板谷優吾(いたや・ゆうご)
1994年、千葉県出身。青山学院大学総合文化政策学部在学中。いま興味があることは、海外の最近の文化について。将来は航空関係での就職をめざしている。
HEART & DESIGN FOR ALL
ーみんな輝く・・・一人ひとりが違うって素晴らしい!
2016年6月18日、青山学院大学青山キャンパス本田記念国際会議場において、東京新聞、青山学院大学社学連携研究センター主催、HEART & DESIGN FOR ALL 第2回(2016年度第1回)シンポジウム「みんな輝く・・・一人ひとりが違うって素晴らしい!」が開催された。車椅子の視点から見たユニバーサルデザインとマナー、女性やLGBTがストレスなく活躍する社会を実現するためにはどういうことを考え、実践してゆけば良いのか? 産後の女性を心身両面でサポートするNPOの取組みや、地方都市でのLGBT支援のあり方と可能性、非当事者にもできるLGBT支援などに焦点を当てたテーマで5名の登壇者が講演した。
当日は非常に暑い日の午後だったにもかかわらず、会場が青山学院大学だったこともあって、学生から高齢者まで幅広い年齢層の顔が見え、200名を越える来場者は最後まで熱心に耳を傾けていた。シンポジウム終盤には、岩渕潤子青山学院大学・客員教授による講演の中で、青山BBラボが昨年度取り組んだ日本語吹き替え版のWebアニメ、『McTucky Fried High(マックタッキー・フライド・ハイ)』も上映された。当日、ラボの学生たちは構内、及び、会場の誘導担当スタッフとして参加した後、シンポジウムを聴講して、様々なことを考えさせられる貴重な体験をすることとなった。
- Photo:笑顔で話す岸田さん。すべての講演には手話通訳が… Ⓒ青山BBラボ
基調講演I:岸田ひろ実さん
株式会社ミライロ講師の岸田ひろ実氏は、知的障害のある長男の出産、夫の突然死を経験した後、自身も2008年に急性大動脈解離という病気で倒れた。存命率20%という危機を乗り越え、一命は取り留めるも、後遺症で下半身に麻痺が残り、以来車椅子での生活となった。歩けないという現実に絶望し、自暴自棄になったこともあったが、救いを求めて心理学を学んでいくうち、自分と同じように苦しんでいる人のために何かしたいと考えるようになり、現在は人材研修講師として活躍し、ユニバーサルデザインの普及啓発講義を実施している。ハード面でバリアフリーを支えるユニバーサルデザインだけでなく、障がいがあっても自律して生活できる社会の実現のため、株式会社ミライロは「ユニバーサルマナー」というコンセプトを樹立し、その検定の普及にも尽力している。岸田ひろ実さんは、娘さんと同じ会社で働いているが、「今が一番しあわせ」と語る明るい笑顔から、自分らしい活躍をされていることが伝わってきて、会場は大きな感動に包まれた。
- Photo:講演する松中さん
- Ⓒ青山BBラボ
基調講演II: 松中 権さん
大手広告代理店に務める松中 権さんはNPO法人グッド・エイジング・エールズを立ち上げ、LGBTをポジティブに可視化するための活動を行っており、LGBTもそうでない人も気軽に訪れることのできるカフェやシェアハウスなどの運営を行っている。松中さんは講演の中で、いまだに馴染みの薄い人が多いLGBTついて、多くのデータを基に、どんな来場者にも理解しやすいように沢山の事例を紹介した。自分たちの老後という未来が描きづらいLGBTの人たちが安心して暮らし、自分らしく輝けるように理解者を増やし、カミングアウトが受け入れられやすい環境を作ってゆきたい・・・それを「ウェルカミングアウト」と呼べたら良いですねと、松中さんは講演を締めくくった。今後、松中さんの願いがかなって、「ウェルカミングアウト」が進んだ未来が訪れることを期待したい。
- Photo:資料を手に語る吉岡さん
- Ⓒ青山BBラボ
事例報告 I: 吉岡マコさん
NPO法人マドレボニータ代表の吉岡マコさんは、自らが出産を経験した際に、産後ケアの制度がなかったことからその大切さを痛感し、NPO法人を設立した。マドレボニータでは、12都道県各地の教室でワークショップを展開している。吉岡氏は、産後の母親が社会から孤立しがちで、産後鬱や乳児虐待も社会問題として起っている現状を指摘し、お母さんたちのケアがいかに重要であるかを訴えた。マドレボニータでは、障害児や多胎児の母、ひとり親などの受講料を補助する制度や、過去に支援を受けた人がボランティアとして後輩の母親を支援する制度を展開し、支援の輪を広げる取り組みが行われている。女性の育児休暇や社会復帰など、出産にかかわる諸制度の拡充は行われてきたが、それは出産までの部分がほとんどで、出産した後の女性自身の健康や精神的な支援については、男性側に知識がないこともあってか、女性が孤立しがちな社会構造が出来上がってしまっている。母となる人にパートナーの男性がいる場合、出産後のケアについての知識を一緒に身につけることの大切さを理解してもらい、マドレボニータが取り組んでいる女性同士の助け合いのネットワークを広げ、妊娠から出産後まで安心して過ごせる環境づくりがとても重要だと吉岡さんは語り、広く会場の共感を呼んでいた。
