2020/05/11 11:54

コロナウイスから命を守るために
ー自分で判断する責任と勇気

Photo:大半が閉鎖された地下鉄の駅。開いている駅も利用者は殆どなく… ⒸAkiko Bianchi

コロナウイスから命を守るためにー自分で判断する責任と勇気

by ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

ビアンキ曉子さんは英国のLondon School of Economicsで修士号取得後、日本に帰国して外資系金融機関に勤め、その後、ご主人の転勤でロンドン、香港での駐在を経験。2010年からはニューヨークで暮らし、二人のお子さんの子育て真っ最中です。留学や駐在先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験したことを活かし、現在は、JADP 家族療法カウンセラー、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ・ジャパンによる認定マザーズコーチとして活躍されています。現在海外で生活中の方、あるいは、これから海外で子育てにチャレンジする皆さんの子育てが少しでも楽に、そして楽しく、より充実した生活になるようにと願い、NY発の様々なお役立ち情報を発信する連載をお願いしてきました。そのビアンキさんが、今度は再びロンドンへ転勤となりました。新たなロンドンでの子育て、お子さんたちの教育について引き続き寄稿して頂きます。

Photo:高級ブティックの並ぶスローン・ストリートにも人影はない ⒸAkiko Bianchi

 今、あなたができることとは何ですか? 「家族の安全のために最善を尽くすのみ」と友人に言われた時、その一言で、私は恐怖に近い感覚を覚えました。子どもたちを引き続き学校へ通わせるか。それとも自主的にロックダウンするのか・・・

 コロナウイスの拡大が懸念され始めた頃はまだ、対岸の火事を傍観していたイギリス。日本を始めとするアジアの国々、アメリカ、そしてイタリア、スペイン、ポルトガル、フランスなども相次いで学校封鎖や一定の人数以上の集会の禁止、そして緊急事態宣言が出されました。そのような中での3月半ばのイギリス、ボリス・ジョンソン首相のコロナウイルスに関する始めての会見。他国に比べそのゆる過ぎるとも思える内容は予想外でした。会見の内容は、国民全体の80%を目標にコロナウイルスへの免疫を高める事に重点を置くということ。お年寄りや疾患のある人々への外出自粛を呼びかけると共に、その他の国民には普段通りの生活を勧める内容でした。理にかなっているようにも思えますが、80%の国民が感染することが意図するのは、致死率が2〜3%だということを踏まえ、単純計算で100万人が死に至ることになります。この100万人はどうやって決まるのか・・・。自分も家族も、友人も、誰もがこの100万人になり得るのです。この対策は、WHOや国民の批判を浴びるだけでなく、国民の不安を煽ることとなりました。

 この会見の前後、1年生の次女の学年の保護者間で、学校閉鎖を学校側に要請するか、または自主的にロックダウンするか、という議論が繰り広げられました。どうすれば良いのかというつぶやきではなく「議論」なのです。そんな大きなことを自分で判断するということ自体、思いもよりませんでした。それぞれが色々な情報や、イギリスよりも被害の多い母国での話を元に自分の意見を正当化します。正直なところ、その議論を聞いているだけで、私は疲弊してしまいました。そして、開校中にも関わらず、自主的に休ませる人が1人また1人と増えていきました。
 娘も日々増えていく欠席者数に疑問を抱き始めます。その人たちは、みな完全に自宅に引きこもり、外部との接触をほぼ遮断するというのです。最初は周りを大げさ過ぎると思っていた私も、その人数が段々と増えるにつれ、不安になっていきました。極めつけは、医師である友人がそのような処置に踏み切った事。そして、その彼女から、「家族の安全のために最善を尽くすのみ」と言われた時に、学校へ行かせることは間違っているのではないか、今の生活は安全ではないのではないのかと、疑い始めました。

 そして、不安要因がどんどんと頭をよぎります。鳥インフルエンザが流行した時に、香港駐在で1歳の娘もかからなかったからと言って、コロナウィルスにかからないという保証はありません。昨年、次女は毎月のようにウィルス性の病気にかかりました。予防接種をしたにも関わらず、お正月にはインフルエンザにかかり救急病院へ。ロンドンに引っ越してから長女が熱を出すことが増えました。そういったネガティブなことばかりが思い浮かび、その考えに囚われてしまいました。

