2014/04/16 02:38

第3回 東南アジアのハブ、シンガポールのリアリティ
– 教育大国シンガポールの大学で学んで(インタビュー前編)

Photo: NUSケントリッジ・キャンパスにて Ⓒ Takayuki Shimodaira

第3回 東南アジアのハブ、シンガポールのリアリティ
– 教育大国シンガポールの大学で学んで(インタビュー前編)

by 木村剛大(きむら・こうだい)/弁護士・シンガポール外国法弁護士(日本法)

ご好評を頂いているシンガポールからの木村剛大さんの連載第3回目です。

シンガポール在住の木村さんは、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所に所属する弁護士で、シンガポールのほか、インドネシアやヴェトナムなど、東南アジア各国に進出・展開する日系企業の法務支援を行って活躍中です。『AGROSPACIA』は木村さんの協力を得て、シンガポールのリアリティをご紹介するコラム、現地で活躍する方々のインタヴューのシリーズを引き続き連載していきます。今回はシンガポールに留学中の、エネルギーに溢れる方々にお集り頂いて、座談会形式でお送りします。

Photo: ケース・コンペでのNUS&NTU混合チーム
Ⓒ Yuichi Ito

 今回はシンガポールの大学で学ばれている以下の方々にインタビューを行いました。

シンガポール国立大学法学修士課程(LL.M) 大林、シンガポール経営大学法学修士課程(LL.M) 澤田、シンガポール国立大学人文社会科学部(東京大学法学部より交換留学) 竹内、南洋(ナンヤン)理工大学ビジネススクール(MBA)(高麗大学ビジネススクールより交換留学) 岩本、シンガポール国立大学ビジネススクール(MBA) 伊藤、シンガポール国立大学大学院工学部土木環境工学科環境工学専攻 下平、シンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院(MPA) 梶、シンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院(MPA) 横田

なぜシンガポール?

木村:本日はお忙しいところ、ありがとうございます。今回は教育熱心な国としても知られるシンガポールのリアリティを伝える記事を書きたくて、実際に学ばれている皆様にお集りいただきました。また、竹内さんは今後進学されるかもしれませんが、これが最後の学生生活になる方も多いかもしれません。そこで、これまでにご自身の経験してこられた教育についても振り返って、これからの教育についても語っていただけたらと思っています。まずは、どのようなバックグラウンドの方がどのような理由でシンガポールに来られたのかお伺いしたいと思います。それでは大林さんお願いできますでしょうか?

大林:僕は、一言でいうとコテコテの大阪の弁護士です。東京と比べると大阪の弁護士で留学する人はかなり少ないのですが、長い目で見たら海外展開するお客さんをサポートできるようにしておくことが大阪の弁護士として必ずプラスになると思って僕はシンガポール国立大学(National University of Singapore、「NUS」)に留学することにしました。シンガポールを選んだ理由は、アメリカがそんなに好きじゃないから(笑)。アジアで勝負したいと思ったからですね。LL.Mが終わった後はシンガポールの法律事務所に勤務する予定です。さらに、その後、バンコクとジャカルタの法律事務所にも勤務したいと考えています。

木村:私はアメリカのロースクールに行きましたので、アメリカとの比較もできればと思います! シンガポール国立大学のLL.Mに行かれる弁護士はまだあまり多くありませんので、プログラムの特徴などお聞きできればと思います。

澤田:私も弁護士ですが、私の場合は独立して東京で法律事務所を経営しています。弁護士になって最初は外資系の法律事務所に就職したのですが、実は海外案件はそんなに多くなく、日本国内の案件を担当することが多かったです。私はずっと日本で教育を受け、日本国内で仕事をしてきたため、海外への憧れがずっとありました。教育レベルや社会システムの洗練度、自分の専門分野との親和性などを考えて留学先としてシンガポールを選び、金曜、土曜に集中して開講されるシンガポール経営大学(Singapore Management University、「SMU」)が仕事をしながら留学するという観点からは最もやりやすいと思い、ここを選びました。

木村:澤田さんは2012年に始まったシンガポール経営大学のLL.Mに行かれた日本人第1号ですよね。独立されていて仕事をしながら留学というパターンははじめて聞きました。仕事と学業を両立する工夫もお伺いできれば大変参考になります!