- Photo:最後に美声を披露した河野さん
- Ⓒ青山BBラボ
事例報告 II: 河野陽介さん
声楽家の河野陽介さんは「歌うLGBTアクティビスト」として活動している。茨城で生まれ育ち、幼少期からセーラームーンなど、「女の子っぽい」ものが好きだったことでいじめられたこともあったという。芸大に進み、声楽家として活動している現在、感情の共有が大切だと思うようになり、ツイッターなどのSNSで呼びかけ、様々な人たちと集まって食事をする会などを開くようになった。しばらく、東京を活動の拠点としていたが、ある日、地元の高校で起きた事件がLGBTと関係していることを知り、地元にもLGBTは確かに存在しており、課題が多くあることに気付いて、地元での活動に精力的に取り組むようになった。最近では地元の中学校に講師として招かれ、LGBTの子どもたちとの接し方についてなど話すことも増えたという。多様性を認める寛容な社会の実現が急がれているのだ。河野さんは、青山BBラボが昨年度制作した『マックタッキー・フライド・ハイ』シーズン1の吹き替え版で声優を務めてもいるが、バリトン歌手である彼は今回、発表を『ネッラ・ファンタジア』という「いつか平和で正義が行われる世界が来ることを夢見ている」という希望に満ちた歌でしめくくり、その美声で会場を圧倒した。今後も、音楽的才能を活かしたLGBTアクティビストとしての活躍を期待したい。
- Photo:シンポジウムを終えて講演者全員で記念写真
- Ⓒ青山BBラボ
事例報告 III: 岩渕潤子さん
青山学院大学総合文化政策学部・客員教授の岩渕潤子さんは、青山BBラボで学生とともに、LGBTや様々なマイノリティを非当事者として理解し、支援する活動を行っている。カリフォルニアの大学で学んでいた時期、LGBTを含むマイノリティについての必修のセミナーを履修したことと、当事者の学生に出会ったことがラボを始めた原点だという。シンポジウムの直前、フロリダのオーランドでゲイバーが襲撃され、多数の死者が出ており、LGBTへの差別がまだまだ根強いと痛感させられたことは衝撃的だった。報告の最後に、ラボで日本語吹き替え版を制作したLGBTについての理解を深めるアニメ『マックタッキー・フライド・ハイ』が上映された。伝統的な性別を尊重するため、着たい服を着て卒業写真を撮ることを許されず、苦悩する十代のトランスジェンダーのキャラクターがリアルだった。身近なアニメなどを通して、知らないことを知り、理解していくことは、差別のない社会を実現するために不可欠だと、改めて感じさせられた。ラボに所属する学生たちは、非当事者の岩渕さんがLGBTの支援に熱心である理由を聞く機会が今までなかったが、今回のスピーチを通して、活動のルーツを知ることができたのは有意義だった。岩渕さんは、「変えようと思えば社会は変えられる。マイノリティを理解するには相手の立場で考える想像力が必要だ。そのためには、まず、知ろうとすること、相手を否定しないことが大事なのではないか」と述べて、発表を終えた。LGBTに限らず、様々な人がいる社会においては、相手の立場に立ち、正しい知識をもって、誰とでもコミュニケーションができる大人になりたいと感じた。
会場からの声・・・
今回のシンポジウムについて、大学から届くメールで知って参加した東京都中央区在住の青山学院大学総合文化政策学部3年・邑田桃子さん(20)は、岸田ひろ実さんの講演に特に興味を持ったそうで、「誰もが暮らしやすい社会、まちづくりについてはこれからも考えていきたい」という。邑田さんは、「いろいろな人が集まりやすい都市だけでなく、圧倒的な少数派になる地方こそ多様性を受け入れることが必要だと思った」とも語っており、河野陽介さんのお話にあったように、地方から差別意識を変え、社会の意識を変えていくことができるのではないかと期待を寄せていた。
北澤瑠希(きたざわ・るき)
1995年、青森県生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在学中。中学校時代にロシアに滞在し、国際文化に関心を持つ。日本の伝統・地域文化、国際政治・経済を学んでいる。
浜井理奈(はまい・りな)
1995年、広島県生まれ。青山学院大学総合文化政策学部在学中。音楽や文化全般に興味あり。将来は音楽業界で文化に携わるような職に就きたいと思い、模索中。