2016/02/05 08:16

第13回 (Vol.3) NY:リトミックの真髄をNYで学ぶ
よりよいメソッドを求めて・・・ある音楽教室の先生の挑戦

Photo:作曲の発表など掲示版の様子 ⒸHana Takagi

第13回 NY:リトミックの真髄をNYで学ぶ
よりよいメソッドを求めて・・・ある音楽教室の先生の挑戦

Vol.3 表現力を磨き、個々の可能性を最大限に伸ばすダルクローズ・リトミック

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、「リトミック」教育について、ある音楽教室の先生の挑戦をとりあげています。

Photo:即興の演奏で全身を使って表現
ⒸHana Takagi

 
<インプロヴィゼーション(即興演奏)について>
-筆者はこのクラスを見学させて頂いた

 とても柔和な印象のマイケル・ジョヴィアラ(Michael Joviala)先生の繰り広げる即興演奏のクラス、テーマに沿ってテンポよく進行していく。その内容について吉田さんにお話しを伺った。

吉田: ピアノを使って、即興でテーマに沿った音を表していきます。例えば、テーマを「天気」とした時、演奏者以外の全員が思い思いに天気の移り変わりを「ジリジリと照り付けるような日差しの晴れ→やがて黒い雲が広がり→雷が響き渡り→いきなりの土砂降り→だんだん小雨になって→雲がスッと消え→また晴れ渡る」などというストーリーをつくりあげ、奏者はそれに合わせてピアノで次から次へと音を作り出していくのです。

 表現力を磨くレッスンでは、例えば、「ボールを誰かに渡す時の音」を言葉で表現する時に新たな発見がありました。ポンッとかシューとかポポポポンなど思いつきましたが、Boomoo、Drurumgi、Pmpmpmzzzなど、ボールをはじく音を様々な擬音を使って表現するバリエーションの多様さに驚きました。日本語にはない擬音語が面白く、実際に演奏する時に豊かな表現力で音を奏でるため、多様な表現方法を身につけるのは大切だと感じました。また、「三匹の子ブタ」をテーマにした時にはだれがオオカミをやるのか、みんな積極的に役を取りに行き、フロアに寝転がって足をバタバタさせたりして、いかに他の人とは違う表現をしようかと挑戦する姿に日本人には破れきれない殻のようなものを感じました。

 ダルクローズ・クラスのディレクターのアン・ファバー先生の本では「全ての生徒に即興をさせましょう」、「音楽で会話をしましょう」ということが書かれていました。暗譜で、あるいは楽譜を見て演奏するのと、自分で即興演奏をするのとは違いますが、音楽で表現して理解するという神秘的な力が働いているという部分には共通点があります。私たちは音楽で話をし、そして音楽も私たちに話しかけてきます。実際にアンに会ったことによって、彼女が言おうとしている意味がいっそう良くわかりました。まさに、言葉以上の説得力が、アンのピアノから聴こえてきました。

-吉田さんは、担当講師による親子クラスを見学した時のことについても語ってくれた。

吉田: マイケル先生の親子クラスを見学した時のことです。先生は音のない空間からスタートしました。言葉も楽器の音もない静寂な空間で、ゆっくりと布を上げていく…といったように。音楽の教室では音がいっぱいあるもの、そうしないといけないように思っていたので驚きました。
 「親子で好きな歌を歌おう!」という時には、すべての親子がみなそれぞれ違う歌を歌っていて、先生がそれらの歌を拾って、みんなで歌い、個々の感性を認めて伸ばそうとされていることに感銘を受けました。「人の真似はダメ。何でもアリ。一緒に楽しもう!」と仰っているようでした。

<自分で考えて・行動する子、チャレンジできる子になるためのリトミック>
-吉田さんご自身の、今後のクラスへの取り組みについて伺った

吉田: 今回ダルクローズについて深く学んだのですが、自分の教室でのレッスンをさらに面白いものにしていくためには、様々なテクニックを駆使することも必要ですが、音楽は正しい拍子や音で演奏しないと成立しないと、今まで以上に強く感じました。
 こうしたプログラムを子供たちに提供できるのは、自分がショパンやベートーヴェンを弾くのが上手な演奏者だからではないということではないのです。私自身は、リトミックのプロとしての専門性を高めていきたいと思います。
 リトミックをやってから楽器を習う子は、楽譜に書いてある本来の意図を自分の考えで読み取り表現することができるといつも感じています。また、ある曲に対してストーリーを考えて演奏したり、1つの音に対してこだわった音色を求めたり、音の楽しさを知っている子が多いです。指の形、姿勢、強弱記号、音の長さなど・・・こちらが指示した通りに課題をこなすのではなく、子どもたちには音楽の本質的な楽しみを知って欲しいと考えています。

 私の教え子たちには、必ずしも将来音楽家にならないといけない訳でなく、また言われた通りにだけやればいいという子どもにはなって欲しくありません。〝自分で考えて行動する人”、〝やったことがないことでもチャレンジできる人”になってもらいたいと考えています。
 教え子たちが10年後、20年後にみんなで集まり、それぞれが意気揚々と近況を話り合えるようなクラスにしていきたいというのが私の夢です。

 吉田さんは、今まで幼児のみを対象としていた自身の教室を、レッスンを継続していきたいというお子さんのたちのためにプログラムを充実させていきたいと、今後の夢と方向性を語ってくれた。

-次に彼女はNYでの多くの学びを取り入れたクラスでの子供たちの反応の違いについても話してくれた。

吉田: NYで学んだことを私の教室でも早速取り入れていますが、子供の反応に違いが出てきていますね。例えば、東京に帰って来てから、まず、私自身が変わったことは裸足なったことです。「裸足で地面を感じて歩くことは良い」というのは知っていたのですが、なんとなく日本人の感覚として「失礼」だと思っていたので、バレエシューズを履いてレッスンをしていました。子供たちには「靴下だと滑るし、うまく歩けないから裸足になろうね」と言っていたのに、自分だけバレエシューズ…今考えれば変ですよね。
 ニューヨークから帰って初めのレッスンで裸足になった時、「あ! みんな裸足だ!」と5歳の生徒に言われました。そして、リズムに合わせてステップを踏む時、私も裸足でやることが子供たちの見本としてすごくわかりやすかったようです。不思議ですが、全く反応が違いました。

 キレイな和音ではなく、ジャズだったりブルースだったり、黒鍵のみだったり、今までは子どもには難しいと一方的に考えていた音を取り入れるようになったことで、進行にメリハリが出たようにも感じます。子供たちはまさに音に反応している、という光景が見られます。私自身が大げさに表現してみると、それを子どもたちは面白いと感じ、それ以上のアイディアが出てきます。底に眠っている力を、リトミックで引き出せるのだなと実感しています。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。

*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。