2014/09/19 12:00

第5回 NY:NYの公立校(小学校)のお受験
—最高得点を獲得した子供のママさんに聞く、特別クラスの印象とは— (後編)

Photo:OLSATの問題集の表紙 ⒸHana Takagi

第5回 NY:NYの公立校(小学校)のお受験
—最高得点を獲得した子供のママさんに聞く、特別クラスの印象とは— (後編)

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

中編でNYの公立小学校のG&T(特別クラス)の最高得点(99%タイル)を獲得した娘さんを持つママさん(クィーンズ在住、以下Bさん)にG&Tお受験への取り組みを聞いたが、実際に特別クラスの学校を見て感じたことを聞いてみた。

Photo:G&T問題集
ⒸHana Takagi

 -試験結果を受け取ってから、どのようなステップを踏みましたか?-
「スコア結果を受け取った後、シティワイド3校のオープンハウス(見学会)へ行く機会を得ました。
行った学校は、

・30 Ave School (クィーンズ)
・Anderson School(マンハッタン)
・NEST+m (マンハッタン)の3校です。」

-各校の印象はいかがでしたか?-
「30 Ave Schoolは、9月からの新設校ですので、教室を見ることも職員の紹介やカキュラムの提示があったわけではなかったのですが、校長先生が自分の略歴から今までに決まっていることや新設校に対する思いなど、丁寧に説明してくださいました。」

「Anderson Schoolは、さすがに新設校の説明会と打って変わって、年季が入った有名校という風格が出ていました。カリキュラムや、先生のお話なども私みたいな者にもとてもフレンドリーに説明してくださいました。今まで色々な学校の説明会に行きましたが、とても好印象でした。
もっとお勉強・お勉強ばかりの学校かと思っていたのですが、先生たちがお勉強に・自由研究に、自分の興味の向くことに、興味を持って向き合うようにものすごく努力されている印象を受けました。教室なども拝見しました。整理整頓がゆきとどいた、決して広くはないけど使い勝手が良さそうに環境設定されていました。
5年生の教室に行くと、主人が驚いていました。『これ、僕、高校生の時に読んだ本だけど・・・。』
学年が上がるにつれ、成果が出ている様子が掲示物からも見て取れます。かなり多くの数の父兄が、見学会に来ており、当たったら凄いな!と、他人事のように思いました。この学校は文句無しに良かったです。先生達はとっても温かかったです。在校生のボランティア父兄の方々も、ご親切にいろいろ教えてくださり、うちの子供がついていけるのかは別にして、とても素敵な学校でした。」

「NESTは、うちから遠いのですが、娘の2年間通い卒業したプリスクールの先生が薦めて下さり、学校見学には、事前予約と97%タイル以上をとった成績表のコピーを持参しないと会場に入れませんでした。この学校の校舎と環境設定は、Andersonより好ましく思いました。大きい窓がたくさんあって、どの教室にも燦々と光が入っていて、カフェテリアも一面が窓になっていて、開放的でした。通うには遠すぎるのですが、アストリア、ジャクソンハイツ、ウッドサイドなど色々な方面に、プライベートバスが走っているとの事で、我が家には朗報でした。
どのくらい時間がかかるのか?どのくらいの利用者がいるのか?家の前でピックアップしてくれるのか?あるいはバス停は何処か?などインフォメーションをもらったので、これからコンタクトを取ってみようと思います。それからこの学校は<25人×4学級=100人の新入生-兄弟枠15人弱=抽選>で受かる人約85人だそうです!他の学校より門戸が広いですね!それからK-12(高校まで持ち上がり)なのも魅力です。」

-今回のG&T対象校と他の学校との違いを感じることはありますか?-
「オープンハウスを終えて個人的におもしろみを感じたのは、他に参加した近所のチャータースクールや公立校の先生たちとシティワイド3校の違いが、
州統一テストに対する考え方にあらわれたことです。シティワイド3校の校長先生は、『州統一テストは学校にきちんと出席して授業を受け、出された宿題をきちんとやっていれば、結果は自ずとついてくるからテストのための特別クラスや対策と言ったものを設けていない。』という回答でした。
我が家が訪ねた数校のチャータースクールや公立校の校長先生がたは、『うちの学校は、どれだけ州統一テストを意識してカリキュラムを組んでいるか』ということを話される方がほとんどでした。どちらが良い悪いとかではなく、校長先生の教育方針も学校選びを左右する基準の一つだと思いました。」

