2014/05/23 15:00

テスラモーターズの電気自動車に試乗
―ガソリン車以上の性能があって初めて電気自動車は普及する

Photo:テスラモーターズのモデル S ⒸMitsuhiko Satoda

テスラモーターズの電気自動車に試乗ーガソリン車以上の性能があって初めて、電気自動車は普及する

by 里田実彦(さとだ・みつひこ)

 速度ゼロから時速100kmまで、わずかに4.4秒。こんなスポーツカー並みのスペックを持つ電気自動車がある。テスラモーターズのモデル S。電気自動車の常識を破る、そんな自動車に試乗してきた。

Photo:モデル S フォトギャラリーより
ⒸTesla Motors, Inc.

 「らしくない」、それが第一印象だ。

なにが「らしくない」のか、まずスタイリングだ。その姿は、ヨーロピアンスポーツカー。低い重心と流線形の大きなボディは、アウトバーンを疾駆する姿を彷彿とさせる。
電動自動車というと、あくまでも印象だが、コンパクトでいかにも一昔前のSF映画に出て来そうな、楕円球をベースにしたようなスタイルを連想してしまう。そもそも、エンジンを積まない電気自動車は、エンジンルームがないこと、ガソリンタンクが必要ないことから、デザインの自由度が高い。加えて「未来の車」というイメージ、これまでの自動車とは違うことをアピールするためのデザインが多いように思える。また、エコカーとしての存在理由があり、小型で使い易いというイメージもあるのだろう。
そして、もうひとつ、実は別の国産電気自動車に乗ったこともあるのだが、正直に言ってパワー不足、航続距離不足を感じた。大型化すると重くなる。それだけバッテリー、モーターに優秀なものが求められる。それゆえに、電気自動車は小型なのでは無いかと邪推してしまう。

Photo:モデル S フォトギャラリーより
ⒸTesla Motors, Inc.

テスラモーターズのモデル Sが「らしくない」のは、そこだ。いわゆる外車サイズで、重量は2tを超える。見た目だけの印象ならば、燃費などどこ吹く風でアウトバーンを飛ばすスポーツカーなのだ。外見からは、「これが電気自動車だ」というアピールは見当たらない。よく見ていくと、マフラー(排気マフラー)がないということに気付かされる程度だ。

実際に試乗してみると、今度は「らしい」と思える部分が次々と見つかる。フロントパネルには17インチの大きなタッチスクリーンがあり、そのままナビゲーションシステムとなるだけではなく、運転中もバックモニターとして後方の広い視界を確保している。そして、シフトレバーが存在しない。ハンドル脇にあるレバーで全ての操作が完了するのだ。始動は当然、スイッチ。後方から静かなモーター音が聞こえてくるが、その音は小さく、本当にこれから走るのかと疑問さえ感じる。アクセルを踏んで、走りだすと同時に驚いた。エンジン特有の一瞬の溜めは無く、すぐにすっと前進を始める。重心が低く、車重が重いせいもあり、非常に安定感がある。直線に入り、さらにアクセルを踏んでみた。

Photo:ボンネットを開けると広々としたラゲッジスペース ⒸMitsuhiko Satoda

あっと言う間にスピードが上がる。エンジンの回転が上がる感触が無いまま、シートに背中が押し付けられる。なんと、停止状態から100km/hまでにかかる時間は5秒を切る。アクセルを離すと、ぐっと速度が落ちる。いわゆるエンジンブレーキよりも効く。慣れればアクセルだけでスピードコントロールが全て出来てしまうだろう。アクセルを戻した際は回生ブレーキが働き、発電機で電気を起こしてバッテリーに充電するのだという。
これだけのパワーは、そこいらのスポーツカーと遜色が無い。ここでふたたび「らしくない」。航続距離500kmという数字だ。東京/大阪間を無充電で走破できる。
今回の試乗は都心での一般道だったが、できれば高速道路、それも新東名で走りたい。いや、アウトバーンでなにも気にすること無く走りたいと思わせてくれる。

試乗が終わり、車を降りてから更に驚かされた。ボンネットを開けると中はラゲッジスペースなのだ。当たり前のことだが、そこにあるべきエンジンは無い。更に後部ハッチを開けるとそこも広い空間がある。大人でも二人は乗れる予備シートまで付いている。エンジンとガソリンタンクがないと言うことはこういうことなのだと改めて知らされる。バッテリーは床下に敷きつめられ、低い重心での安定性確保にも一役買っている。モーターは最後尾にあるが、スペースを圧迫する大きさでは無いのだ。

Photo:モデル S フォトギャラリーより
ⒸTesla Motors, Inc.

 電気自動車は、国産でも市場に出まわっている。だが、正直、売れているとは言い難い。メーカーもガソリン車と並行して販売しているため、販売に積極的では無いのだろうか。現在の一般的な電気自動車のスペックでは、実用にそぐわないという話も聞く。なによりも、これまで慣れ親しんだガソリン車に明らかに劣る性能の自動車を買うだろうか。ガソリン車で出来たことを基準に、だれしも電気自動車を見る。最高速が遅い、航続距離が短い、あれができない、これもできない。でも環境に優しいから買おうか。誰もそんな気にはなれないのだ。環境問題を旗標にするならば、「我慢しないで環境に優しい」ことが重要だ。そうでなければ普及しない。

テスラモーターズのモデル Sは、そんな我慢がほとんど無い。ガソリンを一切使用しないのに、環境に優しいという顔をしていない。それが、本当に世の中に普及する電気自動車の姿なのかもしれない。

機会があれば一度試乗してみて欲しい。きっと「らしくない」と思うはずだ。

PROFILE

里田実彦(さとだ・みつひこ)

ライター/ディレクター

1990年、リクルート入社。その後、株式会社エニックス(現スクウェア・エニッ クス)を経て、制作プロダクションに入社し、コピーライター /ディレクター となる。
1999年、独立。ダイレクトマーケティング関連、ビジネス誌での執筆、企業パン フレット、WEBサイトなどの制作に数多く携わる。
2011年、有限会社std代表取締役に就任、全業務を移管する。
多くの取材の過程で、全国の各種工場などのもの作りの現場を見る機会に恵まれ る。また、多種多様な業界の考え方、ビジネスモデルを見聞できる ことも職業 上の役得を考えている。
趣味は、乱読と博物館廻り、古書店廻り、昭和の日本映画鑑賞。