2018/01/07 15:31

パール・ハーバーを訪ねて

Photo:USSアリゾナ記念館 ⒸAkiko Bianchi

パール・ハーバーを訪ねて

by ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

ビアンキ曉子さんは英国のLondon School of Economicsで修士号取得後、日本に帰国して外資系金融機関に勤め、その後、ご主人の転勤でロンドン、香港での駐在を経験。2010年からはニューヨークで暮らし、二人のお子さんの子育て真っ最中です。留学や駐在先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験したことを活かし、現在は、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ・ジャパンによる認定マザーズコーチとして活躍されています。現在海外で生活中の方、あるいは、これから海外で子育てにチャレンジする皆さんの子育てが少しでも楽に、そして楽しく、より充実した生活になるようにと願い、NY発の様々なお役立ち情報を発信する連載をお願いしました。

Photo:USSアリゾナ記念館慰霊碑前に置かれた
新藤義孝議員の献花 ⒸAkiko Bianchi

■複雑な思いを抱えて・・・

夏休みに家族でハワイを訪れた際に、アメリカ人の夫がパール・ハーバー・戦艦ミズーリ記念館へ行こうと言ったのにはとても驚きました。真珠湾攻撃について知っているのは「トラ、トラ、トラ」と言う暗号、アメリカの第二次世界大戦参戦のきっかけとなり、その参戦により日本への原爆の投下や、戦後の統治、さらにはアメリカが世界の警察として、戦後の世界での役割を決定づけるきっかけとなる出来事であったこと。2001年9月11日に起きたワールド・トレーディング・センターへのテロ攻撃があった際にアメリカ国内では「パール・ハーバーの記憶が甦る」という言葉が流布したと聞いていましたし、娘がまだ小学校1年生だった時にクラスメイトに「日本はアメリカを攻撃したって知ってた? またいつか攻撃するの?」と聞かれたこともありました。11月初旬にドナルド・トランプ大統領が日本を訪問し、”make alliance great again”と書かれた安倍首相とお揃いの帽子を被りゴルフをした、その直前にパール・ハーバーを訪れた際にも「リメンバー・パール・ハーバー」とツイッター・・・。ルーズベルト大統領が演説で述べた通り、アメリカ人にとっては「屈辱の日」であり、その思いはとても強いものなのだろうと思っていました。

パール・ハーバーへ行くのは気が進まず、子どもたちの事を考えると余計に気が重くなりました。父の国アメリカと母の国日本が敵国であったと言う事実を伝えること以上に、きっと日本に対し、とてもネガティブなことばかりが展示され、綴られているのだろうと思っていたからです。その様なフェアではない一方的な視点を子どもたちに見せたくはなかったのです。ホノルルでホテルの従業員やタクシーの運転手などで日系の方に出会うとパール・ハーバーに行ってみての感想を聞きました。そして、「いつか学校で習うことだから、子どもたちへ自分の口から伝えた方が良いんじゃない?」という主人の一言で、パール・ハーバーを訪れることにしました。
 
■パール・ハーバー

夏休み中という事もあってか、パール・ハーバー・戦艦ミズーリ記念館には日本人を含め多くの観光客が訪れていました。展示では第2次世界大戦までの道のりや、当時の戦艦や軍事テクノロジーについて、真珠湾攻撃のあった当日の様子やインタビューもありました。そして、短い映画にて攻撃の様子が上映され、それを見てからアリゾナ記念館などの沈没した船の見学へ。

参戦しないとの公約で大統領選に勝利したルーズベルト大統領は、参戦することに反対だったアメリカ国民を一致団結させ戦勝国と導くのに、「リメンバー・パール・ハーバー」と言う標語を巧みに使います。そして前述した通り、911テロの際にも再度リメンバー・パール・ハーバーと言う言葉を聞くこととなります。それだけアメリカ国民の脳裏に屈辱として焼き付いているものだから、さぞかし感情的にアメリカ側からのみ見た、まるでハリウッドのヒーロー映画に見られる様な善悪二元論で語られているのだろうと思っていましたが、それは見事に裏切られました。展示や映画を通じ、日本軍の開発した水雷の技術の高さや、真珠湾攻撃当日、日本軍の飛行機をサテライトで察知していたにも関わらず、味方の飛行機との判断ミスをしたこと、また基地にあった飛行機は攻撃に即対応できる様に待機されていなかったことなど、アメリカ側の失態も隠す事なく、史実に基づき淡々と語られていました。

アリゾナ記念館は、攻撃により沈没した戦艦USSアリゾナの上に建てられ、戦艦USSアリゾナ乗組員1777名のうち、船と共に沈んだ1102名、そして攻撃を生き残った乗組員で後年亡くなり、遺灰をUSSアリゾナに葬られた人々の名前が刻まれている慰霊碑があります。初老の元海軍兵で説明をして下さった方によると、日本から政治家や著名人がパール・ハーバーを訪れた際には、必ず献花をされるとの事です。また、日米の合同軍事演習などで自衛隊がパール・ハーバーに来る際には、必ず乗船している自衛隊員全員が甲板に立ちアリゾナ記念館の慰霊碑に向かって敬礼をしてくれると涙ながらにお話して下さいました。 あれから76年が経った今でも戦争は無くなるどころか、内戦やテロ、民族浄化など争いは後を絶ちません。命を落とされた元敵国の方を尊う自衛隊員の気持ち、そして敵国であった日本人を許し、自衛隊の敬礼や日本人がパール・ハーバーを訪れることに感謝され涙される、その姿に、平和への小さな一歩を見た様で、私たち家族も心を動かされました。

PROFILE

ビアンキ曉子(ビアンキ・あきこ)

東京都出身。 高校卒業後渡英。 London School of Economics修士号取得後、2000年に帰国して外資系金融機関に勤める。夫の転勤により、ロンドンと香港での駐在を経験。2010年からニューヨーク在住。2児を育児中。 留学、夫の赴任先での就労、妊娠、出産、子育てを4カ国で経験。現在は、内閣府認定NPO法人 マザーズコーチ ジャパン認定マザーズコーチとして活動。自身の海外経験を活かし、海外生活や海外での子育てが少しでも楽に、そしてより楽しく、より充実した生活になる事を願い、コーチングを行なっている。ライフコーチの特性を活かし、200校以上あると言われているニューヨークの私立校から、生徒やその家族にとって最良の学校選びの為のアドバイスも行う。

ビアンキさんへの執筆、講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談、また、記事に対する感想などがありましたら、info@agrospacia.comまで。