竹内:僕は法学部の学生です。今回は1年間の交換留学で東京大学からシンガポール国立大学に来ました。東京大学はこれまで全体での海外への留学制度がなくて、最近ようやく制度ができたんです。僕が交換留学を希望したときは英語圏ではカナダとシンガポールという選択肢しかありませんでした。シンガポールは中華系が人口としては多いですが、ビジネスは国際化していますので、東洋と西洋の接点といってよいと思います。中華文化や現地の考え方を知ることは面白そうかなと思い、シンガポールを選択しました。将来的には経済産業省や外務省など海外経験を生かせるような官庁に入りたいと思っています。

木村:竹内さんは帰国子女ですよね? うらやましい(笑)。本日は東大とNUSとの比較や帰国子女の視点でみた日本の教育についてもぜひお話を聞かせてください。

竹内:2歳から7歳まで香港のインターナショナルスクールに行って、7歳から12歳は日本のインターナショナルスクールで過ごしました。その後の中学、高校からは普通の日本の学校です。

岩本:会計事務所のKPMGシンガポールオフィスで働いています。私は2012年から2013年に韓国の高麗大学(Korea University)のMBAに行ったのですが、半年間シンガポールの南洋(ナンヤン)南洋理工大学(Nanyang Technological University、「NTU」)のMBAに交換留学で来たことがきっかけで、そのままシンガポールで就職しました。留学前まで勤務していたある投資ファンドにてアジア諸国における投資マーケットや資金調達マーケットとしての魅力が増しているのを感じており、最初はその観点から韓国の特に資金調達市場に興味を抱いて韓国のMBAに行ったのですが、ウォン高や大統領選の影響などもあって外国人の採用が一時低迷したこともあり、単純に選択肢が多そうだという理由でシンガポールに交換留学をしました。

木村:岩本さんは英語の他、韓国語、中国語も堪能で尊敬の念を抱かずにはいられません。語学学習のコツも後ほどお伺いしたいです!

伊藤:私はシンガポール国立大学のビジネススクールに通っています。私の場合は少し変わっていて元々シンガポールで起業するつもりで、その準備期間という意味もあってMBAに通っています。具体的には、改造車(カスタムカー)用のパーツの販売で、日本の技術や製品レベルは非常に高いのですが、シンガポールや周辺国のレベルはまだまだですのでビジネスチャンスがあると思っています。経歴としましては高校までは日本で、大学からアメリカに行って南オレゴン大学に1年半、その後フロリダのマイアミ大学に編入して2年半過ごしました。化学専攻です。大学卒業後は国際会議の企画、運営を行う会社に就職して東京で1年、シンガポールで1年勤務しましたが、その東京オフィスが閉鎖になりました。その後オンライン証券会社、PR会社を経て自分で事業をやりたいと思ってNUSのMBAに来たという経緯です。

木村:MBAの後すぐに起業される方はそんなに多くはないですよね。伊藤さんは元々車好きだったのですか?

伊藤:MBAは民間企業からの派遣で来ている人が多いですね。元々車好きというわけでもなくて、2012年にシンガポール版東京オートサロンという大きな改造車の展示会に通訳として入ったことがきっかけです。シンガポール、タイ、インドネシアなど東南アジア各国から人が集まってきていて、これはビジネスになるのではないかと思いました。

