ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)
東京都出身。 高校卒業後渡英。 London School of Economics修士号取得後、2000年に帰国して外資系金融機関に勤める。夫の転勤により、ロンドンと香港での駐在を経験。2010年からニューヨーク在住。2児を育児中。 留学、夫の赴任先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験。現在は、JAPD家族療法カウンセラー、そして内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ ジャパン認定マザーズコーチとして活動。自身の海外経験を活かし、海外生活や海外での子育てが少しでも楽に、そしてより楽しく、より充実した生活になる事を願い、コーチングを行なっている。ライフコーチの特性を活かし、200校以上あると言われているニューヨークの私立校から、生徒やその家族にとって最良の学校選びの為のアドバイスも行う。
ビアンキさんへの執筆、講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談、また、記事に対する感想などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
AI後の世界でサバイバルする資質
〜失敗を恐れず、失敗から学べる人を育てるために〜
AI後の世界でサバイバルする資質 〜失敗を恐れず、失敗から学べる人を育てるために〜
ビアンキ曉子さんは英国のLondon School of Economicsで修士号取得後、日本に帰国して外資系金融機関に勤め、その後、ご主人の転勤でロンドン、香港での駐在を経験。2010年からはニューヨークで暮らし、二人のお子さんの子育て真っ最中です。留学や駐在先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験したことを活かし、現在は、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ・ジャパンによる認定マザーズコーチとして活躍されています。現在海外で生活中の方、あるいは、これから海外で子育てにチャレンジする皆さんの子育てが少しでも楽に、そして楽しく、より充実した生活になるようにと願い、NY発の様々なお役立ち情報を発信する連載をお願いしました。
きっかけは6歳の次女が見せてくれた絵。ところどころ破れているところをセロテープでとめようと思ったら、「それもアートなんだよ。わざとそうしたの。ウップシー(あーあ、あらいけない!)と言うアートなんだよ」と・・・。娘の説明を聞きながら思ったのは(この記事の本題となる)、失敗を恐れず、間違いから学ぶ事を奨励された子どもは将来どんな大人になるのか?ということ。それは、失敗したその物事が対象であり、そこから学び今後に活かすと言う教訓的な要素を感じる、「失敗は成功のもと」という昔ながらの諺や「失敗から学ぶ」というのとは、意味が違うように感じます。
この「ウップシーの絵」は、絵の具を紙に垂らし、そして半分に折り、開いたところで自分の想像力を使い、描き進める絵のテーマを決めます。そこで失敗しても大丈夫。視点を変え、テーマを変えることもできます。そのかわり、白紙からやり直すことだけはできません。それはまるで人生の様ですね。 間違えを楽しみながら、作品の新たな側面を発見し、根気よく続ける。それを小さい時から教えているのです。では何故、わざわざ失敗する事を教えるのか。それは、人は失敗や間違えに注意深く目を向け、避けるようにデザインされているからだそうです。太古の昔、些細な失敗や間違えが命取りとなったから。命を守るため、後世に遺伝子を残すためのサバイバルのために発達した特殊な能力。間違った小道を進み森の中で迷ってしまわないように。誤って食べた物に毒があり命を落とすなんてことのないように。でも、それは遠い遠い昔のこと、現代の私たちの生活にその能力は必要でしょうか? 私には、その能力の多くは活かされる必要が少ないばかりでなく、今後の社会で必要とされる人材を育てる妨げとなってしまっているようにさえも感じます。
