2013/07/17 12:00

第5回 J Prep 斉藤塾代表・斉藤淳さんに聞く
―「自由に生きるための学問」としてのリベラル・アーツ、
「学問の手段」としての英語―

Photo:弊社会議室でインタビューに答える斉藤淳さん ⒸAgrospacia

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第5回 一年間の議員経験の後、再びアカデミアへ

岩渕: 議員の仕事というのは、予測していたようなものでしたか?それとも思っていたものと違いましたか?

斉藤: ある意味では予測していた通りでしたが、ある意味では違いました。議員は自らの政策を実現するために活動する一方で、有権者の代表として活動する側面があります。ですから、これまで踏襲してきた仕事の型のようなものを完全に無視するわけにもいかないのです。特に選挙活動では「型」が存在していて、それは歌舞伎の型に近いのではないでしょうか。手の振り方から名前の連呼の仕方まで、家元のような人がいて、さながら古典芸能の世界のようで、それは大変新鮮な学習の連続でした。
 議員としての仕事や所作などに型がある一方で、自分が参画することで政策を変えることができるのではないかと思う分野もありました。例えば、先程もお話した、民主党の高速道路無料化政策です。その他にも世の中を変えていくことに自分が直接参加している手応えを感じることはいくつかありました。

 性同一性障害を持つ方の戸籍の性別を変更する法律作業にも関わりました。直接の票集めにはならないですが、社会的に意義のある仕事にいくつか参加させていただいたという手応えは感じました。
 一方で教育ですとか、農政ですとか利害団体が複雑に絡む分野の公共政策については、自分が族議員として特化して、20年かかるか25年かかるかわからないけれども、継続的に選挙に当選し続けて、責任ある立場になってそれでも動かせるかどうかはわからないなと思いました。
 政治学者として申し上げると、日本の政治体制というのは拒否点(Veto points)の多いものなので、物事を動かすのは、非常に大変ですね。特に教育は典型的な例だと感じました。

岩渕: 教育においても、教科書だったり、学校に納入する机や椅子だったり、利権が形成されてきた歴史が厳然としてあって、それで食べている人たちが大勢いるので、変革しよう思った時に彼らをどうするのかという問題が一気に解決できないかぎりは、何も変えられないのかも知れませんね。

斉藤: その後、議員時代に感じたことや学んだことを分析的に振り返って博士論文を書きました。それを日本語にまとめ直したのが、『自民党長期政権の政治経済学』です。

岩渕: 議員の体験を踏まえて政治学の博士論文を書いた方は非常に少ないので大変画期的ですよね。

斉藤: 博士論文を書くために議員になったわけではないのですけれども…。ただ率直に申し上げるなら、政権交代後の民主党の状況を見ると、たとえ自分が議員を続けることで何か世の中のためになっただろうかと疑問に思ったりすることもあります。アカデミアに戻ったことについては、自分なりに納得しています。

岩渕: イェール大学を含めて、アメリカの大学では6年ぐらい教鞭を執ったのでしたっけ?

斉藤: ウェズリアン大学に1年、フランクリン・マーシャルに1年在籍して、今後は小規模な大学で、教育活動を中心に自分のアカデミック・キャリアを築いて、研究はほどほどでいいと思っていました。

PROFILE

斉藤淳(さいとう・じゅん)氏プロフィール
J Prep 斉藤塾代表 株式会社 J Institute 取締役

山形県酒田市の農家で、将来は田んぼを嗣ぐことを期待されて育つ。四季折々に表情を変える 鳥海山の麓で、農業の将来に思いをめぐらしながらも、夜になると短波放送で世界各国のニュースを聞く日々を過ごした。インターネットもない冷戦時代に、各国の主張をそのまま聞き比べていたことで、批判的に物事を考えるための基盤が培われただけでなく、大学で語学や社会科学を幅広く学ぶきっかけになった。

斉藤氏は、イェール大学大学院在学中に衆議院補欠選挙に出馬。2002年10月から1年間、衆議院議員を務める(山形4区)。イェール大学で博士号 取得後、ウェズリアン大学、フランクリン・マーシャル大、イェール大で政治学の教鞭を執る。

主著『自民党長期政権の政治経済学』で日経経済図書文 化賞を受賞した他、TBSラジオで選挙解説なども務める。研究者としての専門は比較政治経済学。