2014/07/04 12:00

シンポジウム:創造都市とグローバルエコノミー
—多様性豊かな社会を目指して(前編)

Photo:堀内正博 青山学院大学教授(総合文化政策学部長)による開会の挨拶 ⒸKonomi Kageyama

シンポジウム:創造都市とグローバルエコノミー
—多様性豊かな社会を目指して(前編)

by 藤牧 望(ふじまき・のぞみ)& 中村 聡子(なかむら・さとこ)

 6月14日、青山学院大学本多記念国際会議場に於いて、『創造都市とグローバルエコノミー —多様性豊かな社会を目指して— 』と題するシンポジウムが開催された。主催は青山学院大学総合文化政策学部、並びに、同大学社学連携研究センター(SACRE)で、駐日アメリカ大使館、株式会社ラッシュジャパンによる助成、デルタ航空の協賛、また、青山BB (Beyond Borders) ラボ、学校法人インターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢 (ISAK)、特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ、異業種交流会「土曜会」、牧野総合法律事務所弁護士法人、アグロスパシア株式会社などが、本シンポジウムの開催に協力した。

シンポジウムの主旨は、「2020年にオリンピック開催都市となる東京があらゆる人にとって暮らしやすく、訪問する人にとって快適で楽しい創造的な都市になるためには何をすべきか。LGBTのソーシャル・インクルージョンを含む、人権に配慮し、多様性豊かなコスモポリス東京という未来を描くためのシンポジウム」で、「21世紀の東京に望まれる多様性とは何か」について、様々な観点からの議論が行われた。今回は、当日午前中のプログラムを中心に報告する。

Photo:ロブ・デイヴィス氏の基調講演
Ⓒ Konomi Kageyama

 午前中のプログラムでは、青山学院大学総合文化政策学部長・堀内正博教授による挨拶、主催者側からの本シンポジウムの企画意図説明に続き、今年創刊25周年を迎えるLGBT読者を主な対象とするアメリカの高級ライフスタイル誌『メトロソース』の出版発行人、ロブ・デイヴィス氏の「多様な社会へ向けてのポジティブな変化〜メトロソース創刊から25年を振り返る」と題する基調講演、次に、青山BBラボの学生メンバーによるアンケート調査に基づいたプレゼンテーションが行われた。

 基調講演のロブ・デイヴィス氏は、直前に家族の急病により自身の来日を延期せざるを得ず、改めての本人来日講演を約束した上で、事前に録画されたヴィデオによるプレゼンテーションとなった。内容は、彼の生い立ち、学生時代のこと、自身のカミングアウトについてなど、個人的な経験をベースに率直に語るもので、なぜ彼がウォールストリートでの金融機関での仕事を辞め、『メトロソース』を創刊するに至ったのかについての経緯。彼の個人的な体験、思いが、25年間の社会の変化と関連づけて語られたので、筆者を含む聴衆は、アメリカの社会も日本も、『メトロソース』が創刊された当時から少しずつでも変化が起きていることを実感することができた。同時に、多様性豊かで、すべての人が個性を発揮しやすい、誰にとっても暮らしやすい社会を目ざすことは、日本においても課題であると確信した。

Photo:青山BB(Beyond Borders)ラボのロゴ ⒸHaruna Watabe

 デイヴィス氏は、『メトロソース』の読者が高学歴、高所得層で、社会的に影響力の大きいことにも触れ、ビジネスという観点から極めて理想的な顧客層であり、そのため、高級嗜好品などを売る広告主に人気の高い媒体となっていることも指摘した。また、『メトロソース』の読者は継続して購読し続ける傾向が強いため、優良な広告を含め、読者にとって有益な情報源となることを『メトロソース』は目ざしていると述べた。広告主は、LGBTコミュニティをサポートしていることを明確化することでビジネスの機会を増やし、一方、読者は自分たちのコミュニティにフレンドリーな企業をサポートする、ポジティブな関係が構築されている。

デイヴィス氏は最後に東京へのメッセージとして、「2020年、オリンピックが東京で開催されます。アスリートや観客が大勢やってくるでしょう。当然、その中にはLGBTも多く含まれていることでしょう。これはまさに、東京が変わる良い機会です。オリンピックは世界から多くの人が集まり、それぞれの違うところ、共通であることをお互いに認識し、称賛し合う素晴らしい祭典ですから、日本の社会が、LGBTを含むマイノリティにオープンになるチャンスなのです。これは、未来の大きなビジネスへの可能性にも繋がります」と、日本、とりわけ東京への期待を熱っぽく語った。

