2014/01/08 17:12

第1回 目に見えないものをデザインする
—日本発の「香」で世界を目ざす 株式会社 DEICA JAPAN

Photo: パッケージが印象的なDEICAのアロマ・プロダクト ⒸDEICA

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第1回 目に見えないものをプロダクトにする仕事

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 日本には古くから「香道」という、一定の作法に則って香木を焚いて、そこから立ち上る香りを鑑賞する優雅な遊びがある。しかしながら、現代の日本に生きる私たちは、毎日の忙しい暮らしの中で、香りを楽しむことには長いこと無頓着だったのではないだろうか。

 ヨーロッパ、特に、南仏などに旅行すると、植物由来のエッセンシャル・オイルをベースにした石鹸やお風呂用品、安眠用のポプリ、気分をリラックスさせるための香りのキャンドルなどを扱う専門店を以前からよく見かけたが、少し前の日本には、そういった専門店は存在していなかった。
 天然の植物由来の成分で「動物実験をしないで作った化粧品」を謳い文句に「多少高くても、環境にも人にも優しいプロダクト」を世界に広めた英国のザ・ボディショップの日本一号店が表参道にできたのが1990年(英国での1号店は1976年のオープンに遡る)のこと。同じく1976年にオリビエ・ボーサンによって創業されたロクシタンの日本一号店が銀座にできたのは1996年の11月のことだった。当時、アロマ、生活の中で使う香りのプロダクトというと、どうしても「ヨーロッパのもの」という印象が強かった。

 そんな中、キャンドル、室内用ディフューザー、スキンケアなどのアロマ・プロダクトの幅広いラインを提供する「DEICA 泥華(デイカ)」が、実は日本のヴェンチャー企業であることを最近知り、その設立の経緯とビジネス戦略に興味を惹かれ、株式会社 DEICA JAPAN代表取締役、クリエイティブ・ディレクターの西田卓矢さんにお話をうかがった。

岩渕:まず、DEICAというブランド名についてですが、どういうコンセプトでつけられたものなのでしょう? DEICAが「泥華(デイカ)」だということは、漢字を教えて頂くまで、まったく思い浮かびませんでした…

西田:仰るようにDEICAは漢字ですと「泥華」と書きまして、蓮の花のことなのです。蓮の花が早朝、朝靄の中で、泥の中から立ち上がって「ポッ」と花を咲かせる一瞬に放つ、濃厚な香り、蓮の花の清楚さ、優美さを、キャンドルの光や香りのイメージと重ね合わせて考えたブランド名です。
 日本のキャンドルに今までなかった独創性、デザイン、機能性を追求して、本物のラグジュアリー感を実現しようとして作った新しいブランドがDEICAで、蓮の花のように「神聖」で「清らかな心」を表現できればと思っています。

 キャンドルは、単に火を灯すためだけではなく、ゲストのおもてなしや、家族や恋人と食事をするとき、ひとりでくつろぐときなど、日常の生活空間に溶け込み、個性を発揮するインテリア・オブジェとしても活躍すると思うのですよね。それに加えて、香りがもたらすアロマ効果は、ストレスフルな日々を過ごす私たちの心と体も癒してくれます

岩渕:DEICAを始めたきっかけというか、そもそもアロマやキャンドルに興味を持たれたのはどういう経緯だったのでしょうか?

西田:もともとアロマの仕事をしていたわけでもなく、アロマのキャンドルでビジネスをしようと思ってスタートしたわけでもないのですよね。
 もともと僕はファッション関係の仕事をいろいろやっていたのですが、ちょうど30歳代の後半にさしかかった頃、衣装デザイナーとしてアーティストさんたちと一緒にがむしゃらに10年近く走り続けてきて、ちょっと疲れたなぁという自覚があって、自分自身が身体にいいものが欲しいと感じていたのです。身体が自然を求めていた。そんな時に、海外で天然由来成分で作ったアロマ系のプロダクトに出会って、いいなぁと思いました。ところが日本国内では、まだアロマ・キャンドルやディフューザーをあまり売ってなかったので、だったら自分で作ろうと思った。それも、せっかく自分で作るのだったら、ファッションやモードを感じる、そんなプロダクトを作りたいと考えたのがきっかけです。もちろん、本業はファッションのデザインで、アロマに関係したものは、当初、趣味というか、あいた時間で作って、自分で使ったり、一緒に仕事をする人たちにプレゼントしたり…という程度でした。

(続く)

PROFILE

西田卓矢(にしだ・たくや)

株式会社 DEICA JAPAN代表取締役/クリエイティブ・ディレクター

アパレル業界でパタンナーとしてスタート、その後、独自のデザインを追求するようになり、数多くのアーティストやCM衣装を手掛けてきた。デビュー以来、2001年まで浜崎あゆみの衣装を専属デザイナーとして担当。その後、自身のブランドSNARLEXTRAを立ち上げ、ストリート・クチュールをキーワードに、リメイク・デニムなどの斬新なデザインが注目された。2001年のレコード大賞での、記憶に残るhitomiの衣装は西田のデザイン。2005年、LAに拠点を移し、東京とLAからTAKUYA NISHIDAブランドを発信。2007年、安室奈美恵の復活ともいえる「Hide & Seek」の衣装を担当。中島哲也監督「パコと魔法の絵本」の衣装なども手掛けた。

2006年、趣味で始めたキャンドルが銀座エルメスのショーウィンドーに飾られ、それを機にラグジュアリー・キャンドルのブランドとしてDEICAをスタート。ホテル・ニューオオタニ、シャングリラなどの一流ホテル、シャネル、ピアジェ、マセラッティなどのヨーロッパの老舗ブランド、浜崎あゆみ、安室奈美恵、EXILEなどのアーティスト、バーニーズ・ニューヨーク、ANA、伊勢丹、梅田阪急などにも商品を提供。2011年からは新たにDEICAビューティのラインナップをスタート。2013年、ヴォーグ・ビューティアワードに選ばれた。

2014年はワインのラベル・デザインやジムなど、ライフ・スタイル全般のプロデュースに仕事を広げ、世界をフィールドに今後のさらなる飛躍が期待されている。