2015/03/11 12:00

第7回恵比寿映像祭 惑星に行ってきた・・・

Photo:第7回恵比寿映像祭 オフサイト展示より瀬田なつき《5windows eb》2015 ⒸARAI Takaaki 提供:東京都写真美術館

第7回恵比寿映像祭 惑星に行ってきた・・・
—今年はSF映画の爆音上映がすごかった!

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 2月27日から3月8日までの日程で開催された第7回恵比寿映像祭へ行って来た。「惑星で会いましょう」が今年のテーマ。昨年は会期中、雪に見舞われるなど散々だったが、今年、筆者が訪れた3月4日は、春らしいぽかぽか陽気に恵まれ、穏やかな一日だった。昨年まで会場となっていた東京都写真美術館が2016年の秋を目ざして大規模リニューアル工事中のため、今年は写美の中庭とでもいうべき恵比寿ガーデンプレイス・センター広場、ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、さらには日仏開館ホール・ギャラリーなど、ヴァーチュアルな写美が面を広げたカタチでのフェスティヴァル開催となった。

Photo:第7回恵比寿映像祭 展示より ホンマタカシ《最初にカケスがやってくる》2015ヴィデオ・インスタレーション
ⒸARAI Takaaki 提供:東京都写真美術館

 そもそも恵比寿映像祭はどのようにして始まったのか? 恵比寿映像祭が始まる以前、東京都写真美術館は長年、文化庁メディア芸術祭に会場を提供してきた経緯があり、いつも無料となるその期間は大学生や若者たちで大賑わいを見せていた。現在、文化庁メディア芸術祭は六本木にある国立新美術館に会場を移して大規模に行われている。これはこれで、世間の注目を集める一大イヴェントで大変結構なのだが、「国立新美術館」は英語名をThe National Art Center, Tokyoといい、公募展・企画展に特化した施設であって、収蔵品を持たない・・・要は、博物館法上では美術館とは呼べない、便宜上「美術館」と呼んでいる施設なのだ。国立新美術館は、基本的に文化庁メディア芸術祭に場所を貸しているだけなので、館のスタッフが独自にメディア芸術祭を運営しているわけではない。一方の東京都写真美術館は開館以来、「美術館」として独自の研究や企画展示、保存・修復のスタッフを抱え、毎年、何点かの作品を購入し続けて、地道にコレクションを築いてきた歴史がある。
 キュレーターの独自の視点を重視する東京都写真美術館にとって、「公募」を主体とする文化庁メディア芸術祭は、恐らく多少の違和感のあるイヴェントだったのではないかと想像するが、メディア芸術祭が六本木に移った後、東京都写真美術館は新たな芸術祭をスタートさせることになった。それが恵比寿映像祭で、毎年の開催時期は文化庁メディア芸術祭からほどなくした日程に設定され、現在に至っている。同じ時期に開催したほうが、観客を動員する上でのインパクトがあるのではないかという意見もあるだろうが、場所がある程度離れていることもあり、また、「独自の視点」を打ち出すという意味では、今の開催時期は合理的な判断と言えるだろう。
 筆者は文化庁メディア芸術祭が写美で行われていた頃から展示を見てきており、また、文化庁メディア芸術祭のフォーラムやパネルで発言するなどもしたことがあるが、基本的に「公募」は新人発掘や人材育成のシステムとして無駄が多いと考えている。そのため、恵比寿映像祭がスタートしてからは、毎年のテーマ、及び、作品を出展する作家もだが、むしろ、そうした作家と作品を選び、全体を構成するキュレーターの手腕に興味を惹かれるようになっていった。

 

Photo:第7回恵比寿映像祭 展示より
ⒸARAI Takaaki 提供:東京都写真美術館

 そして、今年のラインナップ・・・。テーマは冒頭で述べたとおり「惑星で会いましょう」で、キーワードとしてSF、オルタナティヴ、インターネット、DIYや野生といった、ヒッピーカルチャーを示唆するような言葉がいくつも掲げられていた。
 ザ・ガーデンホールでの展示の印象は「メディア・アートへの先祖帰り」とでもいうべきもので、20年近く前、いわゆるメディア・アートという言葉が使われるようになって、ZKMやアルス・エレクトロニカが輝かしいイメージと共に語られるようになった頃の、「メディア・アートへの憧れ」みたいなものが、ふと思い出されるキュレーションは、その頃を知っている者にとっては懐かしく、その頃は生まれたばかりだった今の大学生たちには、何やら新しい印象を与えたのではないだろうか。今年は仮設空間での展示だったわけだが、美術館らしいクラシックで端正な仕上がりになっていた。
 隣接のザ・ガーデンルームでの「上映会」(こちらは有料)ではSF映画の奇作・名作x3本が35mmフィルムで、しかも爆音上映されるという、カルトな集いが行われ、筆者は偶然にも『ダークスター』を鑑賞する機会に恵まれた。噂には伝え聞いていたが、40年近く前、ぴあフィルム・フェスティヴァルで招待上映されたというフィルムは変色して、全編に赤みがかった怪しさが溢れ、モノラル音声の爆音再生はどこまでも暴力的だった。
 こういうオトナのヲタク向けの上映ラインナップは、ヨーロッパの小さな街での映像祭を思い出されてくれ、恵比寿映像祭はそうした方向を目ざすのかなと期待させられるプログラムだった。ザ・ガーデンルームの4Fには写美収蔵の稀少な過去の「ヴィデオ作品」が館所有のモニターで再生されており、これがまた、若い人たちにとっては、モニターも含めて作品に見えるのではないかと思ったり・・・。
 写美のリニューアル・オープンは2016年秋なので、来年の映像祭はもう一度、今回のような変則的な会場構成になるという。どんな驚きを体験させてもらえるのか、来年はどんな施設とのコラボが増えていくのか? 今から次回が楽しみになってきた。今後、さらに作品を選ぶ側の視点を強く打ち出して・・・というか、誰がどういう意図でテーマを選んだのか、そのプロセスをキュレーターの言葉でもっともっと語って欲しいと思った。