2015/03/25 05:51

第9回 NY:マザーズコーチング(前編)
子育てのストレスをどう軽減するか?

Photo:アッパーウエストサイド ブラウンストーンの佇まい Ⓒ Hana Takagi

第9回 NY:マザーズコーチング(前編)
子育てのストレスをどう軽減するか?

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

 ブラウンストーンの閑静な住宅街のアッパーウエストサイド。その一画のアパートメントから「ここはコーチングを学ぶお仲間だけの空間です。何を話しても構いません。ここで話すことは外では誰も話しません。みなさんが心の中にあるモヤモヤをスッキリさせましょう!」と明るく穏やかな声でマザーズコーチングのクラスはスタートする。
 このマザーズコーチ講座の講師は『NY式部会』※1を主宰する青木理恵さん。国際プロコーチの資格を持ち、NPO法人マザーズコーチ・ジャパン※2の講師を務め、そしてアイビーリーグの大学を卒業し、働き始めた娘さんを持つベテランママさんだ。この『NY式部会』を軸にNYのママさん達の間でじわじわとマザーズコーチングが広がりを見せつつある。
 ここに集まるママさん達の顔ぶれは…これから子供を持つ&子育て中の専業主婦(永住・駐在)、働くママ(会社員、会社経営、現役の弁護士・医学博士など専門職など含む)、教育関係者(幼児教育・塾などを経営、従事している)など幅広い。

 多くの女性たちから支持され・口コミで広がってきている理由は、子育てという同じテーマで悩みを共有し、お互いを批判することなく認め合いながら、一緒に考え・成長していけることが挙げられるだろう。また、先輩ママとして青木さんの子育ての経験談や、クライアントの様々な例の話もふんだんに聞けるのも魅力だ。

 その“コーチング”って、一体どういうものだろうか?

Photo:青木理恵さん、セッションのデモンストレーション Ⓒ Hana Takagi

 
■ コーチとは? カウンセラーやコンサルタントとの違いって何?

 “コーチ”という言葉を聞いて思うこと、カウンセラーやコンサルタントとどう違うの?と思う方は多いだろう。

◆カウンセラーとは、心理カウンセラーでいうと「病院に行くほどではないけれど、精神的に病んでいるのではないかという人がカウンセラーのもとに行き、カウンセラーは相談者の悩みをじっくりと聞いて、その人に最適な方法を見つける」ことが主となる。かなり精神状態が落ちてしまって、マイナスの状況をゼロに戻すことに主眼を置く。

◆コンサルタントは、クライアント(顧客)が抱える何かしらの課題を解決する方策を提供する。問題を観察・整理し、分析・構成を経てプレゼンテーション・指導など一連の流れで顧客に解決策を示す。

◆コーチとは、『何か問題解決や目標達成したいことに対して、“コーチ”が様々な角度から顧客に問いを投げかける。顧客自身がその問いに対する答えを考えることにより、今まで一人では考えつかなかったことに気付いたり、よりよい方策を自ら出していくことを導いていく役割をいう。』要するに、顧客が何かの問題や課題を『自分で考え→責任を持って行動に移す→やり遂げる』までサポートするのが“コーチ”なのだ。そのため、初めに問題・課題と思ったことが実は違っており、途中で軌道修正することもある。

■ マザーズコーチングって何?

 先の“コーチ”はビジネスから人間関係、自己実現など幅広く対応するが、その中でも子育てママ向けに特化したものが“マザーズコーチ”(他にも色んな運営団体があるので、呼び方が違う場合もある)という。最近でこそ「イクメン」という言葉が出て来て父親の育児参加が増えてきているが、一般的にはまだまだ母親の役割の比重は高いといえるだろう。
 母親になると、自分の思うようにならない子供、子供を持つ前の自分とのギャップ、仕事と家庭の両立…様々な問題や疑問に直面しながら、生活をするようになる。

「自分がやってる子育ては正しいのだろうか?」
「他の子に遅れをとってないだろうか?」
「子育てだけやってる私に価値があるのだろうか?」
「子育てで一旦仕事をやめてしまった。どう社会復帰したらいいんだろう?」
「仕事が忙しいので子供との時間を十分に取れない。どうやったら子供とよりよいコミュニケションが取れるようになるのだろうか?」といった具合に・・・

Photo:沢山のコーチングの本と共に学ぶ Ⓒ Hana Takagi

 
 そういう孤独で悩める母親がコーチに自分の話を聞いて・自分の存在を認めてもらい、コーチからの質問や提案を受けながら気付きを得て、自ら「何をいつ、どのくらい」など具体的な行動プランに落とし込んで実践していくのだ。途中修正を入れながらそれを繰り返していくうちに以前とは違うことを実感でき、より良い状態へとなっていく。
 最終的には“よい自問自答”を繰り返す習慣をつけて、日々起こる問題や課題についてよりよい方策を自分自身で考え、解決・達成していくという“よいサイクル”を生み出すようになれることが期待される。

 このように子育ての問題解決をしながら自立した子供にどう育てるか?を考え、母親自身の自己基盤を整え、自分で自分の人生をコントロールしていく技術を得るのが“マザーズコーチング”である。

ではマザーズコーチング講座ではどのようなことを学ぶのだろうか?

 ここでは先に説明した“コーチングとは何?”から始まり、「聞く」「承認する」「質問する」「提案する」などのコーチングスキルの基本から人間のタイプ分けと対応策、相手に振り回されずにニュートラルに聞く手法、自分の率直な気持ちを効果的に伝えるスキル、母親の土台の作り方・・・など幅広い内容を聴講とロール・プレイイングで習得し深めていく。
「聞く」という基本のスキルの項目だけでも、単に相手が話している言葉だけでなく、声の抑揚や雰囲気なども注意して聞き、相手が何を感じ・話そうとしているのか?を受け止めるというところまで実践していく。
 これを体験することで、普段子供が一生懸命に何かを話そうとしていても生返事をしながら適当に答えるというような、人の話に対して自分の都合や思いこみで中途半端に聞いていることが意外と多いことに気付かされたりするのだ。毎回の講義の中で登場するスキルを持ち帰り、実践してみてその効果について次回仲間達と話し合う。
 それを繰り返していく中で、自分と子供(あるいは夫など家族)にとって効果的なパターンを見出していくことが出来るようになる。そうなってくると子育てのストレスが軽減していく自分に気付き、暗くて長いトンネルから光が見えてきたような気分になるのは実に気持ちがいいものだ。

※1 青木理恵さんのホームページ
※2 NPO法人マザーズコーチ・ジャパンのホームページ

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。