2013/07/10 12:00

第2回 J Prep 斉藤塾代表・斉藤淳さんに聞く
―「自由に生きるための学問」としてのリベラル・アーツ、
「学問の手段」としての英語―

Photo:弊社会議室でインタビューに答える斉藤淳さん ⒸAgrospacia

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

第2回 高等教育への認識が変わったアメリカ留学体験

岩渕: 斉藤さんは高校を卒業して、まず、日本で大学へ進学されたわけですが、高校と大学では、教育のあり方に違いはあったのでしょうか?

斉藤: 大学に行っても楽しくないので、バイトしてお金貯めて海外旅行を繰り返していました。周りの学生もとにかくやる気がないし、先生も学生も授業を舐めきって、真剣に授業をしているとは思えない印象がありましたので、ドロップ・アウト寸前でした。ですが、せっかくここまできたのだから海外に一度留学してみよう。海外はどういう教育をしているのか一度見た上で、大学を辞めようと思ったのです。

 卒業するならどこかマスコミにでも就職するかと漠然と考えていたんですが、でも、大学をやめるなら、山形で家業の百姓するのも良い人生だと感じていました。それで、交換留学の機会を得てカルフォルニア大学サンディエゴ校に1年間留学したのです。

岩渕: アメリカの大学へ行ってみたらどうだったのでしょう? それまでの日本で受けてきた大学教育とはかなり違いましたか?

斉藤: 留学してみて、これはもう大学に対する見方が変わりましたね。本当に……なんというか、「人間が人間を教育している。」という印象を得ました。というのも教室で当然自由闊達な議論があるわけです。自由闊達な議論といえども、議論の文法はしっかりしていて、お互い守るべきマナーを尊重しながら、人間対人間でなければできない教育をやっているわけです。

 自分が受けてきた教育を思い出してみると、高校も大学でやっていたことも、日本の教育というのはビデオで撮って、各自が倍速で再生して見たほうが効率的に勉強できるものだよな…というようなことを考えていました。

岩渕: アメリカで行われていた教育では、具体的に何が、どう違ったのでしょうか?

斉藤: アメリカ型の大学入試の仕組みについて考えてみると、人間対人間の議論の中で、その生徒が所属する集団の中でどういう役割を果たしているのかとか、そういうことまで先生はちゃんとみていて指導してくれる。生徒はそれをもとに進学することができる。与えられた課題を解くという高校での教育と、生徒がこれから直面していく人生における問題に最適化し、自力で対応するための指導、大学進学や職業選択などにおける問題解決の間に一貫したリンクがあるのです。

 ところが日本の教育にはそういうものがなくて、生徒が受験勉強を頑張れば頑張るほど、むしろ、先生からは睨まれる。先生が授業を頑張れば頑張るほど、受験まで時間がない生徒には迷惑という不幸を生み出す、監獄のような装置でしかないわけですよね。

 日本と違ってアメリカの教育はあまりにも面白かったものですから、一度日本に帰国して、また、アメリカに絶対戻って来なきゃならないと思ったのです。それで日本に戻って、上智大学の大学院に進学して、アルバイトしながらお金を貯めました。そして、ロサンゼルスのカルフォルニア大学(UCLA)で1年勉強し、そこから転学してイェール大学に奨学金付きで入ってというのが30代前半までのストーリーですね。

PROFILE

斉藤淳(さいとう・じゅん)氏プロフィール
J Prep 斉藤塾代表 株式会社 J Institute 取締役

山形県酒田市の農家で、将来は田んぼを嗣ぐことを期待されて育つ。四季折々に表情を変える 鳥海山の麓で、農業の将来に思いをめぐらしながらも、夜になると短波放送で世界各国のニュースを聞く日々を過ごした。インターネットもない冷戦時代に、各国の主張をそのまま聞き比べていたことで、批判的に物事を考えるための基盤が培われただけでなく、大学で語学や社会科学を幅広く学ぶきっかけになった。

斉藤氏は、イェール大学大学院在学中に衆議院補欠選挙に出馬。2002年10月から1年間、衆議院議員を務める(山形4区)。イェール大学で博士号 取得後、ウェズリアン大学、フランクリン・マーシャル大、イェール大で政治学の教鞭を執る。

主著『自民党長期政権の政治経済学』で日経経済図書文 化賞を受賞した他、TBSラジオで選挙解説なども務める。研究者としての専門は比較政治経済学。