下平:シンガポール国立大学の工学部で環境工学を専攻しております。私は環境省から留学しておりまして、主に、大気汚染や土壌汚染などの環境管理の仕事に携わっていました。みなさんと同じように、今後アジアを中心として環境ビジネスが伸びる可能性があることから、アジアに留学したかったことと、水資源に関する政策に関心があり、シンガポールを選びました。シンガポールでは大きく分けて、①下水再生水「NEWater」(ニューウォーター)、②海水淡水化、③マレーシアからの輸入水、④雨水などの貯水池という4つの蛇口(Four National Taps)により水を確保しています。2061年にマレーシアからの原水輸入に関する協定が終了する予定であるため、シンガポールは国策としてマレーシアに頼らない水資源確保に力を入れています。また、政府の政策として水資源関連の技術を世界に向けて発信するグローバル・ハイドロ・ハブを目指しています。私はシンガポール国家環境庁(National Environmental Agency)においてインターンを実施する予定で、小さな国という利点を生かしたダイナミックな政策手法についても、いろいろ勉強できればと考えています。

梶:私は経済産業省に勤めています。もともとは理系で情報システムの研究をしていたのですが、イノベーションを起こすためには今の仕組み自体を変えることが必要だと思うに至り経済産業省に入省しました。経済産業省では「産業革新機構」という官民出資の投資ファンドの設立を担当しました。リー・クワンユー公共政策大学院を留学先に選んだのはこれだけの経済成長を遂げてきたシンガポールの政策に興味があったことやアジアの他の国々の政府の職員とディスカッションする機会が欲しかったからです。また、日本で金融関連の仕事をしてきたため、アジアの金融センターとして存在感を示すシンガポールの制度にも興味があったということも理由のひとつです。

横田:私はJICA(国際協力機構)で働いていて、現在はリー・クワンユー公共政策大学院に留学しています。私の場合は青年海外協力隊として2年半、JICAの職員として4年間パプアニューギニア赴任していました。財政赤字が続く日本ではODA予算も97年当時から半額ぐらいに減ってきております。その予算を有効に活用していかなければならないのですが、開発途上国で必要なプロジェクトには日本の公的資金だけでは足りず、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)、開発途上国政府の他、民間資金も併せて活用して行く必要があります。それらの資金をまとめて国の開発に活用していくためにはマクロ経済含め客観的に開発プログラムを説明していく必要があると感じていて一度問題意識を整理したいと思っていました。そこで、途上国からの留学生も多いシンガポールで、様々な国の留学生とディスカッションして頭を整理する機会があればよいと思ってシンガポールを選びました。

木村:パプアニューギニアでの生活は想像がつきませんが、刺激が強そうですね。梶さん、横田さん言われるようにシンガポールの大学は多様性に優れており、特にアジアからの留学生が多いという点は特徴ですね。また、下平さん、梶さんが言われるシンガポールの政策への関心は私も同様で、アジアのアート・ハブ、知財ハブ構想を進めるシンガポールの政策が自分の専門性と一致することがシンガポールを選んだ理由のひとつでもあります。

Photo: 女川の高台の神社にて
Ⓒ Naohiro Kaji

シンガポールの大学で学んで

木村:それでは次にそれぞれのプログラムを受けられた感想を伺えますでしょうか? リアリティをお伺いしたいので率直な意見をぜひお聞かせください。クラスメイトはどのようなバックグランドの人ですか? 国は結構ばらばらですか?

大林:NUSのLL.Mは全体で160名くらい、NUS単独のプログラムは90人ほど、シンガポールと上海の2か所で授業を受けるInternational Business Lawのプログラムが40名ほど、ニューヨーク大学とのダブルディグリープログラムが30人ほどです。国で一番多いのはインドですね。続いて中国、その他は、ベトナム、タイ、インドネシア、カナダ、オーストラリア、スイス、オランダ、ドイツ、南米などかなり色々な国から来ています。大体はシンガポールの法学部の学生と同じ授業です。中国法やインドネシア法などもあってクラスのバリエーションは非常に豊富です。

