてくれるような温かみがあり、Davis氏の人柄そのもののを象徴しているようにも見えた。
最後に、今回の編集部訪問に英語が未熟な私に通訳として付き添ってくださった福田しゅうこさんにこの場をお借りしてお礼申し上げます。ニューヨーク・ブルックリンでレストランを経営されている福田さん。Agrospaciaのインタヴューにも登場して下さっていますが、この日は2号店オープンの日だったにも関わらず、快く協力してくださりました。ありがとうございました。