州統一テストとは、3年生から8年生までその学校の教育水準が州の定める水準に満たっているかを計るためのもの。テスト項目は算数と英語で、英語の読解の中には理科的要素のもの社会学的要素のものも混ざっていているので、一般的に日本人が考える英語のテストと違いがありそうだ。多くの小学生は5年生か6年生まででミドルスクール(日本でいう中学校)に上がる。中学校は学区内の学校もしくは、人気校(学力が高い、特色のある学校)に進学する。人気校へは4年生の時の州統一テストの結果の提示を求められることが多いので、父兄達はこの時の結果を意識するようだ。

Photo:30AV スクールの案内
ⒸHana Takagi

-今回のG&Tお受験を終えて感じたことは?-
「個人的な意見ですが、私は、あまり好意的にはとらえられません。4歳児に、ミドルスクール(中学校)までの進路を託すには荷が重いですし、それを支える親もとてもストレスに感じると思います。たとえ99%タイルを取れても、結局兄弟枠もある上で抽選です。選抜方法もかなりの数を選ぼうと思えば志望校として明記することは出来ますが、結局のところDOE(※)が最終的に1校に絞り、家庭に通知するというシステムも違和感があります。
それから、少なくとも現在のG&Tテストでは、能力のある子供へ門戸を開くことはしていますが、格差社会を少しでも無くす様な配慮にまで至っていないように感じます。
『G&Tテストはテスト準備すべきではない、子供の本来の能力で審査されるべきである。』というのは正直建前であり、裕福層ほど教育にかけるゆとりがあり、意識を高くもっていることが見て取れると思います。地域格差で能力のある子がいい教育を受けれないことから救済するのが目的にはなっていないのが現状と感じます。だからこそ、学校選びは慎重に進めるのが親の務めだと考えます。

日本のように平均水準の教育がある程度どの学校でも得られる環境がニューヨーク市にあるわけではありません。校長先生の裁量によっても全く異なるのが現実です。まずは学区を調べ、学区が良ければそれで良し。学区が悪ければ、良い学区への引越しを考える。あるいはテストを受け、高成績を上げる学区外の学校志願を考える。など学校選びで幾つか選択肢を得られる状況であれば、子供の適性や通学状況を考慮するということを私は考えました。」

このようにBさんが試行錯誤をしながら志望校に応募し・抽選の結果、娘さんは第三希望・クィーンズの30 Ave Schoolに見事合格した。
「通常NYの学校ではキンダーから毎日宿題が沢山出ます。(早い子で30分、時間のかかる子で1時間以上かかる程の量)この学校では3年生まで毎日少しのリーディング(読解)とその他は出されても任意で取り組む程度の宿題のようです。また学校の特色としては、2年生からコンピュータープログラミングを学び始めるので、キンダーからテクノロジークラスと言って、その授業の基礎となるものを学び始め、外国語は週3回スペイン語が入ってくるようです。」とBさん。小学生からコンピュータープログラミングを学ぶというカリキュラムに驚き、どのような授業なのか?親子で新たな学校生活に胸が躍る思いが伝わってきた。

今回Bさんから公立校のお受験について沢山のことを教えて頂いたが、筆者の知っている日本のシステムや教育水準と全く違うことに大変驚き、よく調べ検討することが重要だと分かった。そして地域格差がある中でいかにわが子によりよい教育を受けさせることが出来るか?ということに心を砕き、日々学びの時間を大切にしている様子を垣間見た。
このG&Tテストと抽選をパスして選抜クラスに入ることは至難の業で、もし合格したなら充実したレベルの高い教育プログラムの中で学べるので、何とかして入れたいと思う親の気持ちを同じ子を持つ筆者も良く分かる。
だが4歳のこのテスト結果だけで人生の全てが決まる訳ではない。テストによって親子とも疲弊してしまっては元も子もないし、これらのクラスにパスできてもでもそれが必ずしも子供に合うか分からない。やるだけやってみて違うと思えば軌道修正すればいい。そのくらいの気持ちでチャンスあらば貪欲に挑んでみるくらいでちょうどいいのではなかろうか?

※ NYCのパブリックスクール(公立校)を管轄する組織。ギフテッドプログラムは、パブリックスクールなのでDOEの管轄内。スクールバスの手配やスクールランチ、スペシャルエデュケーションなど全て取り扱う。

(了)

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。