2013/07/31 12:00

第11回 J Prep 斉藤塾代表・斉藤淳さんに聞く
―「自由に生きるための学問」としてのリベラル・アーツ、
「学問の手段」としての英語―

Photo:イェール大学時代に教員フェローとして住んでいたセイブルック寮 写真提供:斉藤淳

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第11回 リーダーに求められるコミュニケーション能力とは

岩渕: リーダーの語学力というのは、単に喋る能力としての言葉ではなくて、人を説得できなくてはならないと思うのですが、この「人を説得できる能力」のあるリーダーが、そもそも日本にどれだけいるのか……疑問に感じます。教養を身につける努力をしている人が、残念ながら、日本の政治家には少ない印象がありますね。

斉藤: だって勉強してないですよ!(笑) 勉強してないから、勉強不足だからそうなる。公務員試験に受かるための勉強をしたとか、そういう意味の勉強ではなくて、歴史に学ぶとか、論理的思考力を鍛えるとか、色々な方法はあるはずですけれども……。
 日本の政治家の教養の浅さは、しばしば軽卒な発言というカタチで見受けられるわけですが、相手の立場を自分に置きかえて考えて、このような相手だったら、こういう発想をするだろうということが考えられない。他人に揚げ足をとられるという側面もあるかもしれませんが、国政のリーダーを担う人の発言には、もっと教養に裏打ちされた深い考えがあって欲しいと思います。

岩渕: 今、ある所でリーダーシップ教育にはどのようなカリキュラムが必要かという話をしているのですけれども、日本の政治家が海外で行ったスピーチで「こういうことをしてはいけない」という典型的な事例がユーチューブでたくさん公開されているわけですよ。こういうものを教材にして、日本の中間管理職に見せて、「どこを改善すべきか」議論させたら良いのではないかといった意見も出ているほどです。

斉藤: 危機管理セミナーにするといいかもしれませんね(笑)

岩渕: いや、でも、ほとんど日本の危機管理のレベルにかかわる話なわけですよね。

斉藤: 本当に分かって無いわけですよね、それは。語学力という問題ではなくて、日本人、もしくは、日本という国は、海外に対するエクスポージャーの経験がそもそも無いわけですよ。

岩渕: 今までは、海外に行ったときだけ気をつけていれば良かったわけですが、日本に滞在する外国人が増え、日本企業の親会社が外資になっていった時、今までと同様にしていたら、日本人はどんどん不適合ということになっていくわけですよね。
 サバイバル・スキルとして他の国の人とどう付き合うかを考えることは、今後、ますます重要になっていくのではないでしょうか? だからこそ、言葉を話せるということだけではなく、どこの国の人と仕事をする時は少なくともこういうことを知ってなければならないといった教養が必要になるように思います。そういう背景があっての英語教育だと思うので、斉藤さんがリベラル・アーツ一般を英語で教えたいと仰っていたことに興味があります。今後のカリキュラムは、どのような展開を考えておられるのですか?

斉藤: 細切れの、意味のない段落を読ませて日本語に訳させるようなことではなく、正解のない質問に対して自分の意見を述べる、ないしは、文章を書くという練習を際限なく繰り返します。特に力を入れているのは、ライティングの指導ですね。
 自分で考えをまとめて表現した時にどういう異なる表現や言い回しがあり得るか、ということをかなり丁寧に教えています。素材としては歴史全般、歴史認識問題も取り上げますし、あとはサイエンスも取り上げます。テーマはまんべんなく学ぶことで、自然に異文化リテラシーも含めて身に付くように工夫していくつもりです。

PROFILE

斉藤淳(さいとう・じゅん)氏プロフィール
J Prep 斉藤塾代表 株式会社 J Institute 取締役

山形県酒田市の農家で、将来は田んぼを嗣ぐことを期待されて育つ。四季折々に表情を変える 鳥海山の麓で、農業の将来に思いをめぐらしながらも、夜になると短波放送で世界各国のニュースを聞く日々を過ごした。インターネットもない冷戦時代に、各国の主張をそのまま聞き比べていたことで、批判的に物事を考えるための基盤が培われただけでなく、大学で語学や社会科学を幅広く学ぶきっかけになった。

斉藤氏は、イェール大学大学院在学中に衆議院補欠選挙に出馬。2002年10月から1年間、衆議院議員を務める(山形4区)。イェール大学で博士号 取得後、ウェズリアン大学、フランクリン・マーシャル大、イェール大で政治学の教鞭を執る。

主著『自民党長期政権の政治経済学』で日経経済図書文 化賞を受賞した他、TBSラジオで選挙解説なども務める。研究者としての専門は比較政治経済学。