澤田:SMUの特徴は少人数のプログラムでセミナー形式のクラスが多いことだと思います。また、金曜と土曜に終日開講され、社会人でも働きながら通えるように設計されていることも大きな特徴です。そのため、働いている人が多くて平均年齢も少し高めになると思います。平均40歳くらいでしょうか。クラスメイトには法律専門職の他、シンガポール政府の職員、国際調停機関の調停員、シンガポール企業の法務担当者などもいます。LL.Mのプログラムは学部の授業とは完全に切り離されています。授業はプレゼンやグループワークが多くて準備は思ったよりも大変でした。

木村:アメリカのロースクールでは授業中にプレゼンの機会が1回あったのとライティングのクラスで模擬弁論があったくらいでした。お話を伺うとNUSとSMUは同じLL.M.でも大分違いがありますね。SMUは元々ビジネススクールだからMBA的な側面がLL.Mでも強く出ているということでしょうか。大林さん、NUSにはどのような特徴がありますか?

大林: NUSの特徴はアジア圏に重点を置いたクラスが多くあることだと思っています。「アジアにおける比較法伝統(Comparative Legal Traditions in Asia)」というクラスをとりました。タイ、インドネシアなどのアジア各国の歴史から始まってその歴史と法制度がどのように関連しているのかを学ぶクラスです。たとえば、シンガポールはイギリスの植民地でしたので、英国法がベースになっています。一方で、タイは植民地化されたことがないので、かなり独自の法制度が形成されています。2013年の年末に東南アジア各国を巡ったのですが、この授業をとったおかげでビール片手に各国の歴史にも思いを馳せることができました。

木村: アメリカのロースクールではアジアに重点を置いたプログラムがあるところ自体少ないですから、アジアを見据える人にとってNUSのプログラムは面白そうですね。澤田さんは仕事もしながら留学されているわけですが、相当大変ではないでしょうか?

澤田:もちろん大変ですけれども何とかなります。会議をスカイプでやったり、月に1回程度は日本に帰って集中的にお客さんとの打ち合わせをしたりしています。日本とシンガポールは時差が1時間しかありませんので、そういう面でも仕事はやりやすいですね。

木村:なるほど。アメリカだと月1回帰るのはかなり大変そうですが、シンガポールなら東京まで6-7時間程度ですから許容範囲かもしれませんね。次にMBAについてお話を伺えればと思います。岩本さん、お願いします。

岩本:ナンヤンの場合、全体で100名くらいの規模です。フルタイム70人、パートタイム30人くらいですね。構成はシンガポール人が一番多いのですが、その次にはインド人が20人強、次に中国人で後は色々です。シンガポール人は政府系の組織からの派遣も多かったです。日本人は私を含めて3人、韓国人2人、タイ、インドネシア、ミャンマーからも少しずつですが来ていました。

木村:岩本さんの場合、高麗大学のMBAで1年間学んだ後、ナンヤンに行かれていますが、高麗大学のMBAと違いは感じましたでしょうか?

岩本:違いは感じましたね。授業に関してはナンヤンでは印象的な違いが3つほどありました。まず、最初の特徴はクセの強い英語です。多数派はインド人、中国人、シンガポール人ですが、ご存じのとおりこれら3か国の人達は流暢に英語を話すものの日本人にとっては慣れの少ないアクセントなので特に学生同士の議論になるとまず言語レベルで参加するのに骨が折れます。次の特徴は議論の展開の仕方。とにかくまとまらない。MBAはプレゼンやケーススタディのロールプレイといった参加形式での授業が多いのですが、たとえば、アップル社の戦略についてのケーススタディの議論が始まるとします。そうすると、インド人がアップルとの対比でマイクロソフトの戦略の話を始める。そしてシンガポール人がマイクロソフトの戦略の話をリーダーシップの議論やマーケティングの話に展開させます。テーマはアップルの戦略なのですが、いつの間にかマイクロソフトの将来像や株価の話で終了している。日本だと考えられませんよね(笑) 議論は展開するのですが、まとまらないというかまとめない。逆に、高麗大学のMBAは在米・在カナダの韓国系の学生や韓国国内マーケットに縁のある、たとえば自動車や製鉄業などの欧米企業からの留学生が多かったですし、教授陣も欧米からの先生を招くかまたは欧米での指導経験のある教授を抱えているので英語は(特に日本人にとっては)とても聞きなれたものでそのような苦労はほとんどありませんでした。また、授業の展開についてもある意味日本的で必ず最後にフィードバックがあります。最後にまとめを入れて何か示唆を得ようとするのでいわゆるtakeawayがあるというか、「習いました」感は高かったですね。実はこれらの違いは職場でも散見されるところでもあります。最後の特徴は中国文化を踏まえた授業がある点です。孫子の「兵法」を経営に生かすという授業があって、これは非常に興味深かったですね。詳細は端折りますがナンヤンはNUSと異なり元々中国語での教育を行う機関であったということもあってか、中国文化圏ならではのプログラムというのは一つの特徴かと思います。

