2014/08/27 12:00

第7回 東南アジアのハブ、シンガポールのリアリティ
– シンガポールの台所、ホーカーセンターに行こう! –

Photo: 人気のホーカーセンターのひとつ、マックスウェル・フードセンター Ⓒ Kodai Kimura

第7回 東南アジアのハブ、シンガポールのリアリティ
– シンガポールの台所、ホーカーセンターに行こう! –

by 木村剛大(きむら・こうだい)/弁護士・シンガポール外国法弁護士(日本法)

シンガポール在住の木村さんは、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所に所属する弁護士で、シンガポールのほか、インドネシアやヴェトナムなど、東南アジア各国に進出・展開する日系企業の法務支援を行って活躍中。『AGROSPACIA』では、シンガポールで活躍する方々のインタヴュー、木村さんご自身による取材に基づくコラムをお願いしています。

ご好評を頂いている連載第7回目は、シンガポールの台所「ホーカーセンター」についてです。

Photo: シンガポールの定番チキンライス
Ⓒ Kodai Kimura

 
 シンガポールの「食」というと何を思い浮かべるだろう。ローカル料理でいえば、チキンライス、チリクラブ、バクテー(肉骨茶)といったところだろうか。シンガポールにはホーカーセンター(Hawker Centre)と呼ばれる屋台村が町の至るところにあり、中華、インド料理、マレー料理、インドネシア料理、タイ料理、韓国料理、日本料理など様々な種類の料理を楽しむことができる。しかも安い。ホーカーで10シンガポールドルも使えば、お腹いっぱいになること間違いなし。シンガポール人の約82%が住むHDB(公団住宅)の1階には大抵ホーカーセンターがあり、いつも多くの人で賑わっている。シンガポール環境庁(National Environment Agency)のウェブサイトによると、環境庁は現在107ものホーカーセンターを管理しているとのことだ。

Photo: チリクラブ
Ⓒ Kodai Kimura

 しかし、もちろん、はじめからホーカーセンターという形があったわけではない。ホーカーセンターの歴史を調べてみると、シンガポールらしさが浮かび上がってくる。中華系、インド系、マレー系と多様な人種が集まるシンガポールでは、1800年代から様々な人種のホーカー(行商人)が存在していた。これらは第二次世界大戦後も続いていたが、失業率の高さからコストが安く、技術も不要なホーカーを始める人が増加した。その結果、不衛生な料理の供給、廃棄物の不適切な処理などが行われたり、また、ホーカーが車や人の通行を遮ったりするといった問題が生じた。そこで、1950年にホーカー調査委員会(Hawkers Inquiry Commission)が設置され、シンガポール中のホーカーの登録を実施し、1971年から1986年にかけてホーカーセンターが建設された(Singapore Infopediaの「Hawker Centres」を参照)。政府の管理下におくことで、合理的な形にシステムをつくりあげているのはシンガポールらしい。夫婦共働きの割合が多いシンガポールにとって、手ごろに利用できるホーカーセンターはまさに台所の役割を果たしているといえよう。

Photo: バクテー
Ⓒ Kodai Kimura

 政府によって管理されるホーカー(屋台)の賃料は、入札によって決められる。従来は賃料の最低価格が設定されていたが、2012年の法改正により最低価格制度は撤廃された。環境庁のウェブサイトには各月の入札結果が公表されていて、どのようなエリアが人気なのかが分かる。2014年7月の入札における落札額は最低1ドル(BLK 6 TANJONG PAGAR PLAZA)から最高2,899ドル(AMOY STREET FOOD CENTRE)まで非常に大きな幅があって興味深い。

Photo: 評点方式の表示
Ⓒ Kodai Kimura

 ホーカーセンターでもレストランでも同じだが、お店に掲げられている「A」、「B」、「C」といった表示に気がつくかもしれない。これは、「飲食店及び食品販売店の評点方式」(Grading System for Eating Establishment and Food Stalls)という制度で、飲食店の公衆衛生規制遵守の成績を利用者に分かりやすく表示するための仕組みである。「A」は、環境庁の検査で85%以上の評価を受けたことを示し、「B」は70%から84%、「C」は50%から69%、「D」は50%未満の評価を受けたことを示している。各店舗に対し、これらの表示を義務付けており、公衆衛生管理向上のインセンティブを与えている。

 日本と比べて気がつく点がもうひとつ。シンガポールでは食べ終えた後にセルフで食器類を片付ける文化がない。食べたらその場に食器類は放置。食器片付け専任の労働者がおり、食べ終わると食器類を片付けてくれる。この食器片付け係は各ホーカーが雇っているのではなく、各ホーカーセンターのホーカーが加入するホーカー協会(Hawkers Association)が雇用し、各ホーカーがホーカー協会に対し片付け料を支払うという仕組みになっている。

Photo: マックスウェル・フードセンターの様子
Ⓒ Kodai Kimura

 最後にひとつ注意点を。シンガポールのホーカーでコーヒーを注文する場合には予備知識が必要である。シンガポールでは「コーヒー」ではなく、「コピ」(Kopi)が一般的。「コピ」とは、コンデンスミルク入りの甘いコーヒーである。そのため、甘くないブラックのコーヒーを飲みたい場合には注文の仕方を工夫する必要がある。たとえば、甘さを残しつつも押さえたい場合にオススメなのが、「コピ・シ・シュータイ」(Kopi-C-Siew Dai)。「Kopi-C」は濃縮ミルクで砂糖なし。「Siew Dai」はマレー語で「甘さ控えめ」という意味らしい。いわゆるブラックのコーヒーは、「コピ・オ・コソ」(Kopi-O-Kosong)になる。「Kopi-O」は砂糖のみ。「Kosong」はやはりマレー語で「何もなし」を意味する。ぜひシンガポールに来られた際にはホーカーでこれらの注文の仕方を試してもらいたい。準備を怠ると甘いコーヒーが出てくることになる。ホーカーを決して甘く見てはいけない。

さあ、これで準備は整った。シンガポールの台所、ホーカーセンターに行こう!

PROFILE

木村剛大(きむら・こうだい)

弁護士

2007年弁護士登録。ユアサハラ法律特許事務所入所後、主に知的財産法務、一般企業法務、紛争解決法務に従事。2012年7月よりニューヨーク州所在のBenjamin N. Cardozo School of Law法学修士課程(知的財産法専攻)に留学のため渡米。ロースクールと並行してクリスティーズ・エデュケーションのアート・ビジネス・コースも修了しており、アート分野にも関心が高い。2013年8月よりシンガポールに舞台を移し、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所にて、東南アジア各国に進出・展開する日系企業の法的支援に従事した。2014年10月ユアサハラ法律特許事務所に復帰。

Twitter: @KimuraKodai