失敗を恐れないと言うことは、難解、困難なことへのやる気をもたらし、より高い目標を目ざすチャレンジ精神を促します。スタンフォード大学教授のキャロル・デュエック氏のニューヨークの5年生を対象にした研究によると、失敗を恐れる子供たちは難問に直面した際に自分の実力以下の結果しか出せなかったそうです。その結果、知能が下がっていくという驚きの研究結果が導き出されました。 ロバート・ビスヴァス・デイネナー氏は、企業を対象とした調査で失敗を恐れない人の特徴として以下のことを述べています。間違えた問題を新たな方法で解こうとすることにより、発想力と想像力、創造力が養われる。失敗をしてもすぐに立ち直り、目の前の問題に再度取りかかれる。失敗を仲間と共有し教え合うことにより、良きチームメイトとなり仲間から慕われる。容易ではない失敗を認めることにより責任感が養われる。これらの事からその様な人は、リーダーとしての資質を備え、重要な役職に就くことが多い。企業文化としても失敗を恐れず、失敗から学ぶことを奨励する方が業績も上がるそうです。これらの能力は、スエーデン銀行やロンドンのUBSで既に導入され始めた、考えることのできるホワイトカラー・ロボットのアメリアに備わっているとは思えません。
では、失敗を恐れず、失敗から学ぶ子に育てるのはどうしたら良いのでしょうか。まず、私たち親が子どもに完璧を求めていないということを伝えてあげて下さい。「なんで100点が取れなかったの?!」「どの問題を間違えたの?!」なんて言わないであげて下さいね。完璧であることを期待されている(と思っている)子どもは、完璧でないと親から嫌われてしまうと思いがちです。間違いを犯しても愛情は変わらないということも伝えてあげて下さい。娘の学校を始めニューヨークの学校では、低学年の間は消しゴムを使わせない学校も有ります。間違えは恥ずかしいもの、削除し正解に書き直すという概念をなくすためです。その代わりに学校では、間違えの下にアンダーラインを引き、「間違え」とは呼ばず、「改善できる箇所」と呼び、自分で改善(訂正)させます。また、失敗やその解決の経験を話す機会も多く、「人生で最も恥ずかしい体験」についての作文を書いたりもします。そして人を傷つけてしまった、何かを壊してしまったというような大きな間違えを犯してしまった時には、間違えたことに焦点を置き叱るのではなく、失敗を冷静に見つめ、どうやってその間違えを直すのか、どの様に責任を取るのかについて話し合って下さい。そして大人にとっても難しい過ちを潔く認めることができた時には、その勇気と責任感を大いに褒めてあげて下さい。
私にとっても忘れられない長女の失敗が有ります。まだ6歳の時のことです。ピアノの発表会で最後の5つの音符を忘れてしまい、まったく弾けなくなってしまいました。「難しいところはもう弾き終わった。あと少しで終わる」と気を緩めた瞬間に頭の中が真っ白になってしまったそうです。最終的には先生がいらして、一緒に弾いて終了。目を合わせると泣き出してしまうからか、娘は頭を下げたまま。全員の発表が終わり、記念撮影が終わった瞬間に、その場で泣き崩れました。彼女にとっては難しく、苦手なタイプの曲。練習期間も短く、体調もとても悪い中での発表会。私の頭の中は、失敗したのは仕方ないという言い訳探しでいっぱいでした。ところが、娘の先生だけでなく、他の先生方や所属している音楽学校の校長先生までもが次々に娘に賛辞を下さったのです。それは、指使いが素晴らしい、テンポの切り替えが良かった、手が大きく力強くなりピアニストらしくなった。間違えた事は仕方がない、誰でも間違えるなどと娘のために言い訳を用意するのではなく、良いところだけを褒めて下さったのです。そして皆が会場をあとにした後に、先生が優しく「もう一度弾いてみる?」と。そして今度は間違えることなく見事に弾ききりました。娘は「間違えてダメな自分」ではなく、「間違えてもやり直せる自分」と言うかけがえのない経験をさせて貰えました。きっとその弾ききった時の手や足の感覚、目で見た鍵盤や会場、耳からの音、その全てが小さな体の中に流れ込み、大きな自信となったことでしょう。 それから4年後、「人生で最も恥ずかしい体験」についての作文を書いた際に、小さくとも美しく羽ばたくハチドリと、忙しく音をたてる耳障りなハチとの比喩でこの経験を表現しました。
失敗を肯定的に見るのを懸念されるのは、いい加減になってしまうことや、やる気を損なうことを恐れるからでしょうか。しかしながら、先の研究結果や娘たちをはじめ同じような教育を受けている生徒たちにそれは見られません。彼らには向上心が生まれ、より高いゴールを目ざし、揺るぎない自信と精神的な強さを武器に果敢に突き進んでいる印象を受けます。そして感じたのは、失敗を恐れず、失敗から学んできた人の持つ資質と言うのは、人工知能やロボットでは置きかえられないもの。それこそが、今後の世界においてサバイバルするための能力。私たちホモ・サピエンスも現在、そして今後の環境に合わせ進化を遂げる時なのかも知れません。