伊藤:シングリッシュには最初苦労しますよね。NUSのMBAは全体で100名くらい、構成は大体ナンヤンと同じです。もちろんプレゼンとかケーススタディはするのですが、MBAで面白かった授業をひとつあげるとすれば「マクロ経済」でしょうか。クラスの面白さは教授によりますけど、このクラスではゴールドマンサックス出身の韓国人の教授がかなり辛口に韓国批判、シンガポール批判をしていて面白かったです(笑)

下平:工学部でいえば、90%は中国からの留学生という構成になっています。大学卒業後3年間シンガポールで働くという条件で、シンガポール政府から補助が出る制度があり、この制度を利用している中国人が多いようです。日本人は工学部全体で2、3名といったところでしょうか。「排水処理工程」、「ゴミ処理技術」といった技術系のクラスが多いです。シンガポール公益事業庁(Public Utilities Board)、シンガポールの多国籍企業ケッペルや水処理大手のハイフラックスからスピーカーを呼んできて話をしてくれる機会があり、実践的な話も聞けて大変参考になりました。

木村:シンガポールお得意のヒトを集めるための政策ですね。竹内さんは特に面白かったクラスはありましたか?現役学部生の立場から東大とNUSの授業を比較して何か特徴を感じましたか?

竹内:面白かったのは「国際政治経済」(International Political Economy) というクラスですね。経済的な力関係を通じて国際的な政治関係がどのように構築されているかを学ぶというもので、自分の興味とも完璧に一致していました。東大との比較をしますと、大学の成績が就職に大きく影響する面もあるためか、学生はもっとガツガツしていると思います。あと、日本だと大教室の講義というのが一般的ですが、シンガポールでは講義に加えて20名ずつくらいに分かれてチュートリアルがセットになっていて講義の復習をしたり、グループ発表をしたりしますね。だいたいTA(Teaching Assistant)が担当します。

大林:法学部でも学部生は決してノートのシェアをしないそうです。成績至上主義のシンガポールらしいですね。

木村:アメリカでもロースクールの成績は重要なようですが、そこまでピリピリはしていなかった印象があります。チュートリアルは日本ではあまり聞かないですね。伊藤さん、アメリカの大学では一般的ですか?

