第5回 牧野二郎弁護士と上條由紀子弁理士による法律と知財に関する対話 ~アグロスパシア・キックオフ・セミナー~
2013年2月22日、アグロスパシア株式会社はIT関連の知識が豊富な法人法務の第一人者、牧野二郎弁護士(牧野総合法律事務所 弁護士法人)をお招きし、コメンテーターには金沢工業大学大学院知的創造システム専攻准教授/太陽国際特許事務所の上條由紀子弁理士をお迎えして、キックオフ・セミナー、「法律と知財: 起業する前にこれだけは知っておきたい!」を開催しました。
本記事はセミナー内容を書き起こし、編集を加えたものです。
コンプライアンスと人情・度量のバランス
牧野: 若い弁護士に模範解答聞いちゃうと、厳しい事ばかり言われて起業が成り立っていかないことがあります。要するに、コンプライアンスを全部やりなさいって言われたら、死ぬほど前に進まないわけですよ。
よく知られたお菓子の商標をめぐる話で、「白い恋人たち」Vs.「面白い恋人たち」という騒動がありましたよね。弁護士10人聞いたら10人とも「商標権違反だと思いますよ、やめた方がいいですよ」って言うわけです。なのに、やった方が実は勝つわけじゃないですか。それぐらいの度量というか、迫力があってもいいよねと思うところもあります。
最後の最後に、顧問弁護士みたいな方が首根っこ掴まえて、「お前、刑務所行くから絶対止めとけ」というような時は、ちゃんと聞き入れて欲しいわけだけれども、それ以外のところはギリギリのとこまでいくという覚悟は持ってやらないといけないんじゃないかな。
……というのはですね、著作権法に違反するかもしれないなということは、ポピュラー音楽などではけっこうよくある話なのです。ヒットしてから、「アレ、この曲のこの部分、あの曲のパクリじゃないの」って指摘されることが起きる。そして、作曲家のところへ行って、ちゃんとごめんなさいすると「いいよ、いいよ」って笑ってごまかしてくれるという世界もあるわけですよ。
そうすると、違法行為だから、あるいは著作権の問題があるから、あるいは特許の問題があるから絶対やっちゃいかんのかと言うと、それだけではない部分もある。できるだけちゃんとオリジナルには尊敬をしてね、違法行為はやらない方がいいけれども、それしかなかったら……ということもあるわけです。そして、また、「面白い恋人たち」のように、そういったものがマーケットで受けることがしばしばあるわけで、これが、よくわからない。
結構、面白いんですよ。失敗して、事業失敗した時には訴訟なんか起きてきませんから。コストパフォーマンスを考えて訴訟は起こします。だから、取りようがない人相手では何もしないんですよ。逆に、成功した時が問題なんですね。成功するまでの違法行為の二つや三つは度量のうちともいえますが、成功した暁には、しっかり矜持を正す必要があるわけです。