2017/04/18 05:35

アート・バーゼル 香港へ行ってみた…
-お金持ちはどこで美術品を購入しているのか?

Photo:これほどの数のアートコレクターが開場待ちしているのはアート・バーゼルならでは ⒸKentaro Hirano

アート・バーゼル 香港へ行ってみた・・・
-お金持ちはどこで美術品を購入しているのか知りたいですか?

by 平野健太郎(ひらの・けんたろう)

 平野健太郎さんはIT関係の会社の経営に携わっていますが、大学卒業後、しばらく私立美術館の学芸員だったという異色の経歴の持ち主。小さい頃からアートが大好きで、以前、スイスのバーゼルで開催される「元祖」ともいうべき近・現代美術のアート・フェア(美術見本市)、アート・バーゼルを数日かけて見た経験もあります。今回は編集長の依頼を受け、世界の富裕層が一堂に会することで注目されているアート・バーゼル 香港を取材してきてくれました。

Photo:展示ブースはギャラリーごとに ⒸKentaro Hirano

 世界中からアート作品を買い求める、富裕層が集まるイベントに参加してきました。このように伝えると、少しは興味を持って頂けるかもしれませんね。

3月に香港で開催されていた「Art Basel」に行ってきました。Art Baselを簡単に説明すると、世界最大規模のアートフェアです。今ではバーゼル、マイアミ、香港と、三都市で開催されるようになりました。

香港では5回目となり、世界34カ国・地域より242軒のギャラリーが参加し、8万人の来場者になったそうです。世界中のギャラリーとアートコレクターが香港に集まるのです。

今年の会期は2017年3月23日から25日でしたが、21日と22日はプライベート・ビューという、招待客のみが参加できるイベントとなっており、ギャラリーの招待客やアートコレクターなどが中心となり、一般に公開される前に作品が購入できるタイミングとなります。香港のArt Baselでは未確認ですが、本家、バーゼル(スイス)では、さらにその前にファースト・チョイスという、超VIP向けチケットがあり、実際に美術品を購入するコレクターのために設けられた特別な時間であるため、メディアが取材に入ることもできません。

わかりやすく説明しますと、このように分類されています。

超富裕層:アートコレクター ファースト・チョイス 
     プライベートジェットでアート作品を買いにきてしまうような方々が対象。会期中、バーゼル空港には30機を超すプライベートジェットが並び、混雑します。

富裕層:アートコレクター プライベート・ビュー 
    数百、数千万〜数億の作品をポンと買ってしまうような方々。香港では、ファースト・チョイスがないようなので、超富裕層と富裕層は混ざっているようです。

富裕層と・・・・一般見物客(私)

Photo:VIP送迎のために待機する車両がずらり ⒸKentaro Hirano

 私は10年ほど前に、スイスのArt Baselにも参加しており、プライベート・ビューにも参加しましたが、移動はBMWでした。今回も同じく、スポンサーにBMWがついており移動で利用できるようになっていました。スイスの時は、ロールスロイス・ファントムがありましたので、ファースト・チョイスのお客様用送迎用だったのでしょう。

Photo:会場内で目をひくUBS銀行のロゴ
ⒸKentaro Hirano

 Art BaselのメインスポンサーといえばUBS銀行です。日本では馴染みが薄いですが、UBS銀行では、プライベート・バンク機能がとても強く、富裕層の資産(単に現金だけではないウェルス・マネジメント)の運用を任されています。投資の一つとしてUBS銀行はアートに着目をして、Art Baselを長年スポンサーしています。アートに投資する富裕層と、投資先のギャラリーやアーティストを結びつけるハブの役割にになっているわけです。作品を飾るにはそれに相応しい家が必要なので、建築家と顧客を引き合わせたりもすれば、アートのほか、ヨット、競馬、音楽などでも大きなイベントのスポンサーにもなっています。

Photo:VIP専用のエントランス ⒸKentaro Hirano

 開場を今や遅しと待っている富裕層のアートコレクター。その様子は、私たちのイメージだと、まるでアートのコミケ状態。多分、皆さんとてつもないお金持ちですよね。中にある作品のお値段は・・・高級車が買えるぐらいの金額、あるいはそれ以上もざらです。スイス・バーゼルでのファースト・チョイスでは開場と同時に、まるでバーゲン会場を目ざすかのように、コレクターたちがいっせいに走り出すのですが、滅多に見れる光景ではありません。目ざすギャラリーに駆け込み、日本円で3000〜4000万円の作品を複数のコレクターが奪い合って、ギャラリーのオーナーを前にして、お互いに「もっと払うから譲って欲しい」と交渉するような状況が起きたりもします。

Photo:高級感漂うVPラウンジの中 ⒸKentaro Hirano

 会場の裏側には、VIP専用のラウンジがあり、その中ではオーディマピゲなどの高級時計やヘッドホン・ブランドまでがブースを用意して、富裕層向けのブランド価値のプレゼンテーションに努めています。お酒なども自由に飲むことができる会場は海外ならでは。出展しているギャラリーの開場にはシャンパンを用意しているところも珍しくありません。スイスのバーゼルでは、シャンパンで寿司をつまむのが定番となっているようです。

Photo:一般公開前のプレヴュー中のコレクターたち ⒸKentaro Hirano

 値札が張ってあるわけではないので、値段を知りたければ、ギャラリーの人に聞くしかありません。ハウマッチ? そう、勇気をだして聞いてみましょう。

比較的「安い」と思われる作品でも、軽自動車から高級車程度の金額を教えてくれます。値段を聞いてみて一番、手頃だった作品が30万円程度。せっかくの機会、鑑賞するだけではなく、自分の気に入った作品の値段を聞いてみるのもArt Baselならではの楽しみです。

前日のギャラリー・イベントでお知り合いになった方(香港在住の富裕層)が、ご家族で来場をしていて再会。実際に絵画を購入されていました。笑いながらお会計が怖いと言ってました。本当に数千万〜の作品をArt Baselで購入していく人々がたくさん。気になる作品の値段を聞いても、既に売れましたという返事も。購入意欲の高いプライベート・ビューの活気は凄まじい。

展示販売されている作品は、20世紀、21世紀の現代アートが中心ですが、美術館でしか普段、鑑賞することができないような作品がたくさん・・・値段がついて売られています。バーゼルでは写真撮影は禁止されていましたが、香港では、撮影も自由なようで、さながら写真を撮れる現代美術館状態でした。

Photo:こんな作品を飾るには大きな家が必要 ⒸKentaro Hirano

 Art Baselに参加しようと思えば、バーゼルやマイアミまで15時間近いフライトをしなければ体験できませんでしたが、香港であれば4時間程度。日本からもっとも気軽に、世界のアートフェアを体験できる貴重な機会です。活気づく香港のArt Baselに飲茶がてら足を運んでみてはいかがでしょうか? アートとの関係を少し変えてくれる良い機会になるかもしれません。

本気で作品を購入する人のためのおすすめサイトはこちら:http://artsalesindex.artinfo.com/

PROFILE

平野健太郎(ひらの・けんたろう)

大学時代にアートマネージメントを研究後、美術館学芸員として勤務。その後、FICC inc.(デジタルエージェンシー)を起業という異色の経歴。アート・クリエイティブ・マーケティング・管理部門などの経験を通して、世の中に価値のありそうな、戦略プランニングを得意としている。