玉置泰紀(たまき・やすのり)
関西ウォーカー編集長
1961年、大阪府枚方市生まれ。同志社大学文化学科哲学及び倫理学専攻卒業後、
産経新聞大阪本社に入社。記者として神戸支局、社会部で大阪府警本部捜査1課などを担当。その後、編集者に転じ、福武書店(現ベネッセ)で月刊女性誌カルディエ、角川書店でシュシュ、九州ウォーカー、東海ウォーカー、関西ウォーカーを担当した。長崎市観光専門委員、愛・地球博の食の専門委員、経団連の観光専門委員などを務めた。
玉置:繰り返しになりますが、民主主義とは何なのかというのがこれから一番重要な議論になると思っています。編集会議では、できるだけ色んな意見が聞きたいので様々な意見を戦わせますが、何を創りたいか、何をやりたいかは、多数決でどちらが多かったにせよ、編集長である僕が少ない方の意見を選択することもあり得るわけです。
クリエイティブに関してはそういうことでいいと思いますが、民主主義の政治ではありえない。多数決で賛成多数の方だけやっていたら、雑誌はあっという間に廃刊になります。ところが、政治においては民主主義、民意、多数決は大事ですし、僕自身もリベラルだと自分では思っているので、そういうことは大事にすべきだと考えています。でも、民主主義はとにかく効率が悪く、色々なことを我慢しないといけない。今後、そこをどうしていくべきかという議論が必要だと思うのですよね。今は、技術的にもバーチャルをリアルにしていくことが現実的になってきているので、本当に考えないといけない時期に来ていると思います。
これまでは自民党なら自民党に政治を任せればよかった。ある意味、自分とは直接関わっていないようなところがあったわけですが、インターネット技術の進歩により、いろいろなことに誰もがかかわりやすくなってきている。その時に多数決で、少数意見をどうするのかという民主主義の根本的な部分を考えないといけないところにきていると思います。
岩渕:この間の選挙でいうと、東京都民が鈴木寛氏でなく山本太郎氏を選出したことにまつわる議論などもその一部ですよね。どちらを否定するということではなく、当事者意識を人々が持った時にどちらによりシンパシーをもつのか。人個人にシンパシーを感じるのは、人ですからあることだと思いますが、政治家が言っていることが正しいのか間違っているのかを判断するためのデータをどこに見に行くのかが重要だと思います。
玉置:池田信夫さんなどは自分の論理で山本太郎氏を否定し尽くしたと考えていると思いますが、投票の重要なところはマイナス票がなくてプラス票しかないというところです。自分がどんなにある候補が嫌いでも票を減らすことはできないので、山本太郎氏に投票したくない人が50万人いたとしても、彼に投票したいという人が100万人以上いたら当選するわけです。50万人がマイナス票にはならない。
岩渕:今までは実際に投票しに行く人の数を分母としてシステム設計されていたので、プラス票のみの投票システムで問題なかったのだと思いますが、投票率が100%に近くなった場合、マイナス票を投じるシステムというのが重要性を帯びるのかもしれませんね。
玉置:投票にマイナス票というシステムを導入した時点で異次元に行ってしまうのですが、そこまで考える必要はあると思います。
岩渕:実数値をマイナス票とするのか、係数をかけるのか、その係数をどのように設定するのか、議論のポイントはいろいろありそうです。ネットで、クリックひとつで投票できるようになると、株のトレーディングにおけるワンクリック・ミスと同じような問題が起きる可能性もありますよね。フェイル・セーフ環境をどのように担保するのか、どう解決するのかが重要だと思いますね。
玉置:そもそもハッキングされる可能性があるかもしれないわけですしね。
岩渕:一方で、信用できるデータはどこに存在するのかというのは、また別の、重要な問題だと思います。twitterなどで、善意からデマを拡散させてしまうといったことは、初心者によく見られる行動ですが、情報の正否の判断基準をどうするのかといった問題と、根は一緒で、どこまで一次情報を確認すべきか。当人のネットリテラシーが高いかということと、一次情報に当たれる立場にいるのかどうかということが大きく影響します。専門家に直接話を聞ける立場にいる人であれば確認もできるし、学術的なデータベースにアクセスできる人であれば自分で調べることもできますよね。それができない人は、誰かが解釈した内容にもとづいて判断しなければならないので、それがデマの元になっていく。
玉置:たとえば原発関係でいうと、両方の陣営に学者がいるのでどこまで誰を信用すればいいのかが難しいですよね。今している議論というのが僕はとても重要だと思っています。
津田大介さんや東浩紀さんのしている議論が先端だと思っていますが、まだまだSNSって役に立つよねという夢の部分で終わってしまっているところが見受けられる。津田さんは哲学者ではないので、本来その先にあるべき根本的な部分の議論には至っていないのでしょう。彼はユティリティプレイヤーであり、様々な資質を持っていると思いますが、やはりジャーナリズムの側面が強い。本来なら東さんがその辺りを突き詰めて考えるべきなのかなと思いますが、僕は議論はまだこれからだと思います。哲学者だったら、今一番面白いテーマではないでしょうか。
岩渕:twitterって対話を通じて考えを深めていく、ギリシャ哲学の技法のような面白さがありますよね。ある人がなにげなく話していたことが、自分が悩んでいることの解決策になったり、触発してくれるようなことがあり、そこがFacebookと違う面白さだと思います。異なる価値観と邂逅できるのがtwitterの良さだと思うのですよね。誰かを論戦で倒してやろうとかそういうところではなくて、たまたまだれかがリツイートしたものがTLに流れてきて、ああそういえば!というひらめきが得られる。
玉置:話は変わりますが、平安時代の政変は、ほとんど讒言によって起きているというのが興味深い。例えば菅原道真のような藤原家でない人が政治ポストにつくと、讒言によって失脚することになるわけです。なぜそんなに讒言が信用されるのか疑問を感じます。
岩渕:twitter上のデマもそれに近いようなところがありますね。
玉置:嘘ほど信用されやすいということがあるのかもしれません。
岩渕:一つのシステムがうまく機能するのは時代の要求にたまたま合致したからだという話が『坂の上の雲』に出てきます。東郷平八郎がバルチック艦隊を破ることができたのは、運9割ぐらいだったと…。たまたま条件が揃ったからそのシステムがうまく機能して、その結果を後の時代の人がどう解釈したかで歴史は作られていくのではないでしょうか。
twitterやFacebookがアメリカの社会システムに乗っかった形でできているというのと同じように、過去の讒言によって滅びた政権や国のシステムを検証することは、プラットフォーム検証として役に立つかもしれませんね。
玉置:過去に起きたことがネット上でいま可視化されているのだということであり、非常に面白いことだと思います。
玉置泰紀(たまき・やすのり)
関西ウォーカー編集長
1961年、大阪府枚方市生まれ。同志社大学文化学科哲学及び倫理学専攻卒業後、
産経新聞大阪本社に入社。記者として神戸支局、社会部で大阪府警本部捜査1課などを担当。その後、編集者に転じ、福武書店(現ベネッセ)で月刊女性誌カルディエ、角川書店でシュシュ、九州ウォーカー、東海ウォーカー、関西ウォーカーを担当した。長崎市観光専門委員、愛・地球博の食の専門委員、経団連の観光専門委員などを務めた。