2016/05/02 13:30

第14回 NY:ファイナンシャル・エイドを使って、私立校で学ぶ Vol.2

Photo:おススメ書籍を紹介するビアンキ暁子さん ⒸHana Takagi

第14回 NY:ファイナンシャル・エイドを使って、私立校で学ぶ Vol.2

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、高額とされる私立校についてとりあげています。

Photo:NYの私立校について書かれたの唯一の本
ⒸHana Takagi

 
<名門私立校の入り方とその魅力>

 NYで日本人向けに海外生活・子育てサポートするNY La vie ※3 が主催する『NYプライベートスクール 学校説明会「5W1H」』にゲストスピーカーとして登壇したビアンキ・暁子さん※4に長女(8歳)をどうやって名門私立校(女子校)へ進学させることに成功したか、また私立校の魅力についてうかがった。

 「娘の進学にあたって私立校について知りたくて、興味ある学校にお子さんを通わせているママさんに話を聞きたいと思ってました。しかし周りに私立校に通学させている友人が少なかったので、主人の会社の方の奥様にアポを取ってランチやお茶をしてみたり、習い事先で私立校の制服を着ている子のお母様に話しかけたりと、情報を集めるだけでも苦労しましたね。それからThe Parents League of New YorkやEarly Steps※5などの進学サポーティング・グループ、ヴィクトリア・ゴールドマンのThe Manhattan Family Guide to Private Schools and Selective Public SchoolsというNYの私立校についての唯一の学校一覧の本を参考にしました。」

 NYに住む日本人家庭の子供の多くは公立校に進むことが多く(公立校でも選抜校や選抜クラスがあったり、学力レベルの高い学校、特色のあるカリキュラムの学校はある)、学費の高さや入学手続きの煩雑さなどもあって、私立を敬遠する傾向があるという。そういった中、例年9月初旬のレイバー・デイ明けから始まる私立校の出願日は年々早まる傾向で、近年ではインターネットで8月初旬から開始となる学校もあるようだ。実際にどういう内容の入試なのだろうか? 暁子さんにお聞きした。

 「子供の選考方法は〝プレイ・グループ”というグループ面接があり、内容はゲームやパズル、サークル・タイムのようにして先生が本を読み、それについて質問をしたり、マグナ・タイルのような組み立てるものを使ったものもあります。娘が受けた共学の学校では、マーカーで絵を描かせてそれについての話をするというものでした。
 その学校から後日フィードバックとして次のような話を聞きました。試験当日がちょうど私の父の誕生日だったので、『おじいちゃんのバースデー・カードを作ろうと思う』と娘は先生に言い、紙とマーカーを渡された時に『はさみと糊も欲しい』と話したのですが、それらを使えないことが分かると、『では、違う絵を描きます』と返答したようです。
 このフィードバックで娘は『作業する前に順序立ててものを考えられる。この会話のやりとりから、この子は4歳でそれが出来ている』というところを評価されていたみたいです」

 同じく4歳から受験できる公立校のギフテッド&タレンティッド(優秀児童を対象としたカリキュラム)の試験ではこのような選考方法とは異なり、図形認識が中心となる。私立校は各校それぞれ、独自の方法で自校の求める生徒を選ぶという点が特徴的で興味深い。

 私立校の場合1クラスは15~20名、キンダーガーデンでは先生が2名体制であることがほとんど。1~2年生になると、読み書きや算数でさらに小グループに分けるので1クラスは5~10名程度となり、ほとんどの場合はレベル別となる。低学年から読み書き、算数、作文などではその分野の専門の講師が担当し、レベルの低いクラスでは必要とみなされた場合、手厚い個別指導が行われることもある。これは進度で遅れを取っているからという理由だけではないそうだ。