 次に登場した青山学院大学総合文化政策学部の青山BBラボの学生メンバーによるプレゼンテーションは、「多様で豊かなクリエイティブ・シティを目指して」と題して行われた。まず、青山エリアでの、主に小売り店舗や飲食店を対象に行ったLGBTについての意識調査についての設問内容の解説、アンケートの実施時期と期間、結果の集計に基づく報告、次にそれらの結果を踏まえ、2020年の東京オリンピックにむけての提言が発表された。

Photo:オリンピック・イヤーへ向けて提言を行う
青山BBラボの上野大樹くん ⒸHaruna Watabe

 アンケートの実施によってわかったこととして、青山エリアの店舗においてはLGBTという言葉そのものの認知度は極めて低かったということ。同時に、LGBTの意味を説明した後、LGBTだからという理由でお客様をネガティブな意味で特別視するような店舗はないこともわかった。青山エリアではLGBTを差別するような発言は一度も聞かれず、ストレートもLGBTも「お客様」であることに変わりはないのだから、誰であっても歓迎するという回答がほとんどだった。ラボのメンバーからは、LGBTの存在を広く社会に認知してもらうためには、言葉そのものの認知度を上げること、そのためには、回りにいる非当事者も、自然に言葉に出してLGBTについて、これから共に目ざしていく社会について議論していくことが大切であるという結論が提示された。

青山でのアンケート結果からは、日本における社会全体としての受け入れはまだ道半ばであっても、個人レベルにおいてはLGBTへの理解はかなりあるのかもしれないという印象を受けた。これは多様性を認め合える社会を目ざす上で、心強い基盤になるだろう。

Photo:発表を終え、挨拶する青山BBラボのメンバーたち ⒸHaruna Watabe

 発表後の会場とのやり取りの中で、LGBTという言葉を声に出していくこと自体に意味があるという意見があった。「セクシャルマイノリティー=性的少数者」を表す言葉は数多くあるが、なかには否定的なものもある。LGBTという言葉が使われている記事や議論においては、セクシャルマイノリティーがポジティブに捉えられている印象が強い・・・という指摘である。

青山BBラボの指導を担当する岩渕潤子氏は、日本ではあらゆる問題が可視化されないこと、議論されないゆえに変化が起きない現状について言及し、LGBTを含む社会の多様化が必要であることについても、言葉に出して議論する必要性があるのではないかと述べた。

午後のパネルの登壇者として客席側に座っていた特定非営利活動法人虹色ダイバーシティの村木代表は、「アンケートをすることそのものが啓発的であり、LGBTについての課題について考えてもらうきっかけになる」と指摘。アンケート調査でLGBTを差別することがなかったことについて「評価できる」としつつも、店舗での無意識の発言や対応から当事者に居づらい接客をしてしまっている可能性について触れ、そのことで顧客を逃しているとしたらもったいないので、そうした「失われた商機」を目に見えるようにするのは難しいが、再びアンケートを行う機会があったら、それが可視化できるとビジネス側がいっそう努力するインセンティブになるはず・・・とのアドバイスがあった。

アンケート結果をふまえた2020年東京オリンピックにむけての提言として、「青山だけでなく、日本のイメージを良い意味で変える機会にしたい。2020年の東京オリンピックでは、日本がどのような開会式を準備したか、どんなゲームが行われるかだけでなく、世界各国が今の日本はどんな国なのか、LGBTにどのような対応をするのかも注目されることになる。日本が多様性豊かな社会になったことをそこで見てほしい」との意見が出された。

具体的には、ホテル、交通機関、小売店鋪、そして、企業各社による「皆さんを歓迎します」という積極的アピールが重要であるということだ。東京を訪れたLGBT当事者のお客様が気持ちよく過ごせるように、企業の側から、また、社員としての個人も自然にLGBTフレンドリーであることをアピールしていくことが必要不可欠であるという指摘だ。また、今の日本社会に見られる、LGBTについて否定的でも肯定的でもないという中途半端な現状を変えていくには、世界の人たちと共に対話と議論を深めていくことが大切であるという指摘もあった。

青山BBラボからの提言は、2020年のオリンピックイヤーに向けて、また、それをきっかけとして、日本の社会をより多様性にオープンで、LGBTフレンドリーなものにすることができるのではないかと感じさせるポジティブなものであった。