十代の妊娠は女のコだけの問題ではない!
米・シカゴ市公衆衛生局が示した強烈なメッセージ
日本とはあまりにも違うアプローチ
日本では同じ5月、内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」が、女性の妊娠・出産には適齢期があるということを啓発する目的で、十代の少女らを対象に「女性手帳」なるものを配布すべきとして一大議論となり、幅広い年齢層の女性たちから強い反発を招く結果となった。この「手帳」は名称を変えて、中学生から男子を含む希望者に印刷物の手帳、または、スマートフォンやタブレット向けのコンテンツとして、2015年度からの配布を目指すとうことで一度は落ち着いたが、5月28日朝のNHK Newswebの報道によれば、「出産に国が介入すべきでない」とする批判が相次いだことから、当面、配布を見送る形で報告書を取りまとめることになったという。
日本では1950年代には年間100万件以上もの人工妊娠中絶があり、世界と比較して数値が突出して高いことは「恥ずべき」とされていたが、現在は人口減少、出生率の低下と共に、人工妊娠中絶件数は20万2,106件(2011年度の厚生労働省の衛生行政報告例による)まで減少している。日本での人工妊娠中絶件数、特に20歳未満の人工中絶は、世界と比較した場合(社会実情データ図録・人工妊娠中絶の国際比較、参照)でも少ないのが現状だ。が、ここで注目すべきは、同じ2011年の出生者数が約105万人なので、独立した数値としてだけ見るならば日本の人工妊娠中絶件数は劇的に減っているものの、出生者数と比較すると、日本における人工妊娠中絶件数は、依然として高止まりになっていることが見てとれる。
日本における「女性手帳」が意図したことは、シカゴ市の場合と同じように、十代の若者たちに向けて、経済的安定を確保した上での健康な妊娠と出産、将来、不妊症を引き起こさないための性感染症予防などの啓蒙を目的とした取り組みだったようだが、「妊娠は女性だけの問題ではない」ことを明確に打ち出し「十代の妊娠が引き起こす貧困の連鎖を根絶する」というシカゴ市の取り組みと、我が国の「少子化危機突破タスクフォース」とを比較すると、両者のアプローチはかけ離れて見える。
貧困層を無くすための現実的な問題解決を目ざして
アメリカでは、高校生の若いカップルが子供を持とうという自覚なく妊娠してしまった場合、母親たちの半数以上が子育てのために高校をドロップアウトし、30歳までに大学を卒業するチャンスはわずか2%以下。
父親は、高校在学中から子供が成人するまでの養育費支払いの義務を負うこととなり、統計によると、こうした若い父親が犯罪に手を染めて刑務所に服役する確率は同年代の男性の2倍という現実がある。また、十代で子供を生んだ母親を持つ少女の多くは、同じように十代で望まぬ妊娠をする確率が、それ以外の少女の3倍にもなるという。
行政側としては、こうした負の連鎖によって形成される貧困層が社会福祉費の増大につながることを憂慮して、貧困の連鎖を断ち切るためにも、安定した仕事につくために、せめて高校はきちんと卒業してもらいたいと考え、そのためには高校在学中での「望まない妊娠」を減らしたいと真剣に考えているのだ。行政としては「現実的な対応」が優先されるので、十代の妊娠について倫理的な議論などはしない。
キャンペーンのコピーも「コンドームを使う」が先で、「高校生のセックスは不道徳だ」と主張するキリスト教団体や保守的な親たちに配慮して、もう少し「待ちましょう」という文言も入れてはいるが、むしろそれは選択肢として「付け足し」扱いになっている。
議論を喚起するだけでは、実際に十代の若者の妊娠を防ぐことはできないので、CDPHのスタッフが市内の高校に出向いてレクチャーをし、実用的な情報が書かれている冊子を配布し、大規模なコンドーム配布活動を行っている。さらに、ティーンエージャーの自覚を促すため、十代のセクシュアリティと健康について考え、自発的に情報を収集するための情報サイト、気軽に議論に参加しやすいようにソーシャル・メディアを用意して、実際に十代で妊娠・出産を体験した同世代の若者たちに厳しい現実を語ってもらうなど、啓発活動に力を入れている。