2015/10/30 12:00

第12回 NY:PONO −”Interest”からはじまる民主主義教育
Vol.4 子供たちの”Interest”をクラスでどう満たしていくのか?

Photo:ハムスターの親子を観察 ⒸHana Takagi

第12回 NY:PONO −”Interest”からはじまる民主主義教育
Vol.4 子供たちの”Interest”をクラスでどう満たしていくのか?

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。今回は、「民主主義教育」を掲げたオルタナティブ教育校、PONO(ポノ)のサマースクールを取り上げています。

Photo:スナックを食べながら読み聞かせタイム
ⒸHana Takagi

 
民主主義的な手順によって決められた子供たちの”Interest”は授業にどう取り入れられていくのか? PONOでの一日を追ってみた。

 朝一番に行われるのは「オープン・ステーションズ」といい、年齢の小さい子供(3~4歳)はアート、読み書き、パペットを使ってのショーなど。年長の子供(5歳~8歳)はアート、ロジックゲーム、読み書き、チェス、科学実験などをし、それぞれが自由にやることを選んで活動する。その後サークルタイム、スナックタイム、読み聞かせと続く。

 読み聞かせの時間中、学校で飼っているハムスターの赤ちゃんを見ている親子が居た。息子がじっとハムスターに見入る間、母親は横に寄り添い二人で静かに話しながらとハムスターの子育ての様子をじっくりと観察していた。子供が興味を持ったことがカリキュラムとは違っていたとしても引き戻すことはなく、個々が自分のやりたいことを納得いくまでやることが出来る。

Photo:クゥエートについて発表する ⒸHana Takagi

 
 スナックタイムを終え、年齢の小さい子供と大きい子に分かれてレッスンを行う。見学した日、小さい子供たちは、専門の音楽教師がやってきてギターを弾きながら音楽のクラス。大きい子供たちは、ひとりの生徒が講師となり、調べてきたことを生徒と先生たちに発表するショー&テル方式でレクチャーを行った。

今日の発表担当はメイサさんの娘・スラフちゃん(7歳)

 彼女のクラスのテーマは祖父母が住む「クウェート」。このテーマについてラップトップ・コンピュータで街の様子を映し出しながら、クウェートの民族衣装を着て30分ほど話した。
 生徒となる子供たちは早速着替えたスラフちゃんの服に注目し、「その服はクウェートのものなの? お金みたいなのがついているね。良く似合っているよ!」などと声をかける。
 服についての説明を一通り終えたら本題へ。
「クウェートという国は中東に位置し、ペルシャ湾に面しています。中心部には近代的な高層ビルがたくさん建っています…」など首都クウェート・シティの街について、そして、国民の大多数を占めるイスラム教特有の女性の被り物、ヒジャブ(ブルカともいう)についてまで広がっていく。建物の話になると、「日本の東京にも同じように高いビルがたくさん建っているよ!」と、日本人を両親に持つ東波(とわ)くんが発言したり、ヒジャブの話になると「暑い日や風が強くて砂が舞う日なんかにいいよね」と、生徒達はそれぞれ感じたことを話していく。さらに聞き役で参加している先生たちも話に補足を入れたりしながら、レクチャーは進む。

Photo:カカオの匂いはチョコレートの匂い
ⒸHana Takagi

 
 次にメイサさんが「これ、知ってる?」と茶色いパッケージを見せると、「あっ、デーツ(なつめやしの実)だ!」と子供たちのテンションは一気に高まった。「これ、とっても甘いんだよ!」と子供の一人が言うと、パッケージを切り開きながら「この甘さは自然の甘さなのよ。さぁ、みんなお皿を持って食べてみて」と、彼女が取り分ける。「おいしい! 甘いね! おかわりあるの?」と子供たちは和気あいあいとデーツの香りや食感、甘さを存分に楽しむ。頭の中へ知識が入り込み、五感を通して細胞の隅々までデーツの味や食感が行き渡るという、クウェートを丸ごと学ぶ過程は、傍から大人が見ていてもとても楽しい。
 デーツの試食でこのクラスは終了し、子供たちはランチを食べに近所の公園に出かけ、その足でミニ・トリップ(近所へお店などを見学しにいく)へと向かった。

 ランチを食べる先の公園には野菜や果物が栽培され、それを自由にもいで食べることができる。子供たちは持参したランチをそっちのけで、ブドウやトマトを頬張り、公園でひとしきり遊んだ後に向かうのは、今日のミニトリップの訪問先の花屋さん。
 花店に入るとご主人が笑顔で迎えてくれ、花について名前や種類、産地について説明してくれた。「これはカカオの豆だよ。みんな匂いを嗅いでごらん」と、いくつかのカカオ豆を子供たちに渡す。「これ、チョコレートみたいな匂いがするね」と3歳のありあちゃんは言う。彼女の指摘にみんなで再度確かめてみる。

Photo:花屋の見学後、お花をもらって上機嫌の子供たち ⒸHana Takagi

 
 こうして花や木について学び終えると、店主から子供たち全員に美しく咲いたマリーゴールドの花を一輪ずつプレゼント。みんな一瞬で花のような笑顔になった。花の香りを楽しみながらそのまま帰宅する子、また学校に戻って14時の終業まで活動をする子と、それぞれのペースで学校生活は進んでいく。

 子供たちが生き生きと自分の興味を持ったことに活発に取り組み、ものおじせず意見を言う姿を見て、これが先生や親たちと一緒に同じ目線で考え、同じ価値の1票をもらって自分たち自身の考えを確立するということなのか…と、民主主義教育の真髄を垣間見た気がした。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。

*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。