ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)
東京都出身。 高校卒業後渡英。 London School of Economics修士号取得後、2000年に帰国して外資系金融機関に勤める。夫の転勤により、ロンドンと香港での駐在を経験。2児を育児中。留学、夫の赴任先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験。現在は、JADP家族療法カウンセラー。自身の海外経験を活かし、海外生活や海外での子育てが少しでも楽に、そしてより楽しく、より充実した生活になる事を願い、コーチングを行なっている。2010年からニューヨーク、2019年夏にロンドンへ再び転勤。ロンドンの暮らしをお伝えするインスタは:third_time_the_charm_london ビアンキアキコ
ビアンキさんへの執筆、講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談、また、記事に対する感想などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
イギリスのクリスマス
イギリスのクリスマス
ビアンキ曉子さんは英国のLondon School of Economicsで修士号取得後、日本に帰国して外資系金融機関に勤め、その後、ご主人の転勤でロンドン、香港での駐在を経験。2010年からはニューヨークで暮らし、二人のお子さんの子育て真っ最中です。留学や駐在先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験したことを活かし、現在は、JADP 家族療法カウンセラーとして活躍されています。現在海外で生活中の方、あるいは、これから海外で子育てにチャレンジする皆さんの子育てが少しでも楽に、そして楽しく、より充実した生活になるようにと願い、NY発の様々なお役立ち情報を発信する連載をお願いしてきました。そのビアンキさんが、今度は再びロンドンへ転勤となりました。新たなロンドンでの子育て、お子さんたちの教育について引き続き寄稿して頂きます。
- Photo:賑やかな通りのクリスマスの飾り
ⒸAkiko Bianchi
12月1日になるといよいよクリスマスシーズンの本格到来です。子供達はいつもよりも少し早起きしてアドベントカレンダーを開け、夕食時にはアドベントキャンドルを灯します。
アドベント期とはイエス・キリストの降誕を待ち望む期間で、断食と悔い改めの時。正確には12月1日に始まる訳ではなく、キリスト教の宗派によってクリスマスの4週または6週前の日曜日から始まります。
アドベントカレンダーとはクリスマスまでの日数をカウントダウンしたもの。伝統的なものは木製や紙製で日にちの書かれた小窓を開けるとキリスト生誕にまつわる話や聖書の一説などが書かれています。
今では毎日違うチョコレートが小窓を開けると出てくるものが一般的ですが、おもちゃや化粧品や香水、ジュエリー、お酒など、中には10万円を超える贅沢なものまであります。
また、12月になるとクリスマスマーケットもあちこちで開かれ、珍しい商品を扱うお店や個人の小さなお店なども出店され、普段目にする大量生産の商品とは違う品揃えに心弾みます。
娘たちは英国国教会の学校に通っているためこの時期はクリスマスに関わる楽しい行事が目白押しです。初等部では毎年行われるキリスト生誕にまつわる演劇発表会やクリスマスキャロル礼拝など、キリスト教の信仰があるなしに関係なく、親子共々楽しみにしています。
また、いつもの制服の代わりにクリスマスらしいセーターや髪飾りのできる日や、伝統的なクリスマスの食事が給食に出たり、クリスマスリース作りも。
そして、中高等部ではクリスマスにちなんだ仮装や、生徒や先生のバンドによるクリスマスコンサート。そして誰もが楽しみにしているクリスマスキャロル礼拝。この礼拝では、聖書の一節の朗読、牧師の話とともに教会に響き渡るパイプオルガンの演奏や、聖歌隊の美しい歌声に心洗われます。
イギリスへ留学してまもなくあるイギリス人夫妻と出会いました。とてもよくして下さり、必ずクリスマスにご自宅へ招待して下さいました。私の知るイギリスのクリスマスはこのご家庭でのクリスマス。豪華ではないけれど、丁寧に手の込んだ愛情溢れるクリスマスです。
