高木悠凪(たかぎ・はな)
広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。
第9回 NY:マザーズコーチング(中編)
さまざまなスキルやワークを通して得るもの
第9回 NY:マザーズコーチング(中編)
さまざまなスキルやワークを通して得るもの
高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。
- Photo:ワークの実践風景 ⒸHana Takagi
マザーズコーチング講座で毎回学ぶ効果的なスキルを実践してみた例をご紹介しよう。
■ 例1 言うことを聞かない娘への対策
―親子間の効果的なパターンを見つける―
筆者自身、娘が生まれて常に子育てのストレスを抱え、2歳の「イヤイヤ期」を迎える頃から言うことを聞かない娘に対して常に怒りの状態が続いていた。そんな中『NY式部会』でマザーズコーチングというものを知り、この講座を受けてみることに。
あるクラスの中で、子供が言うことを聞かない時『壊れたレコード』をやってみるといいですよ!と講師の青木理恵さんが紹介してくれた。『壊れたレコード』とは、例えば子供が遊んだ後、お片付けをしない場合「片づけなさい!」ではなく「おもちゃが出ているよ」と言って気付きを与えるというもの。相手がすぐに反応しなくても、冷静に壊れたレコードのように繰り返し「おもちゃが出ているよ」と言い続ける。
これをやってみたが娘の場合は全く効果なく、むしろ自分の主張を通したい時にまさに『壊れたレコード』となり連呼するので、はなはだ困ってしまった。
それを次回のクラスで筆者が「全く逆効果でした!!」と憤慨しながら言うと、「言うタイミングや言い方はどうでしたか?では、違う方法はどうでしょう? 他のみなさんで何か効果があったやり方があったら、シェアしてください。」と青木さんは静かに問いかける。
集まる仲間が自分の近況や何かを試した結果をざっくばらんに話合い、その中からいくつかの新なアイディアを試してみたり、また自分のアプローチの仕方に問題がなかったか顧みるのだ。そこには批判は一切なく、あるがままの姿をみんなから承認してもらえるので、落ち着いてあったことを話せ、新たな可能性について考えることが出来る。
- Photo:マザーズコーチング クラス風景
ⒸHana Takagi
それから筆者が試行錯誤しながらもやっと見つけた方策は、自分がやりたいということを絶対曲げない娘に対して、「こうしなさい!」と指示することではなく、娘のニーズをまず満たすことだった。ニーズを満たされた娘は案外、その後の約束事はあっさりと引き受けることが分かった。こうしてコーチや仲間に支えられ自分と娘との効果的なパターンを見つけていけたので、かなり長かったイヤイヤ期のストレスはみるみる軽減されていった。
しばらくして靴を靴箱に納めない娘に的確なタイミングと言い方で改めて『壊れたレコード』を試してみたら、娘はしばらく考えた後で自ら靴を納めてくれ、上手くこのやり方が機能した。上手く機能しなかったのは、イライラをぶつけながら言ったことが原因だったのだ。その積み重ねの結果、夫からは「すっかり愚痴がなくなったね!それに当たられなくなった! とても助かる…」と、コーチングの効果を誰よりもしみじみと実感している様子だ。
■ 例2 自分の望むタイプでない息子に悩んだEさん
―あるがままを受け止める―
小学2年生の息子さん(S君)を持つEさん。S君が2歳の時にNYへ引っ越し、それから英語環境になかなか馴染めずアウェイ感をいつも感じる日々が続いたようだ。
友達と外遊びをするよりウチでひとりで静かにレゴをしたり、本を読むことをこよなく愛するS君にEさんは不満を感じ「男の子は外で遊ぶもの。なのにSはお友達と元気よく遊ぶより、ウチでひとりで遊ぶことが多いんです…」と嘆き、下の娘さんがNY生活にすんなりと馴染んでいるのに…さらに周りの子や自分が子供の時とS君を比べてしまい、息子のことが理解できずに苦しんだ日々が続いた。キンダー(幼稚園の年長)では教育熱心な担任から連日呼び出されては「もっと子供に注意して見て、みんなについていけるように勉強させてください」言われ、EさんはS君が皆より劣っている、遅れを取ってはいけない、彼の能力を引き上げないといけないというプレッシャーにいつもさいなまれていた。
それから小学校に行くようになりS君が宿題を後回しにしているのを見ると「いつ宿題やるの! 早くやりなさい!!」といつも叱責し、S君は次第にEさんからドンドン遠のいていったと振り返る。
「その当時コーチングなんて言葉自体まったく知らない時でしたから、学校の担任から呼び出される度に落ち込み、息子に学校で言われたことをそのままぶつけ『いい加減にして! ママは恥ずかしいワ!!』とまで言ってしまっていたんです。その時は息子が周りより劣っている、息子の長所や個性なんて考えたことがなかったんです」と、Eさんは話してくれた。そこからEさんはマザーズコーチングに出会い、学んだスキルを試していくことに。
- Photo:体験したワークについて話しあう
ⒸHana Takagi
「私にとってコーチングで一番重要だったのが、『承認』のスキルでした。今までは周りの子より劣っている(と思っていた)息子を卑下し、また男の子は“こうあるべき”と親の考えを押し付けていましたが、間違っていると気づきました。私はSの持っている良さ・個性を全く見ていなかったんだと。Sの存在自体をあるがまま認め、親は子供の良さ・可能性を潰してはならない、Sにしかない良さを受け入れよう。」と。
このように子供の見方を変えてからEさんはS君に対して、どんなことに興味があるのか? 体調はどうか? など注意深く観察し、息子が宿題を自らするのを待つようになり、何より息子の存在自体を肯定できるようになった。
そしてS君に変化が見られるようになり、「学校の話もこっちが聞かなくてもしてくれるようになりました。それに、自分が好きなことをしている間、集中して楽しそうに見えます!」とEさんは語る。また周りのママさん達からは「学校にいる時のSの表情が明るくなったね!」と言われるほどになったようだ。
そして「私は友達はたくさんの方がいいとか、今日は誰と遊んだの? とキンダーの頃は言ってましたが、今は言いません。たとえひとりきりでも本人が楽しんでいれば関係ないと思います。その人の幸せはその人しか分からない。だからSには、『人生を楽しみなさい!』と心からそう思うようになれたんです。もし私がコーチングと出会っていなかったら、恐ろしいことになってましたね」と、Eさんは微笑みながら語ってくれた。
自分のことを全面的に承認し・安全基地になってくれる親に見守られているS君、これから伸び伸びと自分の強みを見つけてどういう大人になるのか? 楽しみで仕方がない。