2018/07/25 13:05

ユダヤ教の成人式 (バー・ミツヴァ、バート・ミツヴァ)

Photo:バー(バート)・ミツヴァを祝うパーティーでの様子ⒸAkiko Bianchi

ユダヤ教の成人式 (バー・ミツヴァ、バート・ミツヴァ)

by ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

ビアンキ曉子さんは英国のLondon School of Economicsで修士号取得後、日本に帰国して外資系金融機関に勤め、その後、ご主人の転勤でロンドン、香港での駐在を経験。2010年からはニューヨークで暮らし、二人のお子さんの子育て真っ最中です。留学や駐在先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験したことを活かし、現在は、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ・ジャパンによる認定マザーズコーチとして活躍されています。現在海外で生活中の方、あるいは、これから海外で子育てにチャレンジする皆さんの子育てが少しでも楽に、そして楽しく、より充実した生活になるようにと願い、NY発の様々なお役立ち情報を発信する連載をお願いしました。

Photo:参列者の前に立って説教をする子どもたち
ⒸAkiko Bianchi

 アメリカ(ニューヨーク)に住むにつれ、「アメリカ」という一言で人種や文化、宗教を語るのは難しいと感じる事が増えました。 まさにアメリカの多様性によるところでしょう。宗教においては、今まで、日本、香港、イギリスに住んでいた時にはあまり身近でなかったユダヤ教にも触れるようになりました。先日、その中でも重要とされるバート・ミツヴァと呼ばれる宗教儀式に参加しました。
 アメリカにおけるユダヤ教人口は5,700,000人(国民の2%)とのことで、イスラエルに続き2番目に多い人口です。ニューヨークには1,100,000人、市の人口の8%に値します。 ゴールドマン サックス創始者ゴールドマン一族、ブラックロック創始者のラリー・フィンク氏、元ニューヨーク市長でもあるマイケル・ブルームバーグ氏など、ニューヨークに本社を構える名だたる企業の創立者やCEOはユダヤ人(教徒)ですし、多くの学校がユダヤ教の祝日を休校日とし、街を歩けばユダヤ教寺院であるシナゴーグが多く見られます。私たちがキリスト教でなくともクリスマスについて知っている様ように、ユダヤ教のお祝いのハヌカやハヌカにまつわる歌は、誰もが知っていることのようです。プリスクールに通う娘も感謝祭やクリスマスの歌と一緒にハヌカの歌を習っていました。
 先日参列したユダヤ教の成人式と称される、バー・ミツヴァ(13歳男児)、バート・ミツヴァ(12歳又は13歳女児)とは、ユダヤ法を守る宗教的、社会的な責任を持った成人に達したことを祝う成人式で「戒律の子」という意味です。13歳になった次のシャバット(安息日)に式を行います。バー(バート)・ミツヴァを迎えると、大人とみなされるため、ユダヤ教の全ての行事や社会生活に参加できます。バー(バート)・ミツヴァを迎えるにあたり、ユダヤ教寺院のシャバット礼拝への一定期間の参加や、ヘブライ語の勉強、ボランティア活動などを行わなければなりません。儀式では、 ユダヤ教本の一部の朗読や歌、礼拝を執り行います。この礼拝は2〜3時間で、ヘブライ語で行われます。実際にユダヤ教信者であっても家庭でも話されることはとても少ないヘブライ語を学ぶために、1年以上も前から家庭教師と学んだり、礼拝の準備をすることが多いそうです。このヘブライ語の礼拝に参加した娘は、「私はこれだけの長いやりとりを多くの人の前で日本語でもする自信がないわ。それを家でも話していないヘブライ語でするなんて・・・」と驚いていました。
 礼拝の後には、典型的なユダヤの食事が振るまわれます。そして、一度お開きとなり、夕方から盛大なパーティーが行われます。結婚式さながらのパーティー(私の結婚式よりも規模は大きかったです)には、家族や同級生、幼馴染、両親の友人など、小さな赤ちゃんからお年寄りまでが参加し、お祝いします。バー(バート)・ミツヴァの子を椅子に上げお神輿の様に担いだり、ゆかりの人々が13本のろうそくを1本1本点灯したりしました。私達はこのためにニューヨークからサンフランシスコまで飛行機で6時間アメリカを横断しましたが、海外からの方もいらっしゃいました。その位に重要なお祝いです。気になるお祝いの贈り物ですが、一般的に現金を贈ります。 招待された人1人につき$50-150前後で、ユダヤのラッキーナンバーである18の倍数にします。例えば、家族4人招待された場合に$400ドルではなく、18の倍数である$414とします。このような重要な成人式ですが、特に都市部において高級ホテルの披露宴会場、有名レストランやゴルフ場などを借り切ったりするパーティーがあまりにも盛大になり過ぎていることや、パーティーに招待された同級生が夜遅くまで保護者無しでいることなどは批判の対象となっています。

 今回初めてバー(バート)・ミツヴァに参列し、最も感銘を受けたのは、バー(バート)・ミツヴァに達した子どもたちによる説教でした。この日は、2人のバー(バート)・ミツヴァ合同礼拝でした。バー・ミツヴァを迎えた男児は、女性の権利と平等につて説きました。お祖母様はテキサス州で2人目の女性裁判官であり、お母様は大学教授。男性が多い環境の職場での素晴らしい業績を讃えると共に、アメリカにおける歴史的な背景、そして今後の展望など、とても細かいリサーチを基に語っていました。最後に「差別を受けている女性や有色人種が声をあげるばかりでなく、自分の様な白人の青年こそ、この様な問題に目を向けるべきである」と言っていたことにとても感心しました。
 そしてバート・ミツヴァを迎えた女児は、ユダヤ教の経典にもある善悪の心について説きました。誰にでもある善悪の心。「朝ごはんを健康的な朝ごはんにするか、又はお菓子の様なマフィンやドーナツを食べるか」「宿題をするか、テレビを見るか。」と言ったかわいらしいエピソードから始まり、「その悪の声に負けてしまうと、未成年の飲酒や、麻薬に手を出したり、鎮痛剤やスマートフォンも含め、何かの中毒、依存症になってしまう恐れもある」と・・・。身近に依存症を克服した方がいたとの事で、その方と依存症中から克服された現在まで接した経験も語り、アメリカ全土における依存症に対する問題を取り上げる素晴らしい話でした。自分でオーガニック石鹸製造販売のビジネスも行なっている彼女は、売り上げの一部をティーンエージャーの麻薬中毒者を助ける団体へ寄付する誓いを立てていました。ユダヤ教であるか否かと言うことではなく、この様な13歳になったばかりの青年達が身近な題材を取り上げつつも、社会問題について語り、今後の自分の貢献を誓うと言うのはとても素晴らしいことだと感動しました。

PROFILE

ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

東京都出身。 高校卒業後渡英。 London School of Economics修士号取得後、2000年に帰国して外資系金融機関に勤める。夫の転勤により、ロンドンと香港での駐在を経験。2010年からニューヨーク在住。2児を育児中。 留学、夫の赴任先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験。現在は、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ ジャパン認定マザーズコーチとして活動。自身の海外経験を活かし、海外生活や海外での子育てが少しでも楽に、そしてより楽しく、より充実した生活になる事を願い、コーチングを行なっている。ライフコーチの特性を活かし、200校以上あると言われているニューヨークの私立校から、生徒やその家族にとって最良の学校選びの為のアドバイスも行う。

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