2013/11/11 12:41

第1回 Research without Borders
ケン・コーンバーグ氏が語る創造的な研究成果を生み出す
施設・組織の条件とは

Photo: 青山学院大学・本多記念国際会議場で講演するケン・コーンバーグ氏 ⒸDaisuke Mori

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 2013年10月11日(金)、青山学院大学・本多記念国際会議場において、青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター主催(助成:アメリカ合衆国大使館、青山学院ヒューマン・イノベーション・コンサルティング株式会社、協力:オリエンタル技研工業株式会社、アグロスパシア株式会社)による、ケン・コーンバーグさんを講師にお迎えしてのレクチャー&ディスカッションが開催されました。

 コーンバーグさんは、我が国の沖縄科学技術大学院大学(OIST)の設計を手がけ、世界からも注目を集めるラボ設計の権威で、今回は「創造的な研究成果を生み出す施設・組織の条件とは?」をテーマにお話をして頂きました。

 科学者一家の三男に生まれたケン・コーンバーグ氏は、家族の中で唯一人だけ科学者にはならず、建築家となって、世界各地の名だたる研究所の設計・デザインに携わってきました。その彼が一貫して主張しているのは、ノーベル賞クラスの成果を生み出すためには組織内のコミュニケーションや交流を恣意的に活性化する必要があり、そのためには建築的アプローチも有効な手段となり得るということです。

 研究施設の入り口やロビーの形状、スタッフが毎日ランチに利用するカフェテリアを建物のどこに配置するかが人の動線を決定づけることになるので、研究機関内で働く科学者たちが頻繁に対話する機会を増やすため、戦略的に建物の設計をすることが極めて重要であるというのが彼の考えです。同時に彼は、優れた成果を出す研究チームほど様々な国や文化、異なる研究分野出身の混成チームであることに注目し、多分野横断的なコラボレーションこそがイノベーションの鍵であるとも述べています。

 コーンバーグ氏の講演の内容は、グローバル化への対応の遅れが指摘されている日本にとってはそのまま取り組むべき課題を多く示すもので、青山学院大学ヒューマン・イノベーション研究センター(HiRC)が掲げる、教育機関、公益・非営利機関、企業における、組織学習による知的創造環境(仕組み)のデザイナ、プロデューサの育成というテーマにも様々な示唆を与えてくれる内容でした。

分野を超えて恊働する新しい時代の科学者たち

 インターネットが発達し、誰もが同じように様々な情報にアクセスできるフラットな社会に生きる私たちが直面しているのは、「どうやったらグローバルな競争で勝ち残っていくことができるか」という問題です。

 研究機関のレベルはそこで働く研究者の能力次第であるということは、指摘するまでもないことでしょう。20世紀において最先端の研究を牽引し、多くの発見を世に送り出してきたのは、世界中、どこにおいても大学でした。優秀な研究者が在籍するアカデミックな研究機関には、最高の大学院生やポスドクたちが、絶えず集まってくるのです。

 大学以外、企業などに所属する研究機関においては、首席研究員(PI=Principle Investigator)と呼ばれる、研究成果を彼らの名前で発表したり、新製品を彼らの監修の下でローンチさせることのできるスター・プレーヤーたちの存在が、その研究機関の知名度を決定づけてきました。

 こうした研究機関を設計する建築家の役割は、まず、研究者の野望やニーズを汲み取ることで、そこに優秀な人材が集まり、研究者としてそこに長く留まって仕事をしたくなるような環境を実現することがゴールとなります。どんな施設をデザインすべきかを的確に理解するためには、まず、そこで働くのはどんな人たちで、彼らがどんな施設の使い方をするのかを理解することが肝心です。

PROFILE

ケン・コーンバーグ(Kenneth Kornberg)

コーンバーグ・アソシエイツ代表取締役のケン・コーンバーグ氏は、スタンフォード大学を1973年に卒業。 建築学士号と工学修士号を取得した後、商業ビル、劇場、ショッピングセンター、住宅などのデザインを手がけ、1979年、スタンフォード大学 の遺伝学ラボのデザインを受託したのを手はじめに、世界各地で数百に及ぶ研究施設のプロジェクトに携わってきました。彼が手がけた我が国の沖縄科学技術大学院大学の建物は、景観、及び、稀少植物など、立地環境に最大限配慮したデザインが高く評価され、世界から注目を集めています。 ケン・コーンバーグ氏は、ノーベル生理学・医学賞受賞者のアーサー・コーンバーグ博士を父、スタンフォード大学の構造生物学の教授で、 2006年にノーベル化学賞を受賞したロジャー・コーンバーグ博士を長兄に、また、母も二番目の兄も著名な生化学者という、科学者一家に育ったことでも知られています。

*ケン・コーンバーグ著、ラボ設計に関する思いが詰まった新刊『21世紀のラボラトリーデザイン』(オリエンタル技研工業株式会社編)は、丸善出版株式会社よりお求め頂けます。