2019/02/08 13:31

頭の中はいつもヴェルディ/編集長のコラム Vol.14

『ブルバスターVol.1』より ⒸP.I.C.S. 企画:P.I.C.S. 原作:中尾浩之  カバーイラスト:窪之内英策

編集長のコラム Vol.14
『ブルバスター』起動!

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 
 今から十年ぐらい前だろうか。当時、私は三田の大学に勤務していたのだが、品川駅の高輪口を降りたところでテイクアウトのコーヒーを注文して待っていると、壁に埋め込まれたディスプレーに鎌倉の大仏が実はロボットで、すっくと立ち上がって大暴れする・・・しかも、この大仏は悪役で、正義の味方は工作機器を駆使する中小企業の社員たち・・・といったアニメをやっているのが目にとまった。「いったい何なんだ!」と呆気に取られ、あまりにも強烈な印象が残ったので、研究室に着いてすぐ、そのアニメのことを調べまくった。それは『昭和ダイナマイト』というタイトルの、中尾浩之監督(P.I.C.S.所属)による短編アニメのシリーズだった。

 このアニメは、都内の、ひなびた下町の中小企業の社員たちがヒーローで、今でいうなら『下町ロケット』的なセンチメントを湛えた物語である。そして、私たちが街で日常的に見かけるショベル・カーやブルドーザー、クレーン車などが悪を倒すロボット兵器として描かれ、日ごろは建設作業員として働いている、ツナギの似合う、ごく普通の青年やおじさんたちがこれらの工作機器ロボットを駆使して悪と闘うのだ。アニメは「ライブメーション」という、リアルな俳優の演技とアニメを合成したもので独特の「手作り感」溢れる表現だった。しかも大仏様が悪役だったり、無邪気な表情のアザラシが川に現れ、社員らが弁当を食べながら「かわいいっすねー」と和んでいると、実は、このアザラシたちが凶悪な射撃ロボットであるなど、設定の荒唐無稽さ、ギャグのセンスが見事だった。そして、このシリーズの「おち」は、毎回、悪を倒して戻ってきたヒーローたちが会社の経理担当の女性から無駄遣いを指摘されて怒られるという、ちょっと切ない「経費報告書」で、私はこのシリーズにすっかり魅了されてしまったのである。

 そんなわけで、なんとか大学での研究にかこつけて中尾監督、プロデューサーの平賀大介氏とお会いする機会を得ることとなり、シンポジウムのスピーカーでいらして頂いたり、平賀氏とは創造都市・横浜のプロモーション映像の提案をご一緒したりもしたのだが、その後、しばらく何年かはご無沙汰となってしまっていた。ところが2018年の年末近くなった頃、突然、平賀氏から、中尾監督が「昭和ダイナマイトの続編ともいうべき作品を小説として発表することになりました」というメッセージを頂いた。嬉しくなって、さっそく関連の画像を見てみると、『昭和ダイナマイト』と比べるとずいぶん洗練されたイメージではあったものの、ロボットは私好みの金属の塊の機械らしい機械として描かれていた。それが『ブルバスター』(企画P.I.C.S. 原作:中尾浩之 小説:海老原誠二 カバーイラスト:窪之内英策 メカニックデザイン:出雲重機 設定考証:高島雄哉)だ。中尾さんのチームはこの物語の長編アニメとしての映像化を前提として、キャラクター・デザイン、メカ・デザインに多くの協力者を得てコンセプト・ブックにまとめ、コミケにも出展した。幸い、大きな反響があり、また、ブルバスターの仮想の本拠地として、ある地方都市とのコラボの話がまとまり、現在は、具体的な映像化の話が進みつつある。なんと楽しみなことだろうか!

 中尾監督、平賀プロデューサーの心の中には、今も『昭和ダイナマイト』が生きている。そして、久しぶりに会った平賀氏は「やっぱりアニメってストーリーですよね。可愛い女のコのキャラクターに依存するだけではなく、ちゃんとしたヒューマン・ドラマを描きたい」と力強く語っていた。『ブルバスター』にも『昭和ダイナマイト』と同じように、「コスト管理」を現場に求める経理担当、バツイチのわけあり社長、口うるさいおじさんやおばさん、そして、搭乗型ロボットには青年、及び、若い女性パイロットなどが登場する。みんなセクシーというよりは、やや貧弱な体系の、いかにもな日本人キャラたちだ。彼らのつぶやくちょっとした愚痴からは、昨今の「働き方改革」のことなども考えさせられるのだが、一日も早く彼らの活躍を長編アニメとして見たいと願っている。