私立校に特徴的なきめ細やかな個別指導について例を挙げると…

 「娘(以下:Aとする)は今2年生なのですが、読解力は高いけど、朗読は苦手でした。日本人の私が読むのに引っかかるから、娘もそうなってしまうものかなと思っていました。読解力と朗読のレベルの開きはあるけれど、リーディングのグループは真ん中なので、心配するほど遅れを取っているという訳ではありませんでした。それにもかかわらず、先生からは『本人のレベルに合った、もう少し易しい本を読ませるように』と言われました。私は娘が易しい本を読みたがらないのですと話し、読解力があるから、その内容では物足りないのだと説明しました。娘は『赤毛のアン』が大好きで、しっかり意味を把握して読むことが出来ると伝えたのです。その翌日、先生から娘が読むべき本のリストがメールされてきました。そこには、『Aは赤毛のアンが好きなので、きっと△△の本も好きになるでしょう。ほかに××の本は、Aは動物好きなので、きっと喜んで読むと思います』 と書かれていました。先生からのこの迅速な対応には驚きました。特に遅れを取っているわけでなくても、娘のためを思ってこのような提案があるとは、娘の学習の状況と興味の対象を実によく見てくれていると感心するばかりでした」と、暁子さん。

 実際に先生から提案されたリストの本を娘さんは喜んで読み、着実に朗読のレベルは上がってきたという。このような学校の対応に暁子さんは全幅の信頼を置いている。
 私立校に入学するポイントとしてはナーサリー、プリキンダーガーデン(Pre K)から始まり、キンダーガーデン~グレード1(1年生)までが主だが、進学を考えるにあたり高校までの道のりを念頭に置くことの重要性を暁子さんは説く。

 「アメリカでは高校卒業と共に両親の元を離れる傾向があり、法的にも18歳で大人とみなされます。そのため、多くの12年制(日本でいう小・中・高)一貫教育の学校では、社会へ巣立っていく生徒をどのような人物に育て上げたいか、どの様なスキル(社会性や知識など)を身に付けさせたいかなどを目標に掲げ、そこへ向かってのカリキュラム作りがキンダーガーデンからなされています。親は自分の子供に対して、将来このようなオトナになって欲しいという思いが何かしらあると思います。そこへ向かって家庭と学校とが一緒になって、小さい時から理想の教育に取り組めることはとても魅力的だと思います」

 NYの私立校にはアカデミックなプログラムに力を入れた学校ばかりでなく、中国語やスペイン語、フランス語などの語学やロボット工学を学べる学校、オフ・ブロードウェーで人気の「ブルーマン・グループ」が設立したブルー・スクール(Blue School)ではレッジョ・エミリア・メソッドを感じさせる創造力を鍛えるプログラムなど、バラエティに富んだ選択肢がいくつもある。
 我が子にどういうオトナになってもらいたいか? どういう道筋で社会に出て行くのが合っているのか? そのためにファイナンシャル・エイドを利用するなど、親子にとってより良い選択が出来きれば・・・と思う。

※3 NY La Vie: NYで日本人向けに海外生活・海外子育てサポートを行う。学校進学や英語による各種手続きのアドバイスやワークショップを開催。
ホームページ: 困ったな・・と思ったら。NY生活応援団 NY La Vie
フェイスブック: NY子育てClub
※4 ビアンキ暁子さん 内閣府認証NPO法人マザーズコーチ・ジャパン認定コーチ。
自身の受験経験より、NYにおける受験では子供の性格や興味の対象への理解、強みの発見、保護者の教育に対する理念、家族の軸となる価値観の確立の重要性を痛感。それらをコーチングにより引き出し、各家族にあった学校選びのアドバイスも行っている。在米6年。2児の母。
akiko.bianchi@ivorytree.com

※5 Parents LeagueのHP http://www.parentsleague.org/index.aspx
  Early StepsのHP http://www.earlysteps.org/
追記:公立校の申し込みの手続きは、オンラインで子供や家族の情報、現在通っている学校の情報くらいで済むが、私立校の場合〝なぜこの学校に応募したのか?”などの質問が多く、ひとつの学校でA4用紙18枚分程度のリポートを必要とするようなケースもあるようだ。事前に十分な時間を取って準備することをお勧めする。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。

*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。