2013/07/29 12:01
第10回 J Prep 斉藤塾代表・斉藤淳さんに聞く
―「自由に生きるための学問」としてのリベラル・アーツ、
「学問の手段」としての英語―
Photo:イェール大学院での 授業風景 写真提供:斉藤淳
by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長
第10回 ユーチューブでは伝えられない体験の提供をめざして
岩渕: 子供たちが本当に興味を持てることを見つける手助け、教育における、いわゆる学業成績ではない部分をどうサポートしていくかということでは、具体的にはどういうイメージを持たれていますか?
斉藤: やはり、人間対人間じゃないとできないことになると思うので、実際、研究室の中でどのようなことがおこなわれているかとか、ユーチューブのオンライン授業でも代替できない教育を、早い時期から、中高生に提供できればということを考えています。
岩渕: ユーチューブなどでのオンライン授業では代替できない教育というのは、正にキーワードですね。日本人は言語をスキルとして学習することまではできても、様々な国籍の人と一緒に働くことがうまくできないという指摘があります。異なる価値観、文化的な背景の人と一緒に働くために、相手の話を良く聞いて譲ったり、主張したり、その間合いをはかることが大変苦手なようです。そもそも、育っていく過程で、ほとんどの日本人は様々な国籍の人に会ったことすらない。それが体験できる環境を、早いうちから作らないと駄目でしょうという話ですね。
斉藤: 交渉の文法がないのでしょうね。極端な話ですけれども、都内の進学校というのは、ほとんどが中高一貫制の男子校、女子校なのですよ。まず、女子と男子が一緒にいるということ自体に違和感を覚える生徒がいるわけですね。さらに中高一貫制で、ずっと中学校から学年で輪切りにされた感じなので、その中で一番になったら、それでいいという感覚になってしまっています。
弊塾ではそんなことはなくて、初級の授業から上級の授業まで色々な学年の子がいます。去年はレベル6という一番上の留学準備のクラスに中学2年生から大学2年生までいました。
岩渕: ベンチャー起業の話になりますが、日本では、例えば5億円儲かって、自分たちが安定して生活できれば、それ以上を望まなくなってしまうという傾向があるそうです。一方、アメリカでベンチャーを起ち上げる若者なら、5億儲かれば、次は500億をめざそうと普通は考えるそうですよ。日本の若者は5億円儲けることで満足してしまうので、日本全体の成長力も弱くなっていくのではないかと、危惧されている方も多いようです。
日本の若者は欲が無いというのか、大志を抱かない。小さい成功で満足してしまうのはなぜなのかという指摘をよく耳にします。
斉藤: それは日本の若者の場合、市場として、日本だけしか想定してないからじゃないでしょうか? そこそこの大きさがある、5億円規模の日本の市場を取ることができる。だったら、リスクを犯してまで海外に出て行って500億目指すより、リスクは取らずに、地道に日本だけで5億儲けるという考え方なのでしょう。
岩渕: そのあたりの考え方が根本的に違うわけですね。小さい時から日本だけという、狭い世界で生きているのが日本人ですが、将来、自分が働く会社が中国など、他の国の企業の子会社になった時、上司をはじめ、いろんな国の人がいる環境で働かなければならない日が遠からず来るかもしれないのに、一体、どうするつもりなのでしょう?
斉藤: そういう事実に気づいてない人が多いですよね。今の日本の英語教育の現状を放置していたら、「使いっぱしりの英語力」しか身につかないですよ。自分の守るべき家族なり社員なり、あるいは選挙区なり、守るべき共同体を守ることができないわけですね。リーダーの語学力を持つ人がやっぱり少な過ぎる。
斉藤淳(さいとう・じゅん)氏プロフィール
J Prep 斉藤塾代表 株式会社 J Institute 取締役
山形県酒田市の農家で、将来は田んぼを嗣ぐことを期待されて育つ。四季折々に表情を変える 鳥海山の麓で、農業の将来に思いをめぐらしながらも、夜になると短波放送で世界各国のニュースを聞く日々を過ごした。インターネットもない冷戦時代に、各国の主張をそのまま聞き比べていたことで、批判的に物事を考えるための基盤が培われただけでなく、大学で語学や社会科学を幅広く学ぶきっかけになった。
斉藤氏は、イェール大学大学院在学中に衆議院補欠選挙に出馬。2002年10月から1年間、衆議院議員を務める(山形4区)。イェール大学で博士号 取得後、ウェズリアン大学、フランクリン・マーシャル大、イェール大で政治学の教鞭を執る。
主著『自民党長期政権の政治経済学』で日経経済図書文 化賞を受賞した他、TBSラジオで選挙解説なども務める。研究者としての専門は比較政治経済学。