2013/10/09 17:23

第12回「140字、1億人の”つぶやき”革命」から間もなく4年…
リアルへの回帰とソーシャルメディアのこれから

Photo: ネット上での議論の先にリアル空間はますます必要とされるようになる? ⒸJunko Iwabuchi

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第12回 SNSありきの時代の民主主義と選挙

岩渕:今日のテーマですが、ソーシャルメディアの先、民主主義がこれからどう変わっていくのかというところですよね?

玉置:僕のいま一番の興味はそこですね。民主主義、政治をひっくるめたところで過去の常識を横において、新しいSNS後の時代のラジカルな探求・思索というものが大事なのではないかと思っています。

岩渕:SNSが社会に影響を及ぼすという前提で、社会制度や政治の仕組みを考えないとヒトラーの登場ということにも繋がりかねないことが懸念されますよね。

玉置:民意を反映するということをプラスに評価し過ぎて、楽観的になることは危険だと思っています。

岩渕:古代ギリシャやローマの選挙制度でも、納税や兵役義務を果たしていた、いわゆる「市民」以外には選挙権はなかったのですよね。「市民」とは、いわゆるリベラルアーツの語源にもなっている「リベラリス=自由である権利を持つ市民(奴隷などは含まれない)」のことなので、教養があり、リテラシーの高い人ということになる。そういう人たちだけが政治に参加していたからこそ民主主義は運用できていたけれども、市民のレベルが下がったら、衆愚政治になってしまったという歴史的経緯があると思います。

玉置:アテネの陶片追放は良いケーススタディだと思います。

岩渕:人気のあり過ぎる人は追放される…という仕組みは画期的ですよね。

玉置:基本投票はプラスしかないけれども、マイナス票が入った時にどうなるかを考えるのは重要だと思います。逆にそれが進んだ結果スパルタに負けるというような結果になるかもしれませんしね。

今、一番気になっている部分でいうと、ネット選挙とも繋がる部分ではありますが、SNSの先に民主主義とは何かが問われるのではないか…ということなのですよね。今まで民主主義はあって当然と思われてきた歴史的経緯がありますが、イスラム主義の人たちの中には納得していない人もいるでしょうし、民主主義というものがユニバーサルに受け入れられるのかどうかの検証が必要なように思います。民主主義の構造的な分子レベルのかなりのことが、ビッグデータを含めてですが、SNSからわかるわけじゃないですか。一方で、選挙を実際やると、投票率が低いという現実があったりするわけです。

民主主義の非効率性というのも一方ではあり、衆愚政治に陥りがちでもある。うまくいくと、シーザーのような優秀な人間が出てきて、選挙を勝った上で独裁政治になっていき、いい悪いは別として効率的には動かせる。そもそも民主主義とか選挙とかって何なんだろう、どういうことが正しいのかというラジカルな議論をしなきゃいけない段階に来ている気がすごくするのですよね。

岩渕:以前、「日本の民主主義の明日を考える」というシンポジウムで玉置さんとお話した際、その時はソーシャルメディアがテーマではありませんでしたが、日本に民主主義はあるのか、果たしてそれはきちんと機能しているのかという疑問があったからそういう議論になったわけですが、奇しくも、今日のテーマもそこにつながってきているわけですね。

twitterもFacebookもGoogleも、アメリカ発のサービスで、それらがアメリカの大統領選で大きな効力を発揮するのは、こうしたネット上のサービスがアメリカの社会を反映して作られているからなのだろうと思います。日本のネットの使われ方には、日本ならではの社会的資質の反映があるでしょう。日本がネットを使った選挙をどう受け入れていくのか、どう発展させていくのかは、日本の民主主義がどのような性質のものなのかを考える上で大きなポイントになると思います。

玉置:投票率についていうと、大勢が決している選挙では投票率は上がらないのですよね。例えば、自民党が倒れて民主党に政権交代しそうだという前回の選挙の時や、小泉純一郎が自民党をぶっ壊すといった郵政選挙の時などの、何かを変革しようという時の有利不利が決定する際に、日本人は戦国時代から勝ち馬に乗るという文化があるからかもしれませんが、そういう時に投票率が物凄く上がる。勝ちそうなところにガーッと乗っかっていくわけですよ。民主主義実現のためには投票率が上がらないといけないわけですが、投票率の議論をひとつとっても、低いとか高いとか、そういう単純なことではないと思っています。常識だと思われていることが、実は、突き詰められて考えられていない現状があるのではないでしょうか。

岩渕:投票率の話は、スポーツの試合でも勝敗が決していれば試合を見なくてもあとで結果だけ見れば良くなってしまうというのと一緒かも知れません。

玉置:今回の選挙では、テレビの特番でいうと池上彰さんの『TXN選挙SP 池上彰の参院選ライブ』が圧勝でした。ただ、その中で最後に池上さんは投票率が低いことを嘆いて、フォークグループ「五つの赤い風船」の『遠い世界に』という歌で締めたのです。全体的に面白い番組だったんですが、そこで最後普通になっちゃったなと僕は思いました。変な話、投票率が70%とかになったら本当の衆愚政治になっちゃう可能性もあると思うのですよ。さして政治に興味が無い人も投票するということになってしまうと、それこそ本当にヒットラーがでてくる土壌ができてしまう可能性がある。

岩渕:もし、首相を決めるのが直接選挙になった場合、日本はどうなるのでしょうね。アメリカのように独立性の高い州が50もある国と、国土が狭くて意見が統一されやすい日本とでは、代表を直接選挙で決める意味は違うと思うのです。それこそ、オンラインで選挙ができてしまうとなると、若い人たちはネットでなら投票するということもあると思うのですよね。

玉置:そのクリックは軽いと思います。なかなか恐ろしいことになるのではないでしょうか。今、自民党が憲法改正を進めていますが、投票がオンラインで出来るようになったら投票率は上がりますし、首相選挙を直接選挙で行うとしたら、かなり覚悟を持ってしないといけないのではないのかと思います。

岩渕:その前に国勢調査を全国オンラインでできるようにして、それが精度が高くできることが証明されない限りは難しいでしょうね。議論の俎上に上がってくるとは思いますが。

玉置:そうですね。議論は加速してくると思います。

岩渕:日本の場合、投票所に行って投票するのは高齢者であり、高齢者への平等性をどう担保するのかという部分でオンライン選挙の導入に歯止めがかかっていると思います。これを踏まえて、いつごろオンライン選挙が実現すると思われますか?

玉置:方向がどちらかに傾いたら、そこからは早いと思います。インフラ的に言えばプラットフォームは準備できるわけですから、どこかのタイミングで強い意見が出たら、いっきに加速すると思います。20〜30年先というまでの話ではないのではないでしょうか。

岩渕:早ければ5年、10年という話かもしれませんね。

岩渕:かつて仕事をしていた方が突然連絡をくれるということもよくあります。

PROFILE

玉置泰紀(たまき・やすのり)
関西ウォーカー編集長

1961年、大阪府枚方市生まれ。同志社大学文化学科哲学及び倫理学専攻卒業後、
産経新聞大阪本社に入社。記者として神戸支局、社会部で大阪府警本部捜査1課などを担当。その後、編集者に転じ、福武書店(現ベネッセ)で月刊女性誌カルディエ、角川書店でシュシュ、九州ウォーカー、東海ウォーカー、関西ウォーカーを担当した。長崎市観光専門委員、愛・地球博の食の専門委員、経団連の観光専門委員などを務めた。