2013/10/28 12:23

第2回 本屋ですがベストセラーはおいてません・・・
心斎橋のスタンダードブックストアに見るリアルなスペースとしての可能性

Photo: どこか懐かしさが漂うスタンダードブックストアの店内 ⒸJunko Iwabuchi

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第2回 ネットとリアルをつなぐ場という役割

岩渕:ここをオープンされたのはいつですか?

中川:2006年の11月の終わりですね。

岩渕:そうすると、ソーシャルメディア云々より、少し早い時期のオープンだったのですね。イベントはいつからやりはじめたのですか?

中川:オープンしてすぐクリスマスだったので、何かやろうと思ったのですが、特にコネクションとかあったわけではありませんでした。スタッフにギターを教えているやつがいたので、5000円やるからギターを弾けといって、友だちを連れてきてもらってイベントやったのが一番最初だったと思います。

岩渕:最近だと東 浩紀さんのゲンロンカフェが典型的な例だと思いますが、ネット上で活躍していた人たちがリアルな議論のできる空間を欲しがったり、実際に人が集まれる場を持つことに関心が強まっていますよね。スタンダードブックストアのこの場所は、まるで、そういう人たちが使うことを想定していたかのように思えてしまいます。

ここへお邪魔する前に『関西ウォーカー』の玉置さんにお話をうかがったのですが、2010年4月にスタンダードブックストアで行われた「関西twitterサミット」の会場は、このカフェだったのですよね?

中川:300人くらいか…350人くらい無理やりぎゅうぎゅうに入れてやったんじゃなかったかな。座れないどころか、中に入れない人が大勢入り口から溢れ出して…。

玉置:あれはイベントとしては最悪の使い方でした(笑)。椅子に座ってしまうと全く見えないので、ふわふわの不安定な椅子だったのですが、仕方なく立った。椅子の上にずっと立っていたのですよ。週刊『ダイヤモンド』が2010年の1月下旬にtwitterの大特集を組んだ一週間ぐらい後に、『関西ウォーカー』はtwitterアカウントを作って呟き始めたこともあって、すぐにリアルに繋げたかった。それで、その1回めのイベントをここでやらせて頂きました。

中川:ネットも繋がらなかったし、携帯の電波の入りも悪かったのですよね。

岩渕:twitterサミットをやろうというのに電波が全然入らなかったので、それで玉置さんがtwitter上でソフトバンクの孫さんに呼びかけて、それで会場に急遽、アンテナを作ってもらった。だけど、それはイベントが終わるとあっという間に撤去されてしまったというお話をうかがいました。

玉置:実は、サミットの時は店長さんとしかお話していなくて、中川さんと喋ったのは電子書籍のイベントの時だったと思います。紙が好きな人ばかりのパネルで。4人ぐらいいたんですが、僕一人しか電子書籍について前向きな発言をしなかったですね(笑)

中川:あれはお題が酷かった。こんなテーマでパネルが成り立つのかな?と心配していました。

中川:服部滋樹さん、ナガオカケンメイさんと3人でやったのは「コミュニティについて話せぇへん?」というのが最初でした。ちょうど大阪市長選の前で、テーマがテーマだったので、前日になって当時の平松市長が15分くらい出てもいいという連絡がありました。

当日はUst中継をやっていたんですが、平松さんが到着して、会場は市長本人がサプライズで出てきてみんなびっくりだったのですが、ナガオカケンメイさんが、めちゃめちゃ嫌そうな顔をしていました(笑)。で、結局40分ぐらい経って、最後に平松元市長が「僕が来てからナガオカケンメイさんがヒトコトも喋ってないですね」と言ったら、ナガオカさんが真顔で「僕はあなたと喋りに来たのではありません。この二人とコミュニティについて話をしに来たんです」と言ったわけですよ。会場は大盛り上がりで、受けていました。

玉置:選挙の前、ちょうど僕が平松さんとソーシャル・ネットワーク大阪をやっていた頃ですね。

岩渕:とても多くのイベントをやって来られていれると思うのですが、企画はどうやって決めるのですか?

中川:持ち込まれることも多いですが、やって欲しいと思ったら、こちらからも声をかけさせてもらいます。たとえば、祐真朋樹さんというスタイリストさんに来てもらいたいなと思っていたのです。うちの店では彼の本が売れているわけですよ。それなのに、マガジンハウスに電話しても増刷する予定はないと言うし…。(注:結局、しばらくして増刷が決まりました。)

それが、つい1〜2週間前にうちのスタッフが「祐真さんがどうも店に来ている」と言ってきて、もし間違ったらいけないと画像検索かけて確認したところどうやら本人らしいということになって、声をかけてみたらご本人で、「マガジンハウスから聞いて、見に来てみました」ということでした。そこで、有難いと思って、是非是非イベントをお願いしたいですということで決まりました。

岩渕:今売れているものとか中川さんが興味を持ったものとか、スタッフの皆さんが面白いと思うことや人に関するイベントというわけですね。

玉置:週に何本ぐらいやっているんですか?

中川:3日に一度くらいですね。年間だと100から120ぐらいはやっているかと思います。数を追うようになるのは危険で、去年あれだけやっていたのにというふうになるのは避けたいですね。むしろ、イベントは企画段階からもっと編集したカタチにしたいと思っています。

本が出たからイベントをやるというのは当たり前ですが、本の内容もさることながら、この著者だったら、この話をこの切り口でして欲しいとか、この人と一緒にブッキングして…とか、編集機能を強化していかないとイベント・スペースとしては残らないし、誰も喜ばないと思うのです。行きたくなるようなイベントや来たいと思う人が参加できるようなシステムを作らないといけないのではないかと感じています。

岩渕:だいぶ前から、美術館・博物館の展覧会企画をするのと同じように、「キュレーション」という言葉がネット上で使われるようになって、単なるデータであってもキュレーションすることで文脈や個性を持たせることができるという話がありますよね。でも、キュレーションという言葉は、むしろ、リアルな空間で行われるイベントのほうが相応しいような気がします。

玉置:Ustでの中継は最近やっていないんですか?

中川:Ust中継は最近ほとんどやっていないですね。

岩渕:一時期、イベントをやるよりもUst中継をやることそのものが目的化していた時期がありましたけど、最近は動画配信にこだわらなくなってきていますよね。

玉置:配信するだけで嬉しかった時期ではもうないということじゃないでしょうか。

中川:人が話をする場合、どうしても、言えることと言えないことが出てきてしまうんですよね。だから本当は編集して後から配信するならいいんですが、編集する時間もないし、面白い人のトークをそのままバンバン流したら大変なことになってしまう可能性もある。本音の話ができなくなってしまったら元も子もないし、ライブ感を大事にしようとも、話をする側から言われました。来れない人もいるんだけどなと言ったら、またやったらええやんと言われました(笑)。それもそうかなと…。今のところどっちがいいかは、実際のところ、わからないですね。

PROFILE

中川和彦(なかがわ・かずひこ)
株式会社鉢の木 代表取締役

1961年大阪生まれ。大阪市立大学生活科学部住居学科卒業。1987年父の経営する(株)鉢の木入社、代表取締役就任。2006年、カフェを併設する本と雑貨の店・スタンダードブックストア心斎橋オープン。2011年、スタンダードブックストア茶屋町オープン。本は扱うが本屋を営んでいる意識は希薄で、人が集まり、人と人が直接触れ合う場を提供したいと考えている。