頭の中はいつもヴェルディ/編集長のコラム Vol.17
編集長のコラム Vol.17
5Gとテクノロジーの未来に思いを馳せる2020年の年明け
- データ採取の実験を繰り返す若いスタッフ ⒸAgrospacia
VR/ホログラムなどのプラットフォーム開発で、ここ数年注目を集めている米企業DoubleMe Inc.(本社サニーヴェール、カリフォルニア州、アルバート・キムCEO)が2019年11月から世界各地に設置を始めた技術体験型ショールーム、ホログラム・ルームの第1号を見にクリスマス前にソウルに行って来た。この施設の設置場所は瑞草(ソチョ)区という、ソウル特別市南部、漢江南岸にあるソウル市の副都心として位置づけられるエリアで、大法院(最高裁判所)などの公共施設、国立中央図書館や国立国楽院などの文化施設、サムスンの本社などがあるエリアだ。タクシーの窓から見た風景で印象に残っているのは近代的なオフィスの高層ビルのほか、メルセデス・ベンツ、BMWなどといった輸入車ディーラー、そして、「007」の愛車として知られるアストンマーティンの華やかなショールームだった。いかにも富裕層を想定したエネルギーが溢れるエリアといった風情だが、DoubleMeのホログラム・ルームがあるのは大法院の道向かいの新しく開発された商業/レジデンシャル・コンプレックスの中庭に面したオシャレな一角。CEOのアルバート・キム氏の案内でガラス張りのホログラム・ルームの中を覗くと、若者たちがきびきびと働いているのが見えた。
ここは11月4日にオープンしたホログラム・ルームの第1号で、5G上で行なえるであろう様々なことを検証するためのパートナーはLG電子の親会社となる通信大手のLG U+だ。DoubleMeは、韓国が5Gを稼働させた2018年12月1日から、また、それに続いた欧州各国の通信大手と共に法人を対象とした実証実験を開始してきたが、韓国国内で個人向けの5Gが普及してきたことを踏まえ、2019年11月以後、ソウル、ベルリン、ロンドン、モスクワなどで、より多くの個人に「5GがあってこそできるVR/ホログラフィー」を体験してもらう機会を提供する場として、ホログラム・ルームの展開を開始した。年が明けて2020年、マドリッドやバンコクにも間もなくオープンされる予定で、東京でも開設準備を進めているところだ。
- DoubleMe, Inc.のCEO、アルバート・キム氏 ⒸAgrospacia
日本でもオリンピックまでには5Gのサービスが始動すると言われており、私たちは通信速度が劇的に早くなること、今までとは異なる次元で動画やゲームを楽しめるようになるという話を聞かされている。とはいえ、それが具体的にどういうことなのか、体験したことがないわけだから、想像しづらい。VRやホログラフィーのサービスも、5Gが実際に飛んでいない環境ではいったいどんなものになるのか、想像上のモデルとしてしか語ることができないわけだ。それが今回、ソウルのショールームを訪れ、実際に室内で5Gネットワークが飛んでいる状況で、ヴォルメトリック・キャプチャリングによる人体の3Dデータをリアルタイムでディスプレーに映し出すデモを見せてもらった。映像となった結果だけを見ると、「ふーん、そんなものか」としか思わないかもしれない。しかし、カメラがキャプチャーした膨大な3Dデータが、機器同士を直接つなげるのではなく、実際に5Gのネットワークを通じてディスプレーに映し出されているのだと思うと、今までできなかったことが「できている!」という実感は感慨深い。それだけでなく、今までハリウッド映画などで数十、数百という数のカメラを稼働し、莫大な予算をかけて行なって来たヴォルメトリック・キャプチャリングを、安価なカメラ一台で、カメラに写っていない部分をAIに予測させながら3Dデータとして創り出す技術なども見せてもらったが、これはこれで、また別の驚きがあった。
DoubleMeはテクノロジーを提供する会社なので、現段階ではシロウトが見て「あっ」と驚くような洗練されたコンテンツが揃っているわけではない。だが、一見、まだ粗いと思われるコンセプトが将来もたらす意味が想像できる人にとっては「5Gで可能になること」を具体的に考える上での十分なヒントを与えてくれる。だからこそ、LG U+のみならず、ブリティッシュ・テレコム、ドイチ・テレコムほか世界の通信大手が彼らとストラテジック・パートナーシップ契約を結び、さまざまな実証実験に取組みつつあるのだ。
現在、東京でのホログラフィック・ルームの設置場所を探しているキムCEOは、この技術の最終的なゴールを議論するのは時期尚早だとしながらも、「できる限り多くのクリエーターに5Gになったら容易にできるようになるVR/ホログラフィーの可能性について体験してもらって、こんなコンテンツを作ってみたいという提案をどんどんしてもらえたら」と語っていた。特に、サブカルチャーの消費者が多い日本であればこそ、コスプレーヤーにはコンテンツづくりに名乗りを上げて欲しいということだろう。
2020年は日本にとっても5G元年となる。すでに昨年5Gを導入しているタイなどアジア諸国を日本は追いかけるかっこうになるが、日本人の想像力をもって世界が驚くようなコンテンツを発信できる日が1日も早く来ることを祈りたい。