2013/07/05 12:00

第6回 牧野二郎弁護士と上條由紀子弁理士による法律と知財に関する対話 ~アグロスパシア・キックオフ・セミナー~

Photo:出席者からの熱を帯びた質問も多く、活発な質疑応答に。 @ Agrospacia

by 岩渕 潤子(いわぶち・じゅんこ)/AGROSPACIA編集長

 2013年2月22日、アグロスパシア株式会社はIT関連の知識が豊富な法人法務の第一人者、牧野二郎弁護士(牧野総合法律事務所 弁護士法人)をお招きし、コメンテーターには金沢工業大学大学院知的創造システム専攻准教授/太陽国際特許事務所の上條由紀子弁理士をお迎えして、キックオフ・セミナー、「法律と知財: 起業する前にこれだけは知っておきたい!」を開催しました。

 本記事はセミナー内容を書き起こし、編集を加えたものです。

これからビジネスをしていくうえで

牧野: そういう意味では、皆さんがこれから本格的に仕事を始めると弁護士も弁理士も、結構いろんな所で接触できるようになってくると思います。そういう腹もすわってきます。ただ、その時に話をしたその人がすべてだと絶対思い込まない事ですね。自分は全てであっても、その人の言う事が全てというわけではない。

 思い出していただきたいのは、行列のできる法律相談室ってテレビ始まったじゃないですか。あれをやって、どういう変化が起きたかというと、司法試験の受験者がもの凄い増えたというわけですね。

 なぜかと聞いたら、弁護士って何言ってもいいんだよね、色んな考え方あるんだよね。今までは弁護士っていうのはみな同じこと言うと思ってたと。答えは一つだけだと思ってた。あの番組を見たら、3人が3人とも違う答えを言う。で、喧嘩始めると。すごく野蛮な世界だなと。そうすると、皆さんが「いや、俺もできるんじゃないか」って思ってくれたと。それで、今や色んな職業をやった経験を持つ人たちが弁護士になりつつあるのです。

 そういう意味では、起業する時に必要なのは、本当にやる気があって、法律の知識を持って支えてくれる人。危険な時には危険だって言ってくれる人を探し求めなければならない。だから一回起業して、痛い思いをしたから止めてしまうという話ではないのです。原因の一つとして、弁護士が悪かったということも考えられる。弁理士さんが悪かったのかもしれない……ということが、まったく無いとは言えない。それを含めて、逞しく色んな活路を見出していかなくてはいけない。

 皆さん自信を持っていいんじゃないかなと思います。図々しいくらの自信を持ってください。ただ、相手に対する尊敬と誠実さ、これだけは忘れてはダメだすよ。図々しいだけじゃちょっとね、相手にしてくれなくなりますから。「もう、帰れ」っていう風に言われてしまいますので、そこは誠実に、地道にやっていくと、「もう、しょうがねえな」って言いながら助けてくれるところはあるので、是非その意味では自信を持ってやっていただきたいなと思います。

上條: 専門家はですね、特に、起業の時点でご相談くださる皆さんのビジネスの内容や、何をゴールにしたいかということの全部はわからないわけですね。正直に言うと、すべてはわからない。ですからそこは、守秘義務って、我々専門家は持っていますので、信頼していただいて、オープンにお話していただいて、何をゴールにしたい、これを実現したいから相談に来たのだという事をきちんと分かち合っていただいた上で、コミュニケーションを取れることが重要だと思います。

 自分も相手も調子がいいというか、困っていない時には皆オープンで、正直で、特に何のストレスもないコミュニケーションが取れるんですけど、人間って窮地に追い込まれたり、困ったり、いざとなると、その人の度量とか器の大きさというのが出るんですね。実際に起業されている方を見させていただいていると、そう感じます。

 困った時、自分が窮地に追い込まれた時に、その問題についても勇気を持って素直にシェアしていただけるかどうか。自分がダメな状況に追い込まれると、隠したり、逃げたくなったりと、人間の切迫した心理をあえて申し上げるのですけども、ビジネスの場面ではすごく出るのです。そうなった時に、やはり勇気を出して、困ってることでもシェアしていただいて、本気で問題を解決しようと思っているのだという決意を見せてもらえたら、初めてこちらも「その場合はこうしたらいいよ」と言えます。

 そうした信頼に基づく危機対応ができる関係を築くために、いつも会社の置かれている状態について、弁護士さん、弁理士さん、さらに投資家の皆さんとも透明性を担保した情報共有をしていくことが、起業家として成功する上では一番大事なことだと思っています。

PROFILE

牧野 二郎 弁護士
中央大学法学部卒業、1983年に弁護士登録。
1996年よりインターネット上で法律相談開始。同年インターネット弁護士協議会設立し同代表に就任。2005年より中央大学法科大学院講師。2006年より内閣官房情報セキュリティセンター企業・個人評価指標専門委員会委員。2008年より情報保全教育に関する調査委員会委員(内閣官房)。現在 財団法人インターネット協会評議委員、電子署名電子認証シンポジウムタスクフォース代表、電子署名・認証利用パートナーシップ運営委員、龍谷大学客員教授、日本内部統制研究学会幹事、東京大学大学院情報学環・非常勤講師、電子記録マネージメントコンソーシアム(ERMC)会長。

上條 由紀子 弁理士
慶應義塾大学大学院理工学研究科博士前期課程修了、慶應義塾中等部理科講師を経て、2000年弁理士登録。
同年、太陽国際特許事務所入所。東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構専任講師を歴任後、2009年4月より金沢工業大学大学院准教授に着任。現在、東京農工大学大学院非常勤講師、日本弁理士会知財経営コンサルティング委員会委員、内閣官房知的財産戦略本部知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会委員、総務省情報通信審議会専門委員。知的財産マネジメント研究会(SMIPS)知財キャリア分科会オーガナイザー。