2014/06/20 12:00

あの『トーマの心臓』を見た!・・・スタジオライフ東京公演

Photo: 左)エーリク役田中俊裕 右)ユーリスモール役松本慎也 Ⓒ 劇団スタジオライフ

あの『トーマの心臓』を見た!・・・スタジオライフ東京公演

by 吉田晴香(よしだ・はるか)/ 青山BBラボ

演出家は女性、俳優は全員男性というユニークな劇団スタジオライフが、6月22日まで新宿、紀伊国屋 ホールで萩尾望都の代表作『トーマの心臓』を上演している。

本作はAuslese(アウスレーゼ)、Spatlese(スパトゥレーゼ)、Riesling(リースリング)、Kabinet(カビネット)の4チームに分かれての上演となっている。筆者はKabinetチームのゲネプロを取材した。

Photo:ユーリスモール役松本慎也
Ⓒ 劇団スタジオライフ

 『トーマの心臓』は、少女漫画家として絶大な人気を誇る萩尾望都が1974年から連載を始めた作品で、連載開始から40年が経った今でも多くのファンを魅了し続けている。作品の舞台はドイツのギジナウム(高等中学校)。寄宿舎のアイドル的存在だったトーマがある日自殺した。数日後、ユーリスモールの元に一通の手紙が届く。それはトーマからの遺書だった。その半月後、トーマの生き写しのような少年エーリスが転入してくる。そこから明らかになっていくトーマの死の理由や寄宿舎で過ごす少年たちの愛と真実・・・。

本作品は、トーマの自殺からユリスモールが転学を決意するまでの約2ヶ月間を描いたもの。上演時間は約3時間とボリューム感のある作品となっているが、その長さを感じさせない構成となっている。

Kabinetチームでは、主人公ユーリスモールを入団10年目という節目を迎えた松本慎也が演じる。松本は2010年の前回公演では転校生エーリクを演じた。今回そのエーリクを演じるのは、今作初参加の田中俊裕。そしてユーリスモールの理解者であり級友のオスカーを演じるのは仲原裕之だ。他チームに比べ、若い世代の多いKabinetチームを縁の下から支えるように、トーマの母ヴェルナー夫人役には石飛幸治、ミュラー校長役には曽世海司などベテラン勢が顔を揃えている。劇団内の若手とベテランの競演を見ることができるKabinetチームの公演は、ファンなら必見ではないだろうか。

Photo:中央)エーリク役田中俊裕
Ⓒ 劇団スタジオライフ

 ひとはさみしさゆえに、愛を知らねば生きていけない

今作全体を通して語られるのはキリスト教の神の絶対的愛の存在である。

『トーマの心臓』を観ると、人は誰しも愛し愛されなければ生きてはゆけないのだということを感じる。恋人やパートナーへの愛、家族愛、友人への愛、そして自分自身への愛。様々な愛が舞台上で交錯する。時には愛が強すぎるゆえに憎しみへと変わり、愛が残忍な凶器ともなる。そこで人は絶対的な愛を注いでくれる神の存在を再認識するというわけだ。物語の終わりに描かれるのユーリスモールの神学校への転学の決断のように、人は神の愛の存在を知ったとき、愛や苦しみを乗り越え、ようやく前に進むことが出来るのかもしれない。

スタジオライフの作品を観たことがない方は、愛をテーマにした本作を男優ばかりの劇団が演じるていることに違和感を覚えるかもしれない。しかし、舞台上ではいやらしくない・・・いや、むしろ男女間で繰り広げられる愛よりも切なく、美しい愛の物語が繰り広げられているのだ。多様化していく社会に、変化し続ける人間関係のあり方に、変わらない愛の存在を訴える作品となっている。『トーマの心臓』に触れたことない方、スタジオライフの作品を観たことのない方にも、是非一度、その「愛」に触れに劇場へ足を運んでいただきたいと思う。

東京公演は6月22日まで新宿・紀伊国屋ホールにて。地方公演は7月11日から13日まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。

PROFILE

吉田晴香

青山学院大学 総合文化政策学部2年。

1993年東京都生まれ。青山学院大学生。幼い頃から国内外でミュージカルを中心に舞台演劇を鑑賞。10年以上、自身の鑑賞記録をつけたブログを書き続けている。

将来は日本の舞台を海外に広める活動をしたり、国内外の舞台作品を紹介する演劇記事を書いたりすることが夢。