高木悠凪(たかぎ・はな)
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
第13回(Vol.1) NY:リトミックの真髄をNYで学ぶ
よりよいメソッドを求めて・・・ある音楽教室の先生の挑戦
第13回 NY:リトミックの真髄をNYで学ぶ
よりよいメソッドを求めて・・・ある音楽教室の先生の挑戦
Vol.1 そもそもリトミックってなに? ダルクローズ理論とはどういうものなのか?
高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、「リトミック」教育について、ある音楽教室の先生の挑戦をとりあげています。
- Photo:音の感情について話しあう
ⒸHana Takagi
幼少期の子供のお稽古事として知られる「リトミック」。これはスイスの音楽教育家で作曲家のエミール・ジャック・ダルクローズが考案した音楽教育法(ダルクローズ教育法ともいう)で、早期にやみくもに楽器を習わせるのではなく、音を聴いて感じ、身体を使って表現することで「音楽の基礎知識や楽しみを学びましょう」ということを提案するものだ。
身体の動きで音楽の概念を表現した上で楽器に向かうことが、確かで鮮やかな音楽の基礎を身につけるのに最も適しているとダルクローズは考えており、ユーリズミックス(動き)、ソルフェージュ(音楽理論・読譜)、インプロヴィゼーション(即興演奏)の3要素からダルクローズ理論が成り立っている。
このダルクローズの教育者向けの講習会が音楽の殿堂:リンカーン・センターの一画にある、ルーシー・モーゼス・スクール※1で開催された。このスクールはスペシャル・ミュージック・スクール(以下SMS)
※2と同じカウフマン音楽財団が運営する音楽学校で、SMSのアフタースクールのクラスも設けている。
この講習会に実際に参加されたのは、吉田千香さん※3。2007年に「たいこらんど」としてレッスンを始め、2012年から東京都内にスタジオを構え、リトミック教室を運営されている吉田さんにこの講習会について、ダルクローズ(リトミック)とは一体何なのかを伺ってみた。
- Photo:吉田千香さん ⒸHana Takagi
―なぜNYにダルクローズを学びに来られたのですか?―
吉田: 私は音大では打楽器を専門としていました。大学4年生の時に乳幼児を対象とした音楽教室でアシスタントを経験したことでリトミックという教育法を知り、その後本格的に学ぼうと講習を受けた時のことです。誰が一番先に発表するかという時、一番目に当たった方が「一番目はイヤです」と泣き出してしまったのに唖然としてしまいました。これから子供たちを導く側がこれでどうするのかと…。リトミック自体、どういうものかがきちんと伝わっていないことが多く、幼稚園のお遊戯と変わらないと思われていることが多いことも気にかかっていました。
それで日本での教育機関を離れて、一度本物のダルクローズを学びたいと思いました。ダルクローズはスイスで発祥したものですが、NYのルーシー・モーゼス・スクールのことを知り、同校のダルクローズ・クラスのディレクターのアン・ファバー(Anne Faber)先生が書いた文章を読むと、「そうそう! そうなの! 私が伝えたいこと、やりたいことはこれなの!!」と思うことばかりで、全て赤線を引きたいくらいでした。そのアンの授業を受けられるからというのもNYへ来ることを選んだ理由の一つです。
アンの言葉や考え方で最も共感したところは、『生徒が自分自身の身体を通して、音楽を創り上げている基本の動きを経験することによって、自分が演奏する作品の一つ一つにその経験を応用することができる』というところでした。
アナクルーシス、クルーシス、メタクルーシスというダルクローズ・リトミックの専門用語があるのですが、それをテニスに例えて説明しているところ。私も同じように説明して教えていたのでとてもびっくりしました。他のスポーツではなく、テニスが一番しっくりくると思っていたからです。
・テニスの時、腕を後方に引き上げてラケットをかまえます。準備(アナクルーシス)
・次にラケットにボールが当たるようにラケットをうちだします。解放(クルーシス)
・そして腕は振り下ろされます。余韻(メタクルーシス)
この自然な動きの連続である「アナクルーシス」、「クルーシス」、「メタクルーシス」は私たちの身体を動かす全ての生活に関わっていて、呼吸も「吸う」、「はく」、「休む」の3つから成り立っているのです・・・と吉田さん。音楽だけではない広域なところにまで活用できそうな説明をしてくださった。
「今回集まったクラスメートはスペイン人のギターの先生、ダルクローズの音楽教室をしている韓国人、ピアノを教えている中国人、アメリカ出身のシンガーなど、男女問わず世界中から様々なキャリアの持ち主が集まりました。積極的に質問し、自分だったらもっとこうします!と提案してクラス全体が活性化していく様子はとても刺激的でした」とのことで、参加者はそれぞれ目的を持って様々な地域から集まってきているようだ。
巷でよく聞く「リトミック」。「音に合わせて子どもたちがピョンピョンして、何か良さそう…」という漠然としたイメージのものではなく、確固とした音楽理論に基づいたものであることがわかり、同時にとても深い意味あるようなので、吉田さんにはさらにお話しをうかがうことにした。
筆者が書いたスペシャル・ミュージック・スクールに関する記事
第10回 NY:音楽のスーパーエリートを育てる(前編)~ Special Music School ~
第10回 NY:音楽のスーパーエリートを育てる(後編)~ Special Music School ~