Photo:イギリス政府と区から届いた通知 
ⒸAkiko Bianchi

 そして追い討ちをかけるようにロンドンに住む友人数名がコロナウィルスに感染しました。また、娘の友人たちの祖父母がイギリス、イタリア、スペインで亡くなられたとの連絡が入りました。もう他人ごととは思えなくなりました。次は自分たちの番かも知れません。100万人の犠牲者のうちの1人になるかも知れないのです。1番ショックを受けたのは、ニューヨークで家族ぐるみのお付き合いをしている方。友人のご両親を娘たちは、ニューヨークのおじいちゃんとおばあちゃんと呼んでいます。ニューヨークのロックダウン(封鎖)に際し、友人夫婦は子どもたちと感染者の出ていない郊外へ避難しました。高齢で疾患もあるニューヨークのおじいちゃんとおばあちゃん。しかしながら、彼らは郊外の家には行かず、ニューヨーク市内に残る決断をします。そしてコロナウイルスに感染し、今も闘病中です。なぜニューヨークを選択したのでしょうか? 「まだお金も無かった新婚の頃に購入し、2人の子供たちも育てた、独立記念日の花火が綺麗に見える」川沿いのマンションに最期までいたいと思われたのでしょうか?

 私が半ばパニックの様な不安と恐怖に駆られてしまったのは、友人の「家族の安全のために最善を尽くすのみ」という言葉の中に、責任を感じたから。私(たち)の間違った判断により、娘たちが命を落とすことがあり得ると強く感じたから。今まで多くの決断をしてきました。留学、帰国、就職、国際結婚、そしてたび重なる転勤や単身赴任。そのどれも、私(たち)にとって大きな決断でしたが、命に関わる決断ではありませんでした。選択や判断が間違っていても、生きてさえいればやりなおせる。娘たちを生き続けさせないといけないのです。この時点ではまだイギリスのロックダウンは始まっておらず、家族の命を守るために自主ロックダウンの決断をする勇気が、その勇気が私にはあるだろうか、と何度も自問しました。

 知人や娘たちの学校の保護者や卒業生が、医師や看護師としてコロナウィルスと戦っています。自分が感染することを懸念して、家族は郊外や親戚の家などに避難しています。特効薬もないまま、日々病に倒れていく人々の救命に尽くしています。自分がいつ患者となるか分からない。そして家族のいない家へ帰る。どれだけ不安で孤独なことでしょう。また、人手不足を補うためにボランティアとして医療系の職場に復帰したり、近所のお年寄りのための買い物や、貧困の方のために食料を届けたり、多くの方が患者のため、地域のために活躍されています。彼らは人々を助ける、命を救うために最善を尽くすと言う決断をされたのでしょう。

 このパンデミックの中、今求められているのは、1人1人ができる最善の行動。それは自分と家族、そしてこの世界の人々のために誰もが貢献できることでもあります。満員電車で通勤しないこと、不必要な外出を控えること、手を洗うこと、マスクをして外出すること。海外で起きていることは決して対岸の火事だとは思わないこと。子どもに怖がらせずにコロナウイルスについてきちんと説明すること。できるだけ精神的に安定した生活を心がけること。地域のために自分のできる範囲で何かをすること、国民の負担を理解し生活を補償すること・・・。非常事態宣言が出た後も外出自粛要請であり、強制や命令ではない日本。つまりは、個々の判断に任されているのです。 1つ1つの判断、決断があなたのそして大切な誰かの命にかかわるとしたら、今、あなたはどのような行動を取りますか?

PROFILE

ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

東京都出身。 高校卒業後渡英。 London School of Economics修士号取得後、2000年に帰国して外資系金融機関に勤める。夫の転勤により、ロンドンと香港での駐在を経験。2児を育児中。留学、夫の赴任先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験。現在は、JADP家族療法カウンセラー、そして内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ ジャパン認定マザーズコーチとして活動。自身の海外経験を活かし、海外生活や海外での子育てが少しでも楽に、そしてより楽しく、より充実した生活になる事を願い、コーチングを行なっている。2010年からニューヨーク、2019年夏にロンドンへ再び転勤。ロンドンの暮らしをお伝えするインスタは:third_time_the_charm_london ビアンキアキコ

ビアンキさんへの執筆、講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談、また、記事に対する感想などがありましたら、info@agrospacia.comまで。