吉田晴香
青山学院大学 総合文化政策学部2年。
1993年東京都生まれ。青山学院大学生。幼い頃から国内外でミュージカルを中心に舞台演劇を鑑賞。10年以上、自身の鑑賞記録をつけたブログを書き続けている。
将来は日本の舞台を海外に広める活動をしたり、国内外の舞台作品を紹介する演劇記事を書いたりすることが夢。
“LILIES”
—多くの女性たちに支持される演劇集団Studio Lifeの代表作
“LILIES” — 多くの女性たちに支持される演劇集団Studio Lifeの代表作
演出家は女性、俳優は全員男性という劇団スタジオライフがミシェル・マルク・ブシャール脚本による代表作、“LILIES”を2013年11月20日から12月8日まで、東京・新宿のシアターサンモールにおいて、Sebastiani、Marcellien、Erigone のトリプル・キャストで上演しました。
『アグロスパシア』が新たにスタートしたインターン生チーム「青山BBラボ」のメンバー、吉田晴香が日本版上演台本・演出、倉田淳(Studio Life)による舞台のゲネプロ(2013年11月20日)を取材させて頂きました。
- Photo:右から笠原浩夫、船戸慎士、仲原裕之、松村泰一郎
- Ⓒ 劇団スタジオライフ
1952年のカナダ郊外の刑務所。そこに服役中の囚人シモンがかつての友人であるビロドー司教に、囚人たちが演じる芝居を見せる。その芝居は40年前の2人と友人ヴァリエ、3人の悲劇についての物語だった。大人になった二人…そして、ビロドーにこの芝居を見せるシモンの目的とは…
劇中劇として展開されるこの作品のストーリーは2002年の初演時、多くの反響を呼んだ。上演4度目となる今回は、今までとの変化を意図しての上演だった。まず乗峯雅寛氏が舞台美術を一新させ、主要キャストに本作初参加の俳優を多数起用した。乗峯氏は2002年から文学座に所属。数々の舞台美術を担当し、2011年には第18回読売演劇大賞優秀スタッフ賞、第38回伊藤熹朔賞新人賞を受賞している。
劇場内に入るとすぐに、舞台中央にある傾斜のついた板が目に飛び込んで来た。舞台の奥行きを強調するこの板の存在と距離感が、老ビロドーと老シモンの現在、そして、劇中劇を演じる若き日のシモンとビロドーとの違いを際立たせることになる。舞台の高さいっぱいに伸びる鉄格子も印象的で、鉄や石畳を用いた、シンプル、かつ、重々しい雰囲気のセット・デザインは乗峯氏が2013年に舞台美術を手がけた『ジャンヌ』の世界観をどこか思い出させるものだった。
この日シモンを演じたのは、前回も同役を演じた仲原裕之さん。「4年前にやり残したことがたくさんある」と製作発表時に語っていたが、社会の常識と自分自身の中の愛との間で揺れるシモンを見事に演じきった。そして今回、本作初参加となったヴァリエ役の松村さんをグイっと男らしく引っ張る、そんな一面も垣間見えた。
ヴァリエ役の松村泰一郎さんは少々緊張しているのが客席でも感じられるほど、しかし、ひたむきにヴァリエを演じていることが伝わってきた。ただひたすらシモンを愛し続ける、まっすぐなヴァリエにはぴったりの配役。
上演中ただ一人、舞台上に出ずっぱりのビロドー司教を演じる船戸慎士さんは、囚人たちが演じる40年前の、若き日の自分たちの姿を、怒りとも悲しみともとれる表情を浮かべながら見つめ続ける難しい役だが、強い存在感が感じられた。
- Photo:老ビロドー役 船戸慎士
- Ⓒ 劇団スタジオライフ
「人はやさしさを与える。そして人は残酷を返される」
神に仕えるビロドー司教は、40年前の自分の罪を演劇によって暴かれる。しかも、それを演じるのは刑務所の囚人たちである。こんなにも残酷な裁きの方法が他にあるだろうか?
シモンとヴァリエ、そしてビロドーも、互いを愛していただけなのだ。そしてシモンの父ティモシーも、ヴァリエの母ティリー伯爵夫人も、ただ自分の息子を愛していただけだった。しかし彼らの愛は、自分の立場、階級社会における地位、そして同性愛を赦さない敬虔なカトリック信者が多かったその時代の社会常識に打ち勝つことができなかった。それ故に悲劇の連鎖が起きてしまう。
この作品を理解するためには、日本人にとってはあまり馴染みのない、カナダ・フランス語圏、ケベック地方の荘園制度(富裕層がフランス本国から自国の使用人を農奴として連れてきた。それゆえに白人どうしでありながら極端な貧富の差があった)の歴史や当時の文化をある程度知っている必要はあるが、本作品が伝えようとしているメッセージは「人は優しさを与える。そして人は残酷を返される」で、現代を生きる私たちも、愛することで何かを失うことがあり、真っすぐに生きていくことは、思いのほか難しいということなのではないだろうか。
舞台となっているカナダのケベック州では、2003年に同性婚が認められた。もし、この3人が現代に生きていたならば、愛することで傷つき、自ら死を求めなくてすんだかもしれない。登場人物の誰かに共感し、誰もが自分の経験を振り返りながら、人を愛することの苦しさと美しさを再確認できる作品であることに間違いはないだろう。
本作品が多くの女性たちに支持されていることは、日本において、女性たちが思ったように活躍できていない・・・ということを示唆しているのか? そんなことも考えさせられるスタジオライフの公演であった。