クリスマスの準備は10月末に始まりました。それは、クリスマスに欠かせないクリスマスプディングを作るため。クリームが沢山の華やかなケーキやブッシュドノエルではありません。干し葡萄やスグリ、レモンやオレンジの皮などを卵とパン粉を混ぜブランデーに漬けた伝統的なケーキです。15世紀から伝統的に作られ、材料はキリストと12聖人にあやかり13品です。モミの木は12月初めの週末に公園や教会のモミの木売り場で木を選び、車の上に乗せて持ち帰り飾りつけ。慣習なのか、大学時代にその週末には多くの学生がクリスマスの準備をする日だからと実家に帰って行ったのを覚えています。私は誰よりも早く12月23日にその夫妻の家へ行き、クリスマス当日の食事の準備やジンジャーブレッドハウスを作ったり、貧しい方へのプレゼントを用意したりしました。遠くの大学へ通う夫妻の2人の娘や親戚は24日午後に到着。24日は夜中に行われる教会のミサへ向かいます。大学進学や仕事のために街を離れた人たちもクリスマスには故郷に戻って来ます。ミサへの教会までの道すがら、その懐かしい友人宅を訪ねては、モルドワイン(赤ワインにスパイスやオレンジなどを入れた温かいワイン)やホットチョコレート、ミンツパイ(ドライフルーツやジャムが入った一口サイズのパイ)などを頂きながら近況報告。そして、その家の友人と一緒に次の家へ。そうやってどんどん人が増えながら、皆で教会へ向かいます。
- Photo:ジンジャーブレッドの家
ⒸAkiko Bianchi
クリスマスの朝は暖炉前の靴下のプレゼントを開けるところから始まります。一通りプレゼントを開ける頃にはお昼に。そして伝統的な七面鳥とクリスマスプディング(ブランデーバターと一緒に)をみなで楽しく頂きます。その時に欠かせないものがもう一つあります。それはクリスマスクラッカーと呼ばれるもの。クラッカーと言っても食べ物ではありません。筒状になっているものの両端を腕を交差にしてみなで輪になって引っ張り合い、パン!っと言う音とともに片方のみから紙の冠、ジョークやなぞなぞの書かれた紙、小さなプレゼントが出てきます。そして3時に放映される国王のスピーチも必ず観ました。このスピーチは1932年のジョージ5世のラジオ放送から続いています。コロナ禍での国民の心を勇気付けたエリザベス女王のスピーチを覚えている方もいらっしゃるでしょう。12月26日はボクシング・デーと呼ばれる祝日です。名前の由来は、執事や家政婦などクリスマス当日にも働かなければいけなかった労働者たちも26日には家に帰して貰えました。その際に雇い主から箱(ボックス)に入ったプレゼントを渡して貰ったからだそうです。ロンドンなどの大都市を除いては、イギリスは12月24日から26日までは街が静まりかえります。それは日本のお正月三ヶ日にとても似ています。目まぐるしい毎日から一息つかせ、大切な人との時間を楽しむ貴重なひとときです。
日本やアメリカなどではクリスマスは12月25日に終わりますが、キリスト教国においては、キリスト生誕の25日からクリスマスが始まります。シェークスピアの戯曲「Twelves Nights」や「The 12 Days of Christmas」 と言う歌に見られる様に歴史的にはエピファニー期(公現)までの12日間が本来のクリスマスシーズン。エピファニーの始まる1月6日は東方の三博士がキリストに贈り物を届けた日とされています。イギリスではこの日以降クリスマスツリーを片付けるのが習慣です。不要となったクリスマスツリーは自治体で決める所定の場所へ持っていくと、リサイクル木材として再利用されます。
ここまで伝統的な習慣を綴ってきましたが、今は遅くとも10月中旬にはクリスマス商品が売られ始め、お店の飾り付けなどもクリスマス仕様となります。11月初旬に売り切れるアドベントカレンダーやクリスマスハンパー、遅くとも11月中にはクリスマスプレゼントを購入しておかないと売り切れてしまう商品もあります。残念ながらこの傾向は年々早まっている様に感じます。不景気が続く中でのマーケティング戦略だとは思うのですが、季節感を失うことを懸念するとともに、クリスマスの頃には新鮮味に欠けてしまったと言う人も少なくはありません。
サンタクロースの真実を知っている娘たち。それでも、それはまるでなかったかの様にクリスマスを楽しみにし、サンタクロースを信じていた時と同じようにサンタさんへの手紙を書き、クリスマスイブには寝る前にサンタさんへの手作りのクッキーと牛乳、そしてトナカイへにんじんを用意し、「クリスマスの前の夜」を家族で一緒に読んでから寝ます。クリスマスには、離れている家族や友人にもクリスマスカードを送ったり、電話をしたり。そんな子供の頃の想像の世界に再度浸ったり、人との繋がりをもたらしてくれるのがクリスマスのマジックなのかもしれません。メリー・クリスマス!!!