高木悠凪(たかぎ・はな)
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
第15回 NYから:Show&Tell(ショー&テル)
ー他者を受け入れ、自分について語る
第15回 NYから:Show&Tell(ショー&テル): 他者を受け入れ、自分について語る
高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、プリキンダーガーテン(日本でいう幼稚園の年少の4歳児)の参観日でおこなわれる”ショー&テル”についてとりあげています。
- Photo:教室での生徒たちの様子
ⒸHana Takagi
昨年9月から地元のプリキンダーガーテン(日本でいう幼稚園の年少の4歳児)に通いはじめた長女。月に2~3回と、頻繁にある参観日では決まって”ショー&テル”が行われていた。
“ショー&テル”とは「何らかのテーマについて自分が感じたことや考えたこと」を、人前に出て、決まった時間内で「見せながら話す」、そして先生やクラス、メール経由での質問に答えるというものだ。アメリカではプリキンダーガーテンやキンダーガーテン(日本の幼稚園年中)の頃から小学校低学年までカリキュラムに取り込まれており、幼少期からこの訓練により、パブリック・スピーキングのスキルを身に着けていくのが狙いである。
“ショー&テル”の良さを挙げると・・・
1)自分の話したいことを、他者に聞いてもらえる。
2)他者の話を聞くことで、自分とは違う視点・考え方を知ることができる。
この2点に尽きる。
1)では、みんなが知らない自分をクラスのみんなに知ってもらえるチャンスであり、聞いてもらえる人がいるからこそ自分の能力を発揮できるという大切な場となる。発表者が前に出て話し、クラスのみんなは発表者の話に耳を傾ける。ちゃんと聞いてもらえることで自分は大切にされていると感じ、また話したくなる。その結果、みんなが自分にしてくれたように人の話を聴くことが大事だと理解できるようになるのだ。
2)では他者の話をたくさん聞くことによって多様な考え方や視点、その表現方法を知ることができる。この時、他者の発言について否定するのではなく、その違いを知り、質問することで相手の真意を知り、受け取ることを大切にしていたところが素晴らしいと感じた。
筆者の娘の場合、家庭内では日本語のみで過ごしているので、学校で初めて英語を学ぶことになった。通常のクラスではもちろんのこと、”ショー&テル”でお友達の話を聴くことで、より英語に対する親しみが増し、様々な表現法が身についていったように思う。
- Photo:ある生徒の解説チャート
ⒸHana Takagi
娘のクラスでの”ショー&テル”では、以下の項目が取り上げられた。
・家族写真を見せながら、家族について話す
・光と影のテーマにちなんで、白・黒の貼絵で作った作品について話す
・自分の名前のアルファベットを選んで、貼った作品を見せながら話す
・自作の帽子を被りながら、それについて話す
・・・など。
ある日の授業参観の様子を見てみよう。今日のテーマは『昼間にあなたは何をしていますか?』で、”Rise & Shine(起きたら元気に)”という本を読み、ひとりひとり前に出て自分で描いた絵を見せながら話す。
ある生徒は「僕は昼間にプレイグラウンド(公園)へ友達と一緒に行きます」と好きな遊具を描いた絵を見せながら話してくれた。また、ある生徒は「学校で友達と一緒に遊びます」 他には「木にハンモックを掛けてお昼寝します」といった具合だ。
娘の学校にはアメリカ人のみならず、メキシコ、エクアドルなどの中・南米、エジプトなど北アフリカ、イエメンなど中東、スロベニアなど東ヨーロッパ、バングラデシュなど南アジア、フィリピンなど東南アジア、そして日本などの東アジアなど、様々な地域から来た親の子供が多い。ひとつのテーマでも親たちの住んでいた国や文化、祖父母が今も住んでいる地域の風景が出てきたりして、その子供のルーツが垣間見えるのは面白い。
日々の学校生活の中で他者を受け入れ、自らについても話す。この訓練を幼少期から経験しているからこそ、人と意見が違っても「私は〇〇と考えます」と自信を持って堂々と話せるのだと感じた。その基礎的なスキルにプラスして、年齢が上がるにつれて論理性が加わった話を展開できるようになり、後々のパブリック・スピーキングの能力へと繋がっていくのは納得がいく。
実際にアメリカに住んでみて、誰もが自己主張が強いと感じていたが、日本のように周りを慮って「察する文化」ではないので、自分のことはきちんと話さないと誰もわかってくれない。そして遠慮してしまうと、いとも簡単に自分の考えていたこととは違う結果を招いてしまう。世界のどこにいても自分を正しく知ってもらい、思っていることを具現化しやすくするには”ショー&テル”のような、誤解されずに「発信するスキル」を身に着けておくことが、これからの時代を生きて行く子供たちに求められているのではないだろうか。