第13回 NYでちょっと知られたステキな日本食レストランHIBINO
NYでちょっと知られたステキな日本食レストランHIBINO
オーナー、福田しゅうこさんに聞く「NYでレストラン経営をすること」
開業への道のり:最終回
Q:最後にこれからHIBINOさんがどう飲食ビジネスを展開して行きたいと考えておられるのかを聞かせて下さい。
A:うちのビジネスは、HIBINO的なものを手堅く拡げつつも、違う枝葉で毛色の変わったことをやりたいなと思っています。ちょっと面白い遊び心があるものを……。こっちにあまり来てないタイプの、純日本風というより、むしろカジュアルな立ち飲み屋みたいなものとか。
こちらの人が考えるオシャレな日本料理店というと、福田がかつて働いていたSushi SAMBAはまさにそれだったのですが、サウスアメリカと日本をかけ合わせるとか、フュージョン系、又は創作和食のレストランになるようです。逆に、私たち個人としては、日本にもないような「ド日本」みたいなものを手がけてみたい。お洒落というより、新橋の駅の高架下みたいな感じのものを少しポップにして、お店のつくりは小洒落た感じに変えるけども、基本的なスピリットはああいうの、をやってみたいですね。
Q:食材の調達に関して、アメリカならではの苦労はありますか?
A:たまに、FDA(Food and Drug Administration)が何か言い出して、今まで入ってきたものが突然輸入できなくなることがあります。食べたら危険というより、恐らくは政治的な要因が大きいような気がします。
BSE騒動のせいで、肉エキスが入ったものがすべてダメになってしまいましたね。牛肉でも鶏肉でも、肉エキスが入ったものは一切輸入ができなくなって、買えなくなったものは多くあります。アメリカ国内に日本の会社の工場があるものはそれで対応していますが、そうでないものはアメリカでは買えないのです。
Q:お店を出すロケーションにはどうでしょう? マンハッタンも考えておられる?
A:家賃が高くて無理ですよ。この間、アッパー・ウエストサイドでずっとやっていたダイナーみたいなお店が、今の家賃の3倍以上にあげられて(月3万ドル程度の家賃)もう閉めざるをえないという話を聞いたばかりです。ブルックリンにこだわっているわけではないですが、マンハッタンは出資者がいて、いくらでも出すので好きなことをやってくださいとでもならない限り、私たちには無理だと思っています。
Q:米国内で飲食ビジネスを展開する日本人の互助的なネットワークはありますか?
A:こちらで飲食店経営をしている日本人は、もともと友達だったり、同じ店で働いていたというのであれば別ですけど、そうでもない限り、横のつながりは希薄です。 女の人はママ友どうし情報交換の場があったりしますが、ビジネスの話を目的とするような組織的なものはあまりありません。日本人の異業種交流、のような事をやっている組織はあるのですが、飲食関係の人の参加率は低いように思われます。
飲食系の人の参加が低いのは日本料理店で働く人は、金融やテクノロジー系の人に比べて、より閉鎖的だということが一因かもしれません。金融関係の人はコスモ・ポリタンというか、いつもいろんなアイディアに前向きで、私生活でも新しいことにチャレンジする土壌があるように思います。飲食店の人、特に日本の名門料亭で修行を積んできたような板前さんは、職人の頑固一徹という人が多く、料理の質、というところにこだわりすぎるのかもしれません。なので、それ以外の事、アメリカで人脈を作ったり、他の店の情報を収集することには興味がないように見えます。
もちろん、料理の質、というのはレストランにとってとても大切な事なのですが、アメリカの飲食業の場合、それ以外にもインテリアだったり、店の客層、接客の質(必ずしも日本式の丁寧な接客じゃなくても、その店にあったキャラクターがある方がお客様に好まれるように思います)などが重要になって来ます。
うちの旦那はもともと飲食業出身じゃなかった為、逆に「こうでなくてはならない」といったこだわりがないから自由に出来るのかも知れません。そういう意味で、日本では違う仕事をしていた人がアメリカでもっと飲食業に参入するようになったら、もっと面白くなるのではないでしょうか。そういう人が増えるように、私自身は、フラットにいろんな情報交換ができる、日本人社会のネットワークがあったらいいなと考えています。
福田 しゅうこ | |
日本での薬剤師からNYにてグラフィックデザイナーに転身。NYにて夫であるフクダと出会い結婚、二児を授かる。子供の誕生を機に起業を考え始める。フクダがNYでシェフをしていたことから、起業すなわちレストラン開業へ、と思考。3年間の準備期間を経て2007年、3月、ブルックリンに「私たち日本人が日常的に食べている食事を提供する店」をコンセプトに「ひびの食堂」を開店。現在「自分の時間を楽しむ。手酌の店」を出店準備中。 |
福田 勝 | |
映像業界からNYにてシェフに転身。 子供の誕生を機にレストラン開業を目指しアメリカ人オーナーの下で、アメリカ式レストラン・ビジネスについて学ぶ。定番メニューを主軸にした和食の店の開業準備に取りかかり、自身が京都府出身であることから惣菜の京都弁である「おばんざい」を日替わりで提供し、新しい形の豆腐である「瓶詰め豆腐」を提供する店「ひびの食堂」を6年前にブルックリンに開店。妻と二店舗目の出店計画中。 |