2014/04/09 12:00

第3回 NY:親子でクリエイティブにチャレンジ
伸び伸び楽しむ子供向けのアート体験 ノグチ・ミュージアム

Photo:「幼児のための美術」で自分が作った作品について語る ⒸHana Takagi

第3回 NY:のびのび楽しむ子供向けのアート体験 ノグチ・ミュージアム

by 高木悠凪(たかぎ・はな)

 高木悠凪さんは、2010年にご主人の転勤に伴ってニューヨークにお引っ越し。大学時代、美術史を勉強していた高木さんは、2011年に女の子に恵まれて、以来、お子さんをベビーカーに乗せて美術展へ行くなど、いつも親子で積極的にアートに親しんでいます。

 NYは世界で最も多くのアーティストが集まる街の一つ。メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム美術館など、世界的に名前を知られる美術館だけでなく、ミッドタウン、ソーホー、チェルシーなどに点在するギャラリーも極めて高レベル。マンハッタンの通りを歩くと、どこかしらで美術作品を目にします。日常の中にアートがあり、そういう環境の中で幼少の頃からアートに触れ、子どもたち自身でも気軽にアートを体験できる場があるニューヨークで、小さな子どもたち向けにどんな教育プログラムがあるのか? 今回は、ノグチ・ミュージアムをレポートしていただきます。

Photo:みんなでひとつの作品をつくる
ⒸHana Takagi

 NYのクィーンズ地区、イーストリバーからマンハッタンを望むところにノグチ・ミュージアムがある。誰もが知っている著名な日系アメリカ人美術作家、イサム・ノグチ(1904-1988)により、自身の生涯の代表作を展示するために設計・設立され、1985年に開館した美術館だ。ノグチ自身がみずから手がけてアトリエを美術館に改造したこの施設は、静謐な庭園で作品と向き合うことができる空間となっていて、マンハッタンにはない穏かな空気が流れている。

 この美術館では2歳から11歳の子供のいる家族向けプログラムに力を入れており、参加できるコースは複数ある。ギャラリー内のツアーやガイド、実際に作品制作を体験するワークショップまで、すべてのプログラムをエデュケーション担当者(13名在籍)が受け持ち、日本語でのプログラムも行われている。ご紹介するプログラムの参加費は6名までの一家族につき$10(美術館入館料も含む)だ。

Photo:「オープンスタジオ」彫刻の前でじっくりと取り組む親子
ⒸHana Takagi

コースのひとつは「幼児のための美術」で、2~4歳の子供のいる家族向けプログラム(定員に限りがあるため、事前の予約が必要)だ。春・夏、秋・冬の2セメスター(1セメスターにつき3~4クラス)がある。英語クラスと日本語クラスがあり、選択制。

もうひとつは、毎月第一日曜日に開催される「オープン・スタジオ」。オープン・スタジオは毎回テーマがあり、そのテーマに沿ったワーク・シートを手に家族でギャラリーでの展示を鑑賞し、その経験を基に自分たちで作品を作ってみようという試み。毎月第1日曜日の午前11時〜午後1時まで開催しており、事前の予約は不要、その場で参加可能となっている。

これらのクラスは家族で一緒に「対話する時間」を大切にしており、子供だけではなく、家族で参加するプログラムというのが特徴。

Photo:4つの積木ピースで創造力豊かに表現
ⒸHana Takagi

■ 幼児のための美術
 今回のテーマは『Building Together(一緒につくろう!)』で、日本語で行われるクラス。地階のエデュケーション・ルームに集まった親子たちは、まずはエデュケーション担当の織 晴美さんと一緒にストレッチをして、身心ともにリラックスしていく。いろんな形にカットされた、たくさんの木片が準備され、「ひとり2つを選んで、みんなで大きな彫刻を作りましょう!」と合図が出る。

子供たちは続々と自分好みの形の木片を選び、積木のようにそれぞれ積んでいく。「みんなの積木がどこにあるか分かりますか? みんなでひとつの大きな彫刻が出来ましたね!」と晴美さん。なるほど、こうやって木片が集まればひとつの彫刻になるのだ!と、参加している親子がしげしげと完成した「作品」に見入っている。

「これからはお父さん・お母さんと一緒にひとり4つの木製ピースを使って彫刻を作りますよ! コラボレーションですね!」「選んだ4つのパーツを家族でよく話し合ってどうするか考えてください。それからグルー(のり)を使ってくださいね。」という説明の後、子供たちがこぞって4つの木を選びはじめた。子供を中心に4つという制限の中で家族が一丸となって可能な限りあれこれ形を試し、納得のいく形が決まったら、次は糊付けをしていく。親と子、それぞれ自分の作業に集中している光景が見られ、みんな楽しみつつも真剣な面持ちで作っている。

 糊が固まるまでの間、今度はギャラリーに移動して次の制作の準備に取りかかる。「今日はノグチおじさんのこの作品です。何が見えるかな?」という晴美さんの質問に『“J”の字』『“し”』『ほうちょう』『ブーメラン』『ヘビ』、などなどの声が返ってくる。「では、これは何で出来ていると思いますか?」という質問に『木』『石』など、子供たちは積極的に発言していく。「これは石でてきています。3つの石でできていますね」「これからみんなに封筒と黒い紙を渡します。合図をしたら封筒を開けてください」 合図が出ると、中からたった今みんなで観た彫刻の形と一緒の3つの紙のカタチが出てきた。

「ノグチおじさんの彫刻と同じ形のピースが出てきましたね。ではこれからこのピースを使って、ノグチおじさんのものとは違う形を作ってください!」 このお題に子供たちは、先ほどの木片による彫刻の時と同じように、今度は平面上で3つの紙のピースという制限の中で、あれこれ考え始める。でき上がった頃に「みんながつくった形をシェアしましょう」ということになり、我こそは!と積極的に発表が始まった。「同じピースを使ったのに、みんなそれぞれ違う形だったね」と、晴美さんがしめくくり、みんな揃って、元のエデュケーション・ルームへ。

 先ほどの4つの木片で作ったそれぞれの作品の発表が始まった。「みんなが作ったものについて、何かひとこと言いたいことある?」と晴美さん。子供たちは順に、『飛行機』『石』『家』『階段』『橋と新幹線』『ギター』『ヘリコプター』などと答え、晴美さんがそれぞれの作品をみんなに見せながら子供たちの話を引き出していく。

Photo:晴美さんと一緒にみんなの作品をシェア
ⒸHana Takagi

 誰からも押し付けられず、否定されることがないという安心感、その場が伸び伸びとした雰囲気だからかなのか、恥ずかしそうに話す子も自分の作品を説明し、みんなに見てもらえて、だんだんと誇らしげな表情になっていく。

最後はまたみんなで軽いストレッチをして、身体も心も軽くなって終了という流れだ。

 このクラスで一番印象深かったのが、晴美さんの子供たちへの質問のしかた。温かな眼差しで『何を作ったの?』ではなく、『何か言いたいことあるかな?』なのだ。

晴美さんに聞いてみると、やはり『何か言いたいことがあるかな?』もしくは『あなたのアートについてお話してくれる?』と聞くそうだ。「このクラスでは『何か』をつくるために作らせているのではありません。子供ひとりひとりに、自由に作品をつくる楽しみを知ってもらいたいのです。ここはそれが出来る安全で安心な “あなたの場所” でありたいと考えています」と話してくださった。

このクラスは大変人気のため要予約。予約メールを送り・確認メールが来て予約完了となるのでご注意。

「オープン・スタジオ」は、先述した「幼児のための美術」があまりにも評判が良く、すぐに満席になってしまって『クラスに入れない』という苦情が絶えなかったために始まったそうだ。こちらのプログラムではエデュケーターは同行しないが、よく練られたワークシート(英語)に基づいて、「作品をよく見て、考察し、経験を基に」作品を創っていく。ふだんから、とかく親は子供に何かしらの指示・命令を与えてしまいがちだが、ここでは親子が同等の立場だ。「“作品をよく見る”ということについては、先入観のある大人より子供の方が得意なことが多いのです。大人はわかったつもりでも、実はよく見ていない。子供の方が細部までよく見て、気づくのです」と、晴美さん。家族それぞれのペースで作品と対峙し、制作していく参加者たちは、みな充実した時間を送っているようだ。

地域に根ざし、誰でも気軽に楽しい時間を過ごす。そして家族でじっくりと作品について話し合い、みんなで何かを学ぶ場所。ノグチ・ミュージアムは、このように志高く、質の高い教育普及活動をしているからこそ、支持され続けているのだろう。

PROFILE

高木悠凪(たかぎ・はな)

広島県出身。2010年より、夫の赴任によりNYに駐在中。2011年、女児を出産。
大学時代は西洋美術史を専攻。アクセサリー会社から生活雑貨店勤務を経て現在に至る。
趣味の芸術鑑賞にNYはもってこいの場なので、オペラ、クラシック、ジャズ、メトロポリタン美術館、MoMA、グッゲンハイム…などに足繁く通いながら、育児に奮闘の日々を送っている。
内閣府認証NPO法人 マザーズコーチジャパン認定 マザーズコーチ。
子育て・産後のキャリアチェンジ・家族やママ友の人間関係など、子育てママ向けのコーチングを実施中。
*高木さんへの執筆・講演依頼、取材して欲しいテーマ、コーチングについてのご相談などがありましたら、info@agrospacia.comまで。