伊藤:アメリカではまさにそういう講義とチュートリアルのセットというのが多いですよ。有益かどうかはTAによりますけどね。

木村:次に公共政策大学院について、梶さん、横田さん、お願いします。

梶:公共政策大学院は、勤務5年以下のジュニアキャリア用2年コースのMPP(Master in Public Policy)、10年前後のミドルキャリア用1年コースのMPA(Master in Public Administration)、これよりもシニアキャリア用のMPM(Master in Public Management)に大きく分かれており、私と横田さんはMPAのプログラムに通っています。国籍構成については、公共政策大学院の場合、結構明確に枠が設けられていると思っています。具体的にはシンガポール2割、中国2割、インド2割、アセアン2割、日本も含めたその他2割というものです。クラスメイトは大体中央、地方の公務員、国連などの国際機関、それからジャーナリストが多いですね。特に面白かったクラスは2つありまして、①「シンガポールの政策」と②「アジアのソフトパワー」ですね。「シンガポールの政策」はシンガポールの役人のトップと財務省の課長を経験した方が担当してシンガポールの政策の光と影をテーマにしたクラスです。統治機構に関する話なのですが、現実主義、実力主義、汚職防止、といった基本原則から話をしてくれました。他方で、「ソフトパワー」というのは「ハードパワー」(軍事力)と対置されるアメリカで提唱された概念で、軍事力以外の力による他国への影響力のことを指しています。これをアジアで考えるというクラスで、たとえば、日本でいえば「クールジャパン」がどのような背景から生まれて外交的にどのような影響があるのか、インドネシアでいえばアジア最大のイスラム文化圏としてどのように欧米や中東と向き合っているのか、といったことを分析するクラスです。

横田:震災のときに日本に多くの国が支援してくれましたが、それも日本にソフトパワーがあったためといえるかと思います。JICAの協力事業も活動を通じてソフト面でのつながりをつくっていくものですね。私が大事にしたいと思ったのはクラスではないのですが、「ジャパン・トリップ」です。テーマを決めて日本の訪問先にアポをとって多くがアジアの政策担当者である留学生を連れていくのですが、内容は今回の実行委員長であった梶さんよろしくお願いします。

梶:今年は①アベノミクス(経済政策)、②災害復興、③国際関係をテーマとしました。①アベノミクス関係では経済産業省、著名エコノミストを訪問し、②災害復興では未だに災害の傷跡が残る宮城県の女川町や福島県の南相馬市を訪問し、福島第一原発半径5キロのところまで行って現状を実際に見る他、女川町長、南相馬市長からもお話を伺いました。また、東京では、民主党の馬淵澄夫元大臣、内閣府の被災者支援チームからもお話を伺うことができました。③国際関係では、自由民主党の石波茂幹事長、日本再建イニシアティブの船橋洋一氏からもお話を伺うことができました。

横田:このジャパン・トリップはここ4年間続けて行われているのですが、ぜひ今後も続けてほしいです。というのも世界での日本のプレゼンスが落ちている実感があったためです。私は1990年代後半と2000年後半にパプアニューギニアにいたのですが、2000年代後半ではかなり日本の存在感は薄くなっています。公共政策大学院で取り上げられるのも中国とインドの話題ばかりになっています。これでは寂しいです。

木村:ジャパン・トリップはすごい訪問先が揃っていますね。日本からはなかなか会えない方々にシンガポールから他国の留学生を連れて行くことで会えるというのは日本人以外の留学生にとってはもちろん、日本人にとっても非常に貴重な機会ですね!

(続く)


大林良寛(おおばやし・よしひろ)
弁護士 2008年弁護士登録後、弁護士法人淀屋橋・山上合同に入所。主な業務分野、M&A、組織再編等、買収監査、事業再生・倒産、知的財産、債権回収、刑事事件。2013年8月から、シンガポール国立大学法学修士課程のために、シンガポールに留学中。

澤田祐亨(さわだ・よしあき)
弁護士 2008年弁護士登録。伊藤見富法律事務所(Morrison & Foerster外国法共同事業)入所後、小笠原六川国際総合法律事務所を経て、2012年4月東京にて東亜法律事務所を開設。弁護士資格取得前には大手証券会社にて債権投資業務にも従事。現在はシンガポール経営大学法科大学院の法学修士課程(商業法専攻)に在籍し、シンガポールと日本を往復しつつ弁護士業務と並行して学位取得を目指している。企業法務、金融法務を主として取り扱うほか、渉外契約交渉代理、訴訟・ADR等の紛争解決、M&Aにおける法務精査等を通じて、企業に対し幅広い業務支援サービスを提供している。

竹内裕哉(たけうち・ゆうや)
東京大学法学部(第2類公法コース)在学中。学内の交換留学制度を利用し、2013年8月から2014年5月までの予定で2学期間シンガポール国立大学人文社会科学部に留学中。チキンライスとマリーナ・ベイ・サンズだけじゃもったいない、という思いから昨年同じ日本からの交換留学生3人とともにシンガポールの観光動画を作成。ストレーツタイムズ紙に動画が取り上げられる。よかったらご覧になってください!(https://www.youtube.com/watch?v=08AFj0n37jY

岩本照夫(いわもと・てるお)
公認会計士(日本) ディレクター、KPMGシンガポール
1999年に公認会計士第2次試験合格後大手監査法人及び監査法人系アドバイザリー会社にて法定監査、M&A関連の各種デューデリジェンス・ストラクチャリング業務に従事。その後外資系投資銀行にて株式・債権の引受業務、不良債権・PEを中心とした投資業務及び投資ファンドにおける不動産投資業務を経て2012年8月より韓国高麗大学ビジネススクール(MBA)に就学。2013年6月よりシンガポール南洋理工大学ビジネススクールへの交換留学を機にシンガポールへ渡り、修了後現在KPMGのシンガポールオフィスにてASEAN市場の各種市場・競合分析、M&Aに関連する各種アドバイザリー・デューデリジェンス業務、統合支援業務等に従事している。

伊藤友一(いとう・ゆういち)
愛知県名古屋市出身。アメリカのマイアミ大学を卒業後、ビジネス会議を企画運営する会社に就職。 アジアHQのシンガポールに頻繁に訪れた際、多民族・多文化間での考え方や、視野の広さの違いに刺激され、いつかこの地に住み、起業を決意する。その後、日本のベンチャー系の証券会社でのマーケティング職を経て、PR会社で海外企業の日本進出PR活動の支援に従事する。2012年の夏に会社を退社、現在は家族((妻、娘1人))を連れ、シンガポール国立大学にてMBAを取得中。MBAでは海外からの東南アジアに出てきた企業のケースを中心に学んでおり、現在は起業に奮闘中。

下平剛之(しもだいら・たかゆき)
2000年より5年間ほどゼネコンに勤務し、主に海洋土木設計に従事。2005年より環境省に転職し、大気汚染、土壌汚染、水資源管理、除染関連業務を担当。2013年7月よりシンガポール国立大学に留学し、大学院工学部土木環境工学科環境工学を専攻。2014年8月からはシンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院に入学予定。

梶直弘(かじ・なおひろ)
2004年、経済産業省に入省。ITに関する投資促進税制の整備、気候変動やリサイクルなど国内外の環境政策の全体総括、官民合同ファンド「産業革新機構」の創設、同機構に立上げのため出向、経済産業省に戻り採用・研修担当を経て、2013年7月からシンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院に留学中。

横田隆浩(よこた・たかひろ)
1998年、青年海外協力隊員としてパプアニューギニアの山奥にて2年半活動。2001年日本のODA事業の実施機関である国際協力機構(JICA)に入構。国内・本部勤務を経て2007年パプアニューギニア事務所に赴任、4年後の2011年、震災後福島県内の避難所となっていた二本松青年海外協力隊訓練所に赴任。避難所運営・訓練再開業務に従事。2013年7月よりシンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院に留学中。

PROFILE

木村剛大(きむら・こうだい)

弁護士

2007年弁護士登録。ユアサハラ法律特許事務所入所後、主に知的財産法務、一般企業法務、紛争解決法務に従事。2012年7月よりニューヨーク州所在のBenjamin N. Cardozo School of Law法学修士課程(知的財産法専攻)に留学のため渡米。ロースクールと並行してクリスティーズ・エデュケーションのアート・ビジネス・コースも修了しており、アート分野にも関心が高い。2013年8月よりシンガポールに舞台を移し、ケルビン・チア・パートナーシップ法律事務所にて、東南アジア各国に進出・展開する日系企業の法的支援に従事した。2014年10月ユアサハラ法律特許事務所に復帰。

Twitter: @KimuraKodai