2014/01/20 12:00

Tokyo SuperStar Awards
—多様な価値観に肯定的な社会を実現するために

Photo: 舞台に並んだ2013年度TSSA受賞者たち Ⓒ TSSA

Tokyo SuperStar Awards
—多様な価値観に肯定的な社会を実現するために

by 菱沼聖哉(ひしぬま・せいや)/ 青山BBラボ

日本社会におけるLGBT(Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender)についての意識は、ネットやメディア、スマートフォン・アプリなどを通じて、世界の情報がリアルタイムで共有されることによって変容しつつあるようだ。昨年は、オバマ大統領が合衆国大統領として初めて公式の場で同性愛について肯定的に語り、それに引き続いて多くの州で同性婚が認められるようになり、フランスでも同性婚が法的に認められるようになった。一方で、ソチ五輪を目前に控えながら同性愛者への襲撃事件が後を絶たないロシアや、イスラム圏、アフリカ諸国には、人権団体からの非難が集まっている。

世界のこうしたニュースは日本でも日常的に報道されるようになり、多くの人が話題にするようになってきてはいるが、一般(ストレート)の人たちとLGBT当事者との間では、解決すべき問題への認識の差は大きい。そんな中、LGBTと社会を繋ぐ架け橋になることを目指し、多様性に寛容な社会の実現をテーマに活動している顕彰団体が、国内唯一のLGBTアワードを設置していることをご存知だろうか?

Tokyo SuperStar Awards(以下TSSA)は、LGBTカルチャーにスポットライトを当て、受賞者はネット投票で決定される参加型イベントで、その年にLGBTと社会を繋ぐめざましい活動を行った企業や団体、個人を表彰するアワード。昨年(2013年)は12月7日にミッドタウンのビルボード・ライブ東京にて開催され、LGBTの社会的地位向上に貢献した多くのスーパースターたちが受賞した。

『アグロスパシア』が「文化的多様性」の実現に向けてスタートしたプロジェクト「青山BB(Beyond Borders)ラボ」のメンバー、菱沼聖哉がTSSA実行委員会に取材させて頂いた。

Photo: 会場では受賞したダンス・ボーカルグループ MAX によるパフォーマンスも
Ⓒ TSSA

Q:TSSAを始められたきっかけについて教えて下さい。

A:最初は、みんなが自分の素性をオープンにしてお洒落にドレスアップして集まれる、スタイルを感じられるイベントをやりたいと思い、その場で、自然な形でLGBTコミュニティに貢献してくれた人たちに対して「ありがとう」の気持ちを表彰という形で伝えたいと思ったのがきっかけです。このイベントをきっかけに、広い意味でより良い社会になればいいなとも思いました。また、時を同じくして世間ではLGBTマーケティングの可能性が注目されるようになってきて、LGBTと関わりを持ちたいと言って下さる企業との橋渡しがしたいと思い、LGBTをサポートしてくれる企業の存在を知らせたいとも思いました。

毎回、TSSAの会場には多くのセレブリティをはじめ、お洒落でハイエンドな人たちで溢れていて、豪華絢爛な演出やパフォーマンスなど、エンターテイメントとしての要素も豊富です。でも、それだけで終わることなく、LGBTコミュニティの発展に寄与した企業、団体、個人を表彰することで、会場にいる全員が、今現在のLGBTコミュニティの実情を共有することができるので、会場にいらした方たちが楽しみを享受するだけでなく、ある種の「啓蒙」の機会も提供していると自負しています。

Q:2013年度のTSSAはいかがでしたか?

A:2013年は、世界各地で同性婚が合法化される一方で、ロシアではそれに逆行するように「同性愛宣伝禁止法」が制定されたことが話題となりました。そんな中、企業賞に選ばれたLUSHは一早く企業としてロシアの法律に反対する運動を行った事が今回の受賞に繋がりました。

また、海外賞に選ばれたウェントワース・ミラーは、自身が同性愛者であることをカミングアウトし、同性愛宣伝禁止法を制定したロシア政府を非難しました。こうした社会的なアクションがきっかけで受賞が決まった事例もあれば、カルチャー賞に選ばれたMAXの新曲Tacata’ の様に、LGBTコミュニティで流行った、ゲイ・カルチャーシーンを切り取ったものもありました。他にも、特別賞に選ばれた佐藤かよさんは、LGBTの中で光を放つ存在であることが受賞の理由だったと思います。2013年度のTSSAは世相に関連した受賞理由が多かったわけで、そういった意味ではロシアの反同性愛宣伝禁止法のインパクトは大きかったと思います。

Q:これからのTSSAの目標や、目指していきたい方向について教えて頂けますか?

A:これまで続けてきた「日本のLGBTの可視化」、「多様性尊重の経営に取り組む企業・プロダクトの紹介」、「LGBTコミュニティから未来を担う日本の子どもたちの支援」の3つのプロジェクトを継続しつつ、より大きなムーブメントにしていけたらと思います。今年は若い人たちにも関心を持ってもらいたいということで、客席に「学生席」を設けたのですよ。より多くの人たちに、今LGBTコミュニティで何がおこっているかを伝えていきたいです。

Photo: 華やかな受賞者の顔ぶれ
Ⓒ TSSA

2013年度のTSSAに参加する機会を得て、受賞者を振り返ると、バリエーション豊かなラインアップであったことが強く印象に残っている。コミュニティ賞を受賞した大阪市淀川区は、行政としては異例の「LGBT支援宣言」をし、区役所入り口にはLGBTの象徴であるレインボーフラッグを掲げた。「区」という小さなコミュニティではあるかもしれないが、行政がLGBTに対して積極的にアクションを起こすということは画期的なことである。また、メディア賞では、お笑いタレント爆笑問題がLGBTのホーム、新宿2丁目をナビゲートし、日本におけるLGBTの暮らしぶりや様々な問題をわかりやすく紹介したNHK総合『探検バクモン“性”をめぐる大冒険』が受賞した。

各賞の発表終了後、受賞者全員がステージに上がり並んだ姿を見た時、通常では出会うことがなかったかもしれない各方面の人たちが「LGBTというテーマで1つになる」ということが素晴らしく思え、同時に、LGBTが秘める計り知れないパワーで、これからの日本の社会を本当に変えていくことができるのではないだろうかと予感した。

日本におけるLGBTシーンをより多くの人に知ってもらうために、LGBTコミュニティと企業との繋がりや、世界各国のLGBT情勢などを紹介するTSSAは日本社会にとって不可欠な存在だろう。2010年に始まったTSSAは、多様性に寛容な豊かな社会の実現を目ざした有意義な活動であり、今まで以上にこれからが楽しみなプロジェクトであると確信した。

PROFILE

菱沼聖哉 (ひしぬま・せいや)

青山学院大学 総合文化政策学部2年

多種多様な価値観が混在する現代において、その価値観を多くの人々と共有するための新たな場が求められています。日本におけるLGBTマーケティングの可能性を追究し、新たな市場を開拓すること、そして、これまでの「解放運動」型の活動とは異なるアプローチを通じてLGBTへの意識改革を促すことは、今後の日本の経済的発展にもつながっていくのではないでしょうか。既存の狭くカテゴライズされた枠組を越えて、新たなる挑戦を青山から発